対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

「光の電磁波説」の誕生2

2016-10-03 | εとμの複合
マクスウェルの論文"A Dynamical Theory of Electromagnetic Field"がネットに公開されていることは知っていた。また、『電磁気の単位はこうして作られた』に、この論文の抄訳と解説がのっている。しかしこの論文の全貌は謎で難解だった。しばらく前に、マクスウェルの論文の全訳(「電磁場の動力学理論」)がネットにあることを知った。これで見通しがよくなった。前の考察では、「光の電磁波説」の誕生を歴史的にではなく論理的にたどった。ここでは「光の電磁波説」の誕生を"A Dynamical Theory of Electromagnetic Field"のなかで確認したいと思う。(「はじめに」より)

「光の電磁波説」の誕生2

ファラデーを追う

2016-09-19 | εとμの複合
広重徹『物理学史Ⅱ』によれば、"Thoughts on Ray Vibrations”(1846年)でファラデーは「物質があろうとなかろうと、現実に空間を満たしているものは力線しかなく、光を説明するための振動はこの力線の中に生ずるものではなかろうか」と推測したという。
磁気作用は横波の形で実際に伝播する(カルチェフ『マクスウェルの生涯』)。ファラデーの描像をマクスウェルは追う。
The conception of the propagation of transverse magnetic disturbances to the exclusion of normal ones is distinctly set forth by Professor FARADAY in his "Thoughts on Ray Vibrations.” The electromagnetic theory of light, as proposed by him, is the same in substance as that which I have begun to develop in this paper, except that in 1846 there were no data to calculate the velocity of propagation.(A Dynamical Theory of Electromagnetic Field)
普通のもの(縦波)を除外して横波の磁気擾乱の伝播という着想は、ファラデー(Faraday) 教授によって彼の「光線振動に関する考察」にはっきりと述べられた。光の電磁場理論は、彼によって提案されたように、1846年には伝播速度を計算するデータがなかったことを除けば、私がこの論文で発展させ始めたものと実質的には同じものである。(Kazumoto Iguchi訳)


マクスウェルの電磁場

2016-09-14 | εとμの複合
広重徹氏は『物理学史Ⅱ』でマクスウェルの電磁場を次のように位置づけている。
(引用はじめ)
このようにMaxwellにあっては、電磁場とは、エーテルを特殊の場合として含む誘電媒質のある力学的状態として把握されていた。Maxwellの考えた電磁場は、物質的実体のとる一つの状態であり、つねに物質(エーテルを含めて)にになわれてのみ存在する。電磁場は、いわばある実体の属性であって、こんにちのわれわれが考えるように、それ自体が独立の物理的実体ではなかったのである。
(引用おわり)
次に英文と和文を引用する。
英文はA Dynamical Theory of Electromagnetic Field(電磁場の動力学理論)で、マクスウェルが提起する理論を電磁場の動力学理論とよぶ理由を説明している個所である。和文はその広重徹氏の翻訳である。
The theory I propose may therefore be called a theory of the Electromagnetic Field, because it has to do with the space in the neighbourhood of the electric or magnetic bodies, and it may be called a Dynamical Theory, because it assumes that in that space there is matter in motion, by which the observed electromagnetic phenomena are produced.
The electromagnetic field is that part of space which contains and surrounds bodies in electric or magnetic conditions.
…この理論は、それが電気的または磁気的物体の周囲の空間を扱わねばならないから、電磁場の理論とよばれ、観測される電磁現象を生みだすような運動をしている物質がその空間に存在することを仮定するから、動力学的理論とよぶことができるであろう。
電磁場とは、電気的あるいは磁気的条件にある物体を含み、かつそれをとりまく空間の部分である。

歴史のなかのマクスウェル

2016-09-13 | εとμの複合
カルチェフの『マクスウェルの生涯』を読んでいて、最初は驚き、次にはあり得ることだと思ったことがある。『電磁場の動力学理論』(1864年)において、マクスウェルは「電磁波」とはいうものの、「磁波」しか考えておらず、「電波」については気づいていなかったというのである。1864年までは、マクスウェルは「磁場のみが現れる式」しか導いていなかったことになる。
(引用はじめ)
マクスウェルが『電磁場の力学理論』の中で、自分の方程式を導き出したとき、その方程式のうちの一つは、まさにファラデーが述べていたこと、つまり、磁気作用は横波の形で実際に伝播するということを証明しているように思われた。
そのときには、まだマクスウェルは彼の方程式からさらに、磁気作用とともに電気的な擾乱も四方八方に広がるということが当然の帰結として出てくることに気づいていなかったようだ。
「波は、ただ磁気的擾乱からのみ成り立っています」とマクスウェルは、かれの式から与えられる帰結の一つに気付かずに書いている。
(引用おわり)
『電磁場の動力学理論』(A Dynamical Theory of Electromagnetic Field)はネットで公開されている。読みぬく力はもちろんないのだが、興味あるところを眺めている。
「波は、ただ磁気的擾乱からのみ成り立っています」。たしかにマクスウェルは書いていた。
This wave consists entirely of magnetic disturbances,….

「ε と μ の複合――マクスウェルの弁証法」

不適切な記号だった。

2016-09-08 | εとμの複合
静電単位で測定した電気量と静電単位の電気量、また電磁単位で測定した電気量と電磁単位の電気量を最初は区別できていなかった。頭のなかで区別できるようになったあとでも、c=Qm/Qs(電気量)とc=Qs/Qm(測定値)と表示していて、他者には通じないままであった。
静電単位の電気量をqs、静電単位で測定した電気量をQsとする。また電磁単位の電気量をqm、電磁単位で測定した電気量Qmとする(Y先生の指摘)。
同じ電気量をそれぞれの単位で測定するとQsqs=Qmqmである。
したがって、Qs/Qm=qm/qsとなる。
c(光の速度)をめぐる「電磁単位」と「静電単位」の関係、いいかえればcをめぐるMöbiuSの輪は、Qm/Qs(電気量)とQs/Qm(測定値)の表裏一体ではなく、qm/qs とQs/Qmの表裏一体である。

c=Qm/Qsはc=Qs/Qmだった。

「光の電磁波説」の誕生

2016-06-06 | εとμの複合
今日、「数学・物理通信6-6」が届いた。

「光の電磁波説」の誕生
The Birth of“ Electromagnetic Theory of Light ”
数学・物理通信6-6
この2番目の論文です。

あとがき
4月の中旬に投稿したが、すぐに改訂の要請があった。疑問点と改善点がまとめてあった。改訂、コメント、改訂、コメント、改訂。3度書き直した。「ボタンの掛け違え」に気づいたのは5月入ってからである。このような形でまとまったのは矢野忠氏のコメントのおかげであると思っている。





ボタンの掛け違え

2016-05-11 | εとμの複合
昨年の年末に、「誘電率と透磁率」と「静電単位と電磁単位」が繋がるのではないかと思われた。『電磁気の単位はこうして作られた』(木幡重雄著)の7章に糸口があるように思ったのである。そこで考察を再開した。しかしこのとき私は静電単位での電気量esを静電単位の電気量と、また電磁単位での電気量emを電磁単位の電気量と思い込んでしまっていた。基礎がなかったのである。いわばボタンを掛け違えたまま、誤解による誤った「問題」を解こうとしてきた。半年ほどたって最後のボタンのボタンホールがないことがわかった。Yさんの注意によって、誤りに気づくことができた。カテゴリー「εとμの複合」の記事はそんなわけでボタンとボタンホールがずれていることを断わっておきたいと思う。正しく対応した「誘電率と透磁率」と「静電単位と電磁単位」の繋がりはいずれ公にされると思う。

マクスウェルのひらめき

2016-04-26 | εとμの複合
インターネットにはマクスウェルの論文が公開されている。例えば、1865年の“A Dynamical Theory of the Electromagnetic Field”(「電磁場の動力学的理論」)、1873年の“A Treatise on Electricity and Magnetism” (『電磁気論』)がある。もちろん、読んでもわからないのだが、自分の関心がある個所があると立ち止まって考えてみる。
マクスウェルは『電磁気論』のなかでnを「number of electrostatic units of electricity in one electromagnetic unit」と仮定してnが速度になることを導いていた。それを参考にして記事(「光の電磁波説」の誕生)を書いた。この「number of electrostatic units of electricity in one electromagnetic unit」(1・Qm=n・Qs , 1電磁単位=n静電単位)は「電磁気論」の中だけかと思い込んでいたが、同じ表現が「電磁場の動力学的理論」の中にも出ていた。ただこちらではnではなくvと設定してある(1・Qm=v・Qs)。当然、なくてはならない設定である。この設定から電磁波の速度の式と1856年の実験を結びつけている。
「電磁場の動力学的理論」に次のようにある。
By the electromagnetic experiments of MM.WEBER and KOHLRAUSCH,
     v=310,740,000 meters per second
is the number of electrostatic units in one electromagnetic unit of electricity,and this,according to our result,should be equal to the velocity of light in air or vacuum.
電磁単位と静電単位の比は光の速度である。これがマクスウェルのひらめきだったのではないだろうか。

c=Qm/Qsはc=Qs/Qmだった。

2016-04-12 | εとμの複合
私は1856年の実験の結果をc=Qm/Qsと考えてきた。これは電磁単位と静電単位の電気量の大きさの比がQm/Qs=c(光の速度)であることに基づいていた。電磁単位の電気量の大きさは、静電単位の電気量の大きさのc倍なのである。この視点からc=Qm/Qsと考えてきたのである。そしてここを根拠に木幡重雄・セグレらのc=Qs/Qmに疑問をもってきた。しかし、1856年の実験は「同じ電気量」を静電単位の大きさと電磁単位の大きさで比べたものである。静電単位の大きさは電磁単位の大きさの1/c倍である。それゆえ、同じ電気量を測定すれば、静電単位で測定したものは電磁単位で測定したもののc倍になる。つまりc=Qs/Qm。これが1856年の実験の正しい表現ではないかとFさんに指摘された。たしかにそういう実験だった。c=Qs/Qmは実験内容を保存しているのである。納得できる。c=Qs/Qmも電気量の大きさによる表現という先入観が誤った判断の原因だった。c=Qm/Qs(電気量)とc=Qs/Qm(測定値)は同じなのである。
c(光の速度)をめぐるQm(電磁単位)とQs(静電単位)、c=Qm/Qsはc=Qs/Qmになる。またc=Qs/Qmはc=Qm/Qsになる。Qm(電磁単位)とQs(静電単位)の比は表裏一体である。c(光の速度)をめぐるMöbiuSの輪。