対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

5°18′はどこの角度なのか

2019-08-30 | 楕円幻想
『新天文学』の本文や訳注などを読むかぎり、「視覚的均差」は離心円上で位置づけるものであることは疑いようもない。しかし、山本義隆や酒井邦嘉はそれぞれの本(『世界の見方の転換3』、『高校数学でわかるアインシュタイン』)で楕円上に位置づけている。
2人の展開を確認しておこう。酒井邦嘉について疑問に思っているのは、次の図と次の式である。

a/b=1.00429=1/cos(5°18′) 

山本義隆については、次の図と次の説明である。

「さらなる新しい局面への突破口は、ここで火星-太陽間の距離が、先に述べた「直径距離」で与えられることに偶然気づいたことにある。そのことをケプラーは、離心アノーマリーが90度になり火星軌道が円からもっとも外れたときの三日月の幅(図のEF間の距離)が離心円の半径a=BFBEの誤植 引用者注)の0.00429倍であること、そのとき∠BFAが5度18分で、そのセカント(余弦の逆数つまり1/cos5°18′)が1.00429であることからひらめいたと証言している。つまりFB=(1-0.00429)aにたいして
FA=FBsec(5°18′)=(1-0.00429) (1+0.00429)a≒a=EB
に気づき、この「新しい光に眠りから覚まされた」のである。」

このように2人とも視覚的均差5°18´を楕円上に位置づけているのである。ここではケプラーを引用することなく、正割1.00429だけを目印に視覚的均差5°18´はどこの角度かを判断してもらいたいと思う。

まず、正割について確認しておこう。直角三角形ABC(∠Cが直角)において、AB(斜辺) と BC(底辺) の長さの比(BC/AB)は余弦(コサイン)cosBだが、その逆数(AB/BC)が正割(セカント)secB である。

secB=1/ cosB=AB/BC

さて、ここで単純な図を提示してみよう。

Eは離心円上の点、Fは楕円上の点、Bは離心円の中心、Aは太陽である。上の2つの図の中心部分である。上2つの図には太陽Aと離心円上の点Eを結ぶ線はないが、ケプラーの図ではEAは結ばれている。
ここには、2つの直角三角形がある。直角三角形FBAと直角三角形EBAである。実は、この図のすべての線分は長さが決まっている。それを取り出してみよう。
離心円の半径EBは1、離心距離BAは0.09265、切り取る三日月の幅EFは0.00429である。これをもとに、直角三角形に着目し三平方の定理を使って、FA、EAを求めることができる。
直角三角形FBAに着目して、
FA2=(1-0.00429)2+0.092652より、
FA=1.00001≒1
直角三角形EBAに着目して、
EA2=12+0.092652より、
EA=1.00428≒1.00429

まとめると、FA=1、EA=1.00429である。また、FB=(1-0.00429)=0.99571である。

山本義隆も酒井邦嘉も直角三角形FBAにおいて、∠BFAを5°18′と考えている。正割はFA/FB=1/0.99571になる。この計算は難しいが、これを1.00429と想定している。実際計算してみると、1.00431で近似値を示すが、1/0.99571に「新しい光」を見たとはとても思えない。
それよりも、直角三角形EBAにおいて、∠BEAに5°18′をみて、正割EA/EB=1.00429/1を1.00429と考える方が自然ではないだろうか。

実際、ケプラーが最大の視覚的均差5°18′の正割1.00429を見ていた直角三角形は△EBAであって△FBAではなかった。最大の視覚的均差5°18′は∠BEA(離心円上)であって、∠BFA(楕円上)ではなかったのである。

ケプラーは「平均的な長さを取る所で正割の代りに半径を用いると観測結果のとおりとなる」と述べた。正割EA(1.00429)の代わりに半径EB(1)を用いると観測結果FA(1)になると気づいたのである。ケプラーの発見は「円から楕円へ」と特徴づけられる。その最もコンパクトな表現がここにある。最大の視覚的均差5°18′は離心円上にあったのである。

山本義隆も酒井邦嘉もケプラーの発見の核心を捉えていないのである。




三日月の幅の増減をたどる

2019-08-29 | 楕円幻想
離心円から切り取るべき三日月の幅は増減する。遠心点Hで0、そこから徐々に大きくなり、E点で最大値(0.00429)をとり、そこから徐々に小さくなって、近日点Iで0となる。
一般的な三日月の幅を求めることによって、この増減を把握してみよう。視覚的均差が楕円上ではなく離心円上にあることを納得していただけるのではないかと思う。

一般的な三日月の幅KMを求める。離心円の半径を1、離心率をeとする。

KMKLMLである。
KLは△KLBに着目して、KL=sinβ
MLは△MLAに着目する。
ML2MA2AL2
ここで、ケプラーの方法を確認しておこう。β=90度のとき、直角三角形EBAに着目した。
火星と太陽の距離FAとして、正割EAではなく半径EB(=1)を用いることによって、FA=1とした。
K点では直角三角形KTAに着目することになる。火星と太陽の距離MAとして、正割KAではなく半径(直径距離)KTを用いる。MAKTである。

KTKBBT
=1+ecosβ
また、ALABBL
e+cosβ
である。
したがって、
ML2MA2AL2
KT2AL2
=(1+ecosβ)2-(e+cosβ)2
=(1-e2)(1-cosβ2
=(1-e2)sinβ2
したがって、ML=√(1-e2)sinβ
したがって、一般的な三日月の幅KMは、
KMKLML
=sinβ-√(1-e2)sinβ
=sinβ(1-√(1-e2))
これが一般的な三日月の幅の式になる。また、KL:ML=1: √(1-e2)である。

ここで、√(1-e2)の近似式を考える。e2まで(e2の1次までの)の近似すると
√(1-e2)=1-1/2・e2
したがって、
(1-√(1-e2))
=1-(1-1/2・e2
=1/2・e2
したがって、一般的な三日月の幅の式は、
KM=sinβ・(1/2・e2)
となる。
離心アノマリアβが0°から180°へと大きくなるにつれて、離心円から一定の割合(sinβ)で三日月が切り取られる。90°で最大の幅1/2・e2(=0.00429)が切り取られて、楕円軌道が描かれていく過程をたどることができる。

離心アノマリアβが45°と135°のとき、三日月の幅を計算してみると、(1/√2)×0.00429=0.00303になる。ふりかえってみると、火星の方向(真アノマリアα)は、計算(離心円)と観測(ティコ・ブラエ)では角度にして8分の違いがあったが、そのときの8分の違いの原因がこの三日月の幅だったことになる。

「視覚的均差」の位置づけ

2019-08-28 | 楕円幻想
「視覚的均差」は出発点となる離心円上に位置づけるものなのか、それとも到達点となる楕円上に位置づけるものなのか。
『新天文学』の本文や訳注などを読むかぎり、「視覚的均差」は離心円上で位置づけるものであることは疑いようもない。しかし、山本義隆や酒井邦嘉はそれぞれの本で楕円上に位置づけている。両者は物理や物理学史の専門家、こちらは素人なので、実際のところ、どうなのだろうかと思ったりしていた。同じ専門家でも都築正信は離心円上に位置づけている。
視覚的均差は『新天文学』56章で次のように出てくる。
(引用はじめ)
恐る恐るこういう考えに転じて、改めて考えてみると第45章では意味のあることは何ひとつ述べていなかったから、火星に対する私の勝利はむなしいものだったと思ううちに、全く偶然に最大の視覚的均差を測り取った5°18´という角度の正割に思い至った。この値が100429であることを見たとき、まるで新たな光のもと、眠りから目覚めたかのように、以下の推論をし始めた。
(引用おわり)
「視覚的均差」はケプラーの推論の核心にある。しばらく山本や酒井、それにカテゴリー「楕円幻想」にある記事やホームページ「対話とアウフヘーベン」にまとめた「楕円幻想――ケプラーの楕円発見について」を読み直した。わたしの方がケプラーの推論を捉えているように思われた。山本や酒井の展開は、「平均的な長さを取る所で正割の代りに半径を用いる」(ケプラー)とまったく対応していない。「視覚的均差」の位置づけは、わたしや都築が正しく、山本や酒井は誤っていると思う。

「楕円幻想――ケプラーの楕円発見について」new

横谷峡の4つの滝

2019-08-27 | 飛騨
横谷峡には4つの滝がある。何年か前の家族旅行の帰りに滝を見に行った。最初の白滝と次の二見滝は見たが、三番目の滝までの距離が800メートルほどあって、あと二つはあきらめてしまった。今年はそのリベンジをすることになった。ひそかな人気だった。何組かの家族連れや二人連れにあった。

山のなかはミンミンゼミの大合唱である。ツクツクボウシの声も聞こえた。渓流の白や緑や青や透明な水の色。流れの音も心地よい。道には崩れた岩があちこちにあった。上り坂なのでかなりの運動量のはずだが、汗もそれほどかかず、むしろ清涼感を感じていた。途中、川沿いの遊歩道から出てきた地元の人がいた。ヒルの被害にあって、ちょうどヒルを見つけた時で、わたしたちにヒルを見せてくれた。思っていたより、小さかった。何匹かいて、そのうちの1匹は立ち上がっていた。

3番目の紅葉滝。音とともに流れ落ちる滝の水。滝つぼに近づく。しぶきが飛んでくる。ミストがひろがっている。小学生の子供が滝に向かって石を投げていた。
4番目の鶏鳴滝は落差33メートル。4つのうち一番高い。今回のメインである。老夫婦が腰かけて滝を眺めていた。場所によってはしぶきでびしょぬれである。これはミストというよりミセストだろうか。
3人とも大満足で降りてきた。帰りは行きより短く感じるとか、こんど来るときは黄金姫パークの方を歩きたいとか話しながら。見に来てよかったと思う。

横谷峡の4つの滝(西エリア)

金山巨石群

2019-08-26 | 飛騨
はじめてここを訪れたとき、こんなところに、こんなものが、よくもあったものだと感動したものである。何の情報もなかった。何年か前、夏の終わりに行く家族旅行の帰りに立ち寄った。
それ以降、何回かそばを通ったのだが、立ち寄ることはなかった。しかし、今年は久しぶりに立ち寄った。訪れたとき、わたしたち家族だけだったが、巨石群を見ていると、1台観光バスがやってきた。大勢の観光客が出てきた。これまでなかったことなので、ひそかな人気があるものだと感心していた。するともう1台、観光バスがやってきた。金山町で観光を売りに出しているようなのだ。
巨石群は縄文時代の天体観測所だったのではないかといわれている。特定の日(春分、夏至、秋分、冬至)に岩の隙間から太陽の光が差し込むように設計されているというのである。事実かどうかは別として、やはり巨石の存在は圧倒的であった。

金山巨石群

脱出速度の地表における条件

2019-08-22 | ノート
地球から脱出するときの地表の条件について補充しておこう。そして、重力加速度gを使って、脱出速度を計算しておこう。

地球の質量をM〔Kg〕、半径をR〔m〕とする。また、地上でv0〔m/s〕の初速度をもつ質量m〔Kg〕の物体が、地球の中心からr〔m〕だけ離れた点に来たときの速度をv〔m/s〕とする。
力学的エネルギー(運動エネルギーK+位置エネルギーU)保存則より、
1/2・mv02-G・Mm/R=1/2・mv2-G・Mm/r=一定
rが大きくなるにつれ、位置エネルギー-G・Mm/rは大きくなると同時に、運動エネルギー1/2・mv2は小さくなる。脱出できるのは、r=∞(U=0)においても、運動エネルギーK(1/2・mv2)≧0のときである。いいかえれば、r=∞のとき、エネルギー保存則の一定値は負の値にならなければよい。
したがって、地球から脱出できるためには、地表において、
1/2・mv02-G・Mm/R≧0
でなければならない。すなわち、
1/2・mv02≧G・Mm/R
したがって、
v0≧√(2GM/R)=√(2gR) (GM=gR2より)注
これに、g=9.8〔m/s2〕、R=6.4×106〔m〕を代入すると、
v0≧11.2×10 3〔m〕=11.2〔㎞/s〕
となる。


地表上の質量mの物体の重力(重さ)は、その物体に働く万有引力の大きさに等しい。
mg=G・Mm/R2
g=GM/R2
GM=gR2

「チャート式新物理」(数研出版)参照

天体のシュヴァルツシルト半径

2019-08-21 | ノート
次のような公式がある。(「一般相対性理論への招待」レジュメより)
(引用はじめ)
質量Mの天体のシュヴァルツシルト半径(地平線のサイズ)
R=2GM/c2
=3×ブラックホールの質量/太陽の質量〔㎞〕
ブラックホールの半径は、
→質量に比例する
→例えば、太陽なら3㎞
→太陽の1000倍の重さなら、3000㎞

(引用おわり)
R=2GM/c2は、天体(質量M)からの脱出速度をc(光速)とすれば求めることができる。(「地球のシュヴァルツシルト半径」参照)
次の式は太陽の質量を基準に、シュヴァルツシルト半径(地平線のサイズ)を求めるものである。太陽の質量は2.0×1030㎏である。
G=6.7×10-11、c=3×108より、
R=2×6.7×10-11×M/(3×108)2
=1.5×10-27×M
=3×M×103/2.0×1030 〔m〕
=3×ブラックホールの質量/太陽の質量〔㎞〕

地球は太陽の33万分の1(M=6.0×1024㎏)、
地球のシュヴァルツシルト半径は3×1/33万、0.000009㎞で、9㎜。
木星は太陽の1000分の1(M=1.9×1027㎏)、
木星のシュヴァルツシルト半径は3×1/1000、0.003㎞で、3m。




マンゴーの若葉

2019-08-20 | マンゴーの栽培記録
茎は13センチほどに伸びた。手前の若葉は10センチほどである。黄緑の葉は最初に出てきたが、成長はしなかったようだ。しかし、成熟したということだろう。赤褐色の大きな葉もしばらくしたら緑になるものと思われる。

アップルマンゴーは、耐寒性はあるらしい。しかし、日本では地植えに向かないようだ。冬を越せない。鉢のまま今年はずっとやってみる。

地球のシュヴァルツシルト半径

2019-08-19 | ノート
物質の密度を高めていくと、ある半径より小さくなると表面の重力が強くなり、光が逃れられなくなる。物質はいわゆるブラックホールになる。このときの半径をシュヴァルツシルト半径という。その物質の地平線の大きさである。
地球のシュヴァルツシルト半径を計算してみよう。

高校物理で第2宇宙速度(脱出速度)を学ぶ。力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)保存則を利用して、地表における条件
1/2・mv02-G・Mm/R≧0
から
v0≧√(2GM/R)
が出てくる。
ここで、Gは重力定数、Mは地球の質量、Rは地球の半径である。
G=6.7×10-11 〔m3/(Kg・s2)〕
M=6.6×1024 〔Kg〕
R=6.0×106  〔m〕
これらの数値を代入して、
v0=√(1.26×108)
=1.1×104 〔m/s〕
=11 〔km/s〕
脱出速度(第2宇宙速度)が11㎞/sであることがわかる。

いま、脱出速度が光の速度(秒速30万㎞=c)と想定し、そのときの半径をrとしよう。
c=√(2GM/r)
rについて解くと、
r = 2GM/c2
になる。
ここに
G(重力定数)=6.7×10-11 〔m3/(Kg・s2)〕
M(地球の質量)=6.6×1024 〔Kg〕
c(光の速度)=3×108 〔m/s〕
を代入すると、
r=8.9×10-3 〔m〕
=0.89 〔㎝〕
地球のシュヴァルツシルト半径は1㎝ほどである。青い地球が黒くなる。