怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

石原慎太郎「天才」

2021-12-20 07:40:36 | 
どちらかと言うと石原慎太郎のタカ派の政治姿勢は支持できないし、新銀行東京の結末とか都知事としての評価すべき実績は何があるのだろうか分からない。
彼がどうして圧倒的な強さで知事選を勝ち抜いて行ったのかは、トランプ現象と同じようなことで正直理解できないと言うか理解したくない。
そんな訳で食わず嫌いで石原慎太郎の小説を読んだことがない。
議員時代は反角栄の急先鋒で、金権政治を批判していたはずのそんな彼が「天才」で田中角栄を小説にしたと言うので興味はあったのですが、あえて読むまでもないかと思っていた。
でも暇つぶしに図書館で本を物色していると目に入り思わず借りてしまった。とにかく字が大きくて読みやすいのが決め手だったかな。

田中角栄の一人称の独白と言う形式で生い立ちから亡くなるまでをたどっているのですが、幼少期から政治家になるまでに結構ページを割いていて、政治家田中角栄を生み出した背景を丁寧に描き出しているのはさすが文学者の視点と説得力ある筆力。
意外だったのは、ロッキード事件についての記述。
この小説での角栄の独白が慎太郎の意見そのものでは勿論ないのだろうけど、あくまでロッキード事件はアメリカから自立しようと画策した角栄を追い落とすためのアメリカのフレームアップ。
不可解な証拠文書の出現に日本の裁判では反論ができない証言、それを利用して自らの立場を強化しようと蠢く魑魅魍魎たちという政治の裏側。
現職の総理大臣が一企業の口利きをするなんて言うのはあり得ない。当時は選挙と言うと巨額な金が動いていて3億円ばかりの金のことを角栄本人は気にも留めていなかった…
当時石原自身があれだけ批判していたのに、なぜ今になってこういう本を上梓するのかがよく分からない。石原としては田中金権政治は批判しても、アメリカに対してノーと言えることは日本の自立のためには必要で、その面では評価するし、アメリカの虎の尾を踏んだ犠牲者と言う理解なのか。
田中角栄の無罪論とともに抜群の能力と行動力、その功績については田中批判本と同じくらい数多の本がある。
今太閤と言われるまでに地盤、看板になしに己が才覚とカバン(金)でライバルたちを蹴散らかし、総理大臣まで上り詰め、そこから暗転して刑事被告人になるまでの軌跡は文学者の本能を刺激するのだろうが、角栄の心情と情念を抉り出そうとしている。
ただ、角栄の功罪を問う時、コンピューター付きブルドーザーと言われ数々の議員立法を成立させ、官僚を使いこなし、日中国交回復をはじめとする大きな業績を上げたこととともに、金権体質とロッキード事件だけでなく立花隆が暴いたいろいろな錬金術をきちんと評価しないと角栄の全体像を評価できないのではないだろうか。小説なので当然ながら新たなファクトはないのですが、それを考慮しても数多の角栄論の中での秀逸の田中角栄論と言えるかどうか。
それでも、今になっても80歳を超えた文学者の創作意欲を刺激する田中角栄と言う存在は稀有の天才だったのだろう。
多分、石原自身は議員時代に田中角栄から金をもらったことがないだけに、こうやって小説をものにすることができたのだろうけど、それは当時の政治家の中では与野党を通じて少数派だったのでしょう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12月の株主優待あれこれ | トップ | 12月19日鶴舞公園テニス... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事