怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

内館牧子「今度生まれたら」

2022-07-15 07:10:46 | 
内館牧子さんの「老後」小説の第3弾。
実はNHKのBSのドラマで初めて知りました。
松坂慶子が主演で、風間杜夫が亭主役。松坂慶子も70歳の役が丁度良くなったのでしょうか…
そう思いつつ、つい毎回見てしまいました。

ドラマを見てから読んでみると基本的な設定は同じでも、ドラマにするにあたって映像に花を持たせる為か、盛り上げるためか少しづつ脚色してある感じが分かります。弁護士の高梨と近所への児童養護施設建設の住民説明会でやりあう場面はまったくなかったですし、世界的園芸家になった小野敏男とは連絡は取りその後ボランティアの手助けをしてもらうものの、その会社で働くことはなく、キスしたとかの話もない。夫も一人暮らしになった息子のところへ転がり込んではいないし、次男は既にギター工房を持っていて、スペインに突然修行など行かない。
読んでいるとここが違うのかあそこも出てこないかと思いつつ、どうしてもドラマの出演者の顔が浮かんでくるので、想像力の羽ばたきの支障になりますしね。
内館さんの「老後」小説シリーズでは最初の「終わった人」に一番共感できる部分が多かったのですが、それは「終わった人」の主人公が男性で、「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」は女性だからなんでしょうか。
実際主人公の佐川夏江から語られる亭主への低い評価はわがことかと思いつつ身につまされるのですが、そういうならこちらでも言いたいことはいろいろあると思う次第。
佐川夏江は齢70歳にして、自分の年齢を自覚して人生を振り返るとこれでよかったのか、今度生まれたらどういう人生を歩もうと思うか、やり直したい気持ちが湧いてきます。高校時代は成績優秀で国立の千葉大の園芸学部にも入学可能だったのに、周囲の勧めや母親の「結婚しても子どもを連れて何時でも出て行けるような経済力をつけるための千葉大を受けなさい」(何という強烈なお言葉!表向きはともかく内心は我慢の結婚生活だったということ)の意見を無視して短大に進学し、一流企業に入り、これはというエリートに目をつけ見事射止め結婚。順風満帆で男の子二人にも恵まれたのだが、夫がある事件を引き起こして暗転。それでも生活には困ることなく子どもも無事一流企業に就職してここまで来た。しかし70にもなると母親の忠告もよく分かるし、一時園芸の仕事のパートに出るということを夫に強く反対され諦めたことも自分を生かす道を閉ざされたようでわだかまりがある。
夫は事件以後会社を辞め、翻訳の仕事で糊口をしのいできたのだが、自営業の悲しさかお金のことには細かくなり、妻からはケチと内心軽蔑されている。何か趣味でやることを見つけるのにもお金がかからない自治体のやる歩く会の「蟻んこ倶楽部」に入り、昔のワンゲル部の経験が生き、今では会長としてそこに打ち込んでいる。
妻にとってはなんとなく面白ない日々なんでしょう。でも人生の選択の後悔などは70にならなくても始終ある訳で、私はいつも生まれ変わることができたらこうしたのにと夢想していました。でも60歳を過ぎて思うのは、今の人生は偶然とどうしようもない出来事の中で織りなされたもので、その時々の選択の結果がどうこうではなく、奇跡のように決まってきたものだと感じています。もう一度同じ人生をおくるかと問われても、同じ人生を遅れるような偶然の奇跡はあり得ないと思っています。状況状況で最善の選択をと思っていても、正解は分からないし、その時こういう選択をしたというのも何となくというのが正直なところで確たる信念に基づいてなどと言うことはほとんどなかったのではないでしょうか。
今の人生は人生としてやりたいこと、出来ることをやっていくしかないということは確かです。
ところで、夏江の姉の信子(藤田弓子が演じています。これも年相応です)夫婦は毎週居酒屋へ二人で行くとかしょっちゅう旅行に行くとか高校時代の同級生から付き合っていて仲いいのですが、ある日突然夫から離婚を言われます。相手は同級生の中でも一番男に人気のあったぶりっ子の「バンビ」。同窓会に行きひょんなことから付き合いが始まり、バンビと暮らすことまでのめり込んでしまいます。夫にとっては高校生のころから憧れていてとても手の届かない相手と諦めていたのに、同窓会での再会で、やり直したい気持ちが抑えられなくなった…70過ぎの男としては体力も衰えているだろうし、今更離婚騒ぎを起こさずとも適当に付き合えばいいのではと狡猾に思うのです。もっともドラマではバンビをジュディオングが演じていて、言われるように見つめられると吸い込まれてしまうかも…でも小説ではさすがに70歳を過ぎると容色衰え、今までの人生の苦労が浮き出て、バンビではなくダチョウのようだと書かれていますけど。幸いなことに私は目を見つめると吸い込まれるように感じるだろう同級生はいないみたいなので、同窓会は安心して行けそうです。
まあ、いろいろ不平不満はあって、今度生まれたら絶対一緒にはならないと思っても、今となってはお互いを尊重しながら付き合っていくしかないのでしょうけど、これではきれいごと過ぎるか…

コメント
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