怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

池田清彦「進化論の最前線」

2020-03-13 15:28:46 | 
池田清彦先生というと「ホンマでっかTV」で、したり顔でホンマでっかという説を開陳する人で、その著書をレビューしたこともありますが、リバタリアンとしての社会批評的なものが多くて、ちょっと変わった評論家風。
それが今回は本職の生物学者として、今現在の進化論についてのまじめな解説。まじめな分だけ結構難しい言葉や概念が出てきたりして多少気合を入れて読まなければ。

因みに一緒の写っているのは浅田次郎の「長く高い壁」著者お得意の日華事変前後の中国を舞台にした小説ですが、今回は探偵小説家を狂言回しにした謎解き。浅田次郎の小説としては安定した面白さはあるのですが、期待値ほどではなかったかな。というか設定に無理があったのでどうも現実味が薄い…
閑話休題。私の記憶では学校で習った進化とは、突然変異によって新しく生じた遺伝子のうち、適応的なものは自然選択によって増加していき、非適応的なものは消滅していく、この繰り返しが進化というものだったはず。ダーウインの自然選択説とメンデルの遺伝学が融合したもので著者は「ネオダーウイニズム」と言っている。その主張は「突然変異」「獲得形質の遺伝の否定」「自然選択説」「遺伝的浮動」から成り立っている。
しかし、地球に生物が生まれてから、単細胞の細菌の進化は説明できても単細胞生物から多細胞生物へ、そして複雑なシステムの多細胞生物の大きな形態変化は説明できないことが多々ある。
ダーウインの進化論については当初からあの昆虫記の著者のファーブルが異議を唱えていたのですが、昆虫の生態を観察していると試行錯誤の上変異を繰り返して徐々に進化してきたとは考えられないのです。中途半端な本能行動は自然界で子孫を残すことができないので一気に構築されなければ生き残れないはずです。
生物の進化はネオダーウイニズムですべて整合的に説明できるほど単純ではないのです。
生物の最初の大きな進化である原核生物から真核生物への進化は細胞内共生説がほぼ正しいと言われていますが、これはミトコンドリアとか葉緑体などの細胞内小器官は細胞内に共生化した原核生物に由来するというものです。これは突然変異と自然選択により段階的に進化してきたのではなく、外界から入ってきた別の生物に対応することで原核生物から一気に進化したのです。もちろんこの取り込みがうまくいくためには数数えきれないようなパターンが試行錯誤されたのでしょうけど。
遺伝子についての研究を進んだことにより、遺伝子は同じでも生物の形質は同じではなく、遺伝子の働き方を制御するシステムも大きく関わってくるみたいです。世界はDNAだけを全て調べても分からない。著者の立場は構造主義進化論で、これは「細胞といった遺伝子を取り巻く環境(構造)のもとで同じ遺伝子の発現する場合でも、細胞内部や周囲の環境によって発動する機能に変化が生じる」ということです。
ところでDNAにはたんぱく質を作る情報を持たない「ノンコーディングDNA」というものがたくさんあり、これはジャンクDNAと言われていましたが、実はこの中に遺伝子の発現をコントロールする役割を担っている重要な部位があることが分かったのです。チンパンジーからヒトへの進化には、このノンコーディングDNAの消失が大きく関わっている可能性があるとか。
ゲノム編集の行く末とか人類の進化についての議論とかもあって、200ページに満たない新書本ですけど内容は盛りだくさんですので、詳しくは読んでください。
最近の分子生物学とか脳科学の進歩は著しいものがあって、福岡伸一とか池谷裕二の本を読むと本当に知的刺激を受けるのですが、この本も進化について知的を刺激を受けます。テレビを見ながらソファーで寝っ転がってではなかなか頭に入らないちょっと専門的に踏み込んだ内容ですが、テレビを消して気合を入れて読んでください。
コメント
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