この本には久しぶりに知的興奮を覚えました。
題名通り、内容は「AI」と「教科書が読めない子供たち」の二つの部分に分かれます。それぞれ単独でも十分に読みごたえがあります。
AIについては、諸説色々あって、シンギュラリティが近い将来来るだろうという説もある。AIでできることがどんどん増えて行けば、人間の仕事をすべて奪ってしまい、巷は失業者であふれるという説もある。
実際に、囲碁でも将棋でもAIが人間の名人に勝っています。巷では自動翻訳機なるものも出回っています。画像診断の世界では放射線診断をAIがおこなうなんてことも当たり前になるでしょう。人間にとって代わる日が近いと期待と不安は大きく高まってきています。
でもAIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であって、計算機は計算しかできない。
数学の世界での人間の認識や認識している事象の説明としての言葉は、論理、確率、統計という3つしかない。
論理はこの世界を演繹的にうまく説明できることが多い。とは言っても世界には論理だけでは説明できない事象も多い。
ランダムの要素が入って次に何が起こるか分からないことはあるのだが、確率の理論によって大量の数のうちにどれだけの割合である事象が起こるかが分かる。
それでもまだ表現できないこともあるのですが、観測可能な情報と過去のデータからそこに潜む規則性を何とか見出そうとするのが統計。
私達人間の知的営みは、すべて論理、確率、統計に置き換えることができるのか。一定の条件の枠内のゲームである囲碁とか将棋とか定型的な文章に特化した翻訳では威力を発揮するのですが、私たちの生きているこの世界には論理、確率、統計の言葉で表現できないことはあまりにも多い。ドフトエフスキーではないが世界は不条理に満ちている。そこには「意味」を記述する方法がない。
従って、AIは神にはならないし、シンギュラリティは来ないし、人類を滅ぼさない。
著者たちは「ロボットは東大に入れるか(略称;東ロボくん)」という人工知能プロジェクトに2011年から取り組んでいるのだが、そのことによってAIでできることと限界が明らかになっている。
結論から言えば、この東ロボのプロジェクトでセンター入試試験に挑戦して到達点は5教科8科目の偏差値57.1。と言うことは全国756大学のうち535大学で合格可能性80%以上の成績。MARCHや関関同立も入っています。でも東大に合格できる見通しは立たない。今のAIの延長では偏差値65の壁は越えられないのが著者の結論。
東ロボでも得意科目と不得意科目があって、それぞれの科目ごとに最も点が取りやすい違う攻略方法を取っていて、それはそれでまた大変面白いのですが詳しくは読んでください。
なかなか攻略ができない不得意科目が英語と国語。
私たちの日常には予測できないことで満ちていて、様々な場面で、常識柔軟性を働かせて問題を解決しなければいけない。そういった常識をもとに問題文が作られているので、国語と英語の問題を解くためには膨大な量の常識が必要で、それをいくらビックデータと言ってもロボットに教えることはとてつもなく難しいことになっている。英語チームが最終的に東ロボに学習させた英文は150億文に登ったのですが、英会話完成のための高々四択問題の正答率すら画期的に上げることができなかったのです。
因みに音声応答のsiriでは統計と確率を用いた自然言語処理の手法を用いていますが、「この近くの美味しいイタリヤ料理店」と「この近くのまずいイタリヤ料理店」では同じような店が表示される(今は改良されているかもしれません)とか。siriには美味しいとかまずいという意味を分からないので区別できません。情報検索は確率と統計で行っているので、文章の意味は分からなくても文章に出てくる既知の単語とその組み合わせから統計的に推測して正しそうな答えを出しているのです。siriは意味を理解していないので、持っている人はどんな質問をするとそれを暴けるかチャレンジしてみてください。
それでも東ロボが偏差値65まで行ったということは、ホワイトカラーの仕事のうち主に偏差値65以下の人が担っていた仕事はAIに置き換えられる可能性があること。人間もうかうかしていられません。
ところで、著者は東ロボプロジェクトと並行して「大学生数学基本調査」を行ったのですが、そこで大学生の基本的な読解力に疑問を持ち、「リーデイングスキルテスト(RST)を開発して協力してくれるところで実施しています。
この章はぜひ全国の教育関係者に読んで考えて頂きたいと思うのですが、これからAIに置き換えられることのないスキルを身につけるには絶対に必要な読解力の実態が分かります。
いつもこのブログは長くてくどいと言われていますので、(まあ、特にスマホではそうでしょう)ここでは結果から分かったことをまとめてあるので抜き出して書きます。
・中学校を卒業する段階で、約3割が表層的な読解もできない。
・学力中位の高校でも、内容を理解を擁する読解はできない。
・進学率100%の進学校でも、内容理解を擁する読解問題の正答率は50%強程度。
・読解能力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高い。
・読解能力値は中学生の間は平均的に向上する。
・読解能力値は高校では向上しない。
・読解能力値と家庭の経済状況は負の相関がある。
・通塾の有無と読解能力値は無関係。
・読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解能力には相関がない。
詳しくはぜひ著書を読んで頂きたいのですが、私達人間にしかできないことを考え、実行していくことが、唯一の生き延びる道と言われると読解力をどうやって身に着けさせたらいいか考えてしまいます。
因みに例題がありますのでぜひ挑戦して自分の読解力を試してみてください。
題名通り、内容は「AI」と「教科書が読めない子供たち」の二つの部分に分かれます。それぞれ単独でも十分に読みごたえがあります。
AIについては、諸説色々あって、シンギュラリティが近い将来来るだろうという説もある。AIでできることがどんどん増えて行けば、人間の仕事をすべて奪ってしまい、巷は失業者であふれるという説もある。
実際に、囲碁でも将棋でもAIが人間の名人に勝っています。巷では自動翻訳機なるものも出回っています。画像診断の世界では放射線診断をAIがおこなうなんてことも当たり前になるでしょう。人間にとって代わる日が近いと期待と不安は大きく高まってきています。
でもAIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であって、計算機は計算しかできない。
数学の世界での人間の認識や認識している事象の説明としての言葉は、論理、確率、統計という3つしかない。
論理はこの世界を演繹的にうまく説明できることが多い。とは言っても世界には論理だけでは説明できない事象も多い。
ランダムの要素が入って次に何が起こるか分からないことはあるのだが、確率の理論によって大量の数のうちにどれだけの割合である事象が起こるかが分かる。
それでもまだ表現できないこともあるのですが、観測可能な情報と過去のデータからそこに潜む規則性を何とか見出そうとするのが統計。
私達人間の知的営みは、すべて論理、確率、統計に置き換えることができるのか。一定の条件の枠内のゲームである囲碁とか将棋とか定型的な文章に特化した翻訳では威力を発揮するのですが、私たちの生きているこの世界には論理、確率、統計の言葉で表現できないことはあまりにも多い。ドフトエフスキーではないが世界は不条理に満ちている。そこには「意味」を記述する方法がない。
従って、AIは神にはならないし、シンギュラリティは来ないし、人類を滅ぼさない。
著者たちは「ロボットは東大に入れるか(略称;東ロボくん)」という人工知能プロジェクトに2011年から取り組んでいるのだが、そのことによってAIでできることと限界が明らかになっている。
結論から言えば、この東ロボのプロジェクトでセンター入試試験に挑戦して到達点は5教科8科目の偏差値57.1。と言うことは全国756大学のうち535大学で合格可能性80%以上の成績。MARCHや関関同立も入っています。でも東大に合格できる見通しは立たない。今のAIの延長では偏差値65の壁は越えられないのが著者の結論。
東ロボでも得意科目と不得意科目があって、それぞれの科目ごとに最も点が取りやすい違う攻略方法を取っていて、それはそれでまた大変面白いのですが詳しくは読んでください。
なかなか攻略ができない不得意科目が英語と国語。
私たちの日常には予測できないことで満ちていて、様々な場面で、常識柔軟性を働かせて問題を解決しなければいけない。そういった常識をもとに問題文が作られているので、国語と英語の問題を解くためには膨大な量の常識が必要で、それをいくらビックデータと言ってもロボットに教えることはとてつもなく難しいことになっている。英語チームが最終的に東ロボに学習させた英文は150億文に登ったのですが、英会話完成のための高々四択問題の正答率すら画期的に上げることができなかったのです。
因みに音声応答のsiriでは統計と確率を用いた自然言語処理の手法を用いていますが、「この近くの美味しいイタリヤ料理店」と「この近くのまずいイタリヤ料理店」では同じような店が表示される(今は改良されているかもしれません)とか。siriには美味しいとかまずいという意味を分からないので区別できません。情報検索は確率と統計で行っているので、文章の意味は分からなくても文章に出てくる既知の単語とその組み合わせから統計的に推測して正しそうな答えを出しているのです。siriは意味を理解していないので、持っている人はどんな質問をするとそれを暴けるかチャレンジしてみてください。
それでも東ロボが偏差値65まで行ったということは、ホワイトカラーの仕事のうち主に偏差値65以下の人が担っていた仕事はAIに置き換えられる可能性があること。人間もうかうかしていられません。
ところで、著者は東ロボプロジェクトと並行して「大学生数学基本調査」を行ったのですが、そこで大学生の基本的な読解力に疑問を持ち、「リーデイングスキルテスト(RST)を開発して協力してくれるところで実施しています。
この章はぜひ全国の教育関係者に読んで考えて頂きたいと思うのですが、これからAIに置き換えられることのないスキルを身につけるには絶対に必要な読解力の実態が分かります。
いつもこのブログは長くてくどいと言われていますので、(まあ、特にスマホではそうでしょう)ここでは結果から分かったことをまとめてあるので抜き出して書きます。
・中学校を卒業する段階で、約3割が表層的な読解もできない。
・学力中位の高校でも、内容を理解を擁する読解はできない。
・進学率100%の進学校でも、内容理解を擁する読解問題の正答率は50%強程度。
・読解能力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高い。
・読解能力値は中学生の間は平均的に向上する。
・読解能力値は高校では向上しない。
・読解能力値と家庭の経済状況は負の相関がある。
・通塾の有無と読解能力値は無関係。
・読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解能力には相関がない。
詳しくはぜひ著書を読んで頂きたいのですが、私達人間にしかできないことを考え、実行していくことが、唯一の生き延びる道と言われると読解力をどうやって身に着けさせたらいいか考えてしまいます。
因みに例題がありますのでぜひ挑戦して自分の読解力を試してみてください。