怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「農民国家中国の限界」川島博之

2018-08-24 20:40:52 | 
巷には中国に関する本が溢れていて、中国が世界一になるからすぐにでも経済が崩壊するまでその幅も広い。著者も言っているように日本人にとって歴史的な経緯もあってか中国は隣国でもあり、すごく気になる存在なんだけど冷静に見ることができない国なんだろう。
著者はアジアの環境問題を研究しており、中国経済の専門家ではないのだけど環境問題の調査で中国には何度も行き多くの中国人との知己を得てきている。その経験をもとに中国経済の発展をシステムとして捉えて分析したもの。
でも専門でない分、冷静に分析できている面もあって、眼を開かされる知見がたくさん出てきます。

いわゆる嫌中本ではないのですが、中国の抱える問題点と課題をきちんととらえています。
よく知られているように中国では農村と都市では戸籍が明確に分かれていて自由な移動ができません。2006年のデータを見ると中国の農業人口割合は63%、数にして8億3700万人。世界の農業従事者は約13億人だそうだがその38%が中国とか。ただし農村人口は7億2800万人なので1億人余りは農村戸籍を持つけど農村に居住していなくて農民工として都市に出稼ぎに行っているみたいです。出稼ぎに行っている人だけで日本の人口に迫るのですから中国では数の単位が違う。
ところで鄧小平の改革開放政策以降、中国は驚異的ともいえる経済成長を遂げたのですが、それには安価な農民工の労働力を利用している。都市は工業化を進め労働力を吸収していく。都市部の土地の値段も大きく上がっていくのだが、中国ではこれだけ市場化が進んだにもかかわらず土地の私有制は認められていない。さすがの鄧小平も土地の所有制度には手を付けられなかったということか。
現在、農地は村が所有しているのだが、生産請負制により農民は村から土地を借りて耕作していることになっている。こうした中で開発の波が都市近郊の農地にまで及んできたのだが、土地の開発は地方政府が管轄している公社が行う。そのため権利移転交渉に際しては農民側は圧倒的に弱い。土地収用コストは日本と比べればけた外れに安く済む。開発公社は農民から収容した土地を工業用地とか商業ビル、マンションなどに整備して、土地の使用権を売り出す。結果、公社には莫大な富が蓄積される。村長や村の幹部にも中国の汚職体質と相まってリベートが支払われる。
蓄積された資本は投資資金として中国の経済成長を支えていた。中国の経済成長は外国からの投資に支えられていると言われていたが、投資金の内訳を見てみるとそのほとんどは自己資金(2007年で77%)で外資の割合は10%未満。自己資金に地方政府などの公的部門の占める割合は大きいと思われる。この資金が開発を通じて拡大的に循環していく過程で社会主義中国の中の富裕層が生まれてきた。
因みに土地の私有制を認めていないため、現在でも中国では固定資産税がない。相続税もない。
このため沿岸部の開発が進む地方政府は裕福だが、内陸部にまでその資金は回っていかない。地域格差がますます拡大していくことになる。
日本の場合と比較してみると日本では敗戦後農地解放を行いほとんどの農民が土地所有者となっている。そのため都市周辺部に開発の波が押し寄せると土地成金が頻出した。さらに公共事業は地方に手厚く実施され、他にも都市部で集めた税金を移転する地方交付税制度もあり格差は緩和されてきていた。中国では地域別一人当たり固定資本投資額を見てみると全国平均で都市部は農村部の6.6倍。北京の都市部は海南省の農村部の39倍の投資額になっている。
中国の統計はほとんど信用ならないと言われていますが、比較的信頼性が高いと言われている電力供給量を見てみると上海は江西省の5倍です。日本の場合は都道府県別の差はせいぜい2倍なんですけど。それでもこの電力供給量を国際比較してみると上海などの豊かな地域はほぼ先進国並みとなっていて、貧しいと言われる江西省でもインドネシアやインドよりも上。サハラ以南のアフリカ諸国に比べればはるかに上になっています。中国の内陸部は貧しいと言ってもその生活水準はインドなどよりかなり高い!
ところで産業としての農業は人間が食べる量は一定であるために人口増加率程度にしか成長しない。輸出に限度があるとするならば農業を成長産業とみることは間違いである。農業を振興し生産性をあげれば上げるほど農産物の価格は低下し農民は苦しむ。工業やサービス業のように新しい製品やサービスを開発して成長することはできないのです。
中国の爆買いが話題にあり、中国は食糧自給が可能かという議論もあるが、農地と人口の規模を考えると人口も多いが農地も多いので食料は自給可能とか。現在の一人当たりの穀物消費量を見てみると中国と日本はほぼ同レベル。生きていくうえでの必要量は大きく上回っている。食肉消費量を見てい見ると日本は一人当たり40キロぐらいでほぼ飽和状態。中国は日本より10キロぐらい多いのだが、ここもほぼ頭打ちか。欧米と比べると半分以下なのだが、日本は魚をたくさん食べるからこれでいいのでしょう。中国の魚消費量は日本の半分以下なので魚に関しては今後需要が伸びて中国の爆買いに買い負けするかもしれません。
このようなことから中国の未来を展望すれば、民主的な選挙制度がないことが大きな桎梏になっているとみている。数が多い農民が政治力を持って行けば都市と農村の格差も是正されていく。ただそうなると中国と言う多様な広大な国を一つにまとめていくのは困難になるのは必至。今の共産党政権にはありえない選択になるのか。
意外かもしれないが中央政府は力がなく地方政府の力が強い中で豊かな地域から貧しい地域へと身を還元するシステムができていない。沿岸部の土地取引により生じた莫大な利益は地方政府やその周辺に蓄積されて利権構造となり汚職の温床となっている。共産党独裁の中では自らの利権構造にメスを入れることができない。不動産バブルは徐々に膨らんでいきいつかは破たんするのではないかと言われているが、共産党独裁なら何でもありだからうまく抑え込めるのだろうか。
ところでこの本はあとがきの日付が2010年3月とあるように習近平は就任したばかりの時期。著者は習近平についても太子党なので期待できないと書いているが、習近平は虎もハエも叩くと大規模な汚職摘発を進め、かつ統制を強めて独裁色も強めているのだけど、超大国への道は開けているのだろうか。近い将来バブル崩壊はないのだろうか。
まあ、どこかで大きなリセッションが生じる気がしますが、その時には日本への影響も大きいのを覚悟しないとね。
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