怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

中野信子「脳はどこまでコントロールできるか?」

2018-03-09 21:53:40 | 
最近テレビの脳科学の専門家としてコメンテータとかに出ていることが多い中野信子さん。
脳科学というともっぱら池谷裕二の本を愛読していて、一度も著書を読んだことがなかったので手に取って読んでみました。

読んでみて正直それほど目新しい知見はなかったというと新書版だから当然か。
錯覚のメカニズムで「ゲシュタルト知覚」を説明しているのですが、ゲシュタルト心理学は私が学生時代にいたく感心して心理学の講義で聞いたことがあるのでもう40年以上前からあるもの。ゲシュタルトというのはドイツ語で全体性を持ったまとまりのある構造のことですが、人間の知覚というのは部分と全体とは違う、例えばある単語3つの認知時間とそれを組み合わせた言葉の認知時間は違う。脳は自分が見たいものを見ようとすると言った方がいいのか。これは心理学の分野なのですが、最近はfМRIなどを使って脳のどの部分が働いているとかどういう回路で信号が伝達されるかがだんだん解明されて来たので、脳科学的に人間の知覚構造が分かってきたということです。
興味が持てたところだけを書いてみると、
人間の脳には二重の意思決定回路があって
ひとつは、あらゆることに迅速に対応する「速いシステム」
もう一つは、論理的、理性的に判断する「遅いシステム」
人間は情報量の多さや変化の激しさに迅速に対応できるように、たいていは「速いシステム」はメインとして働いています。そのほうが生存戦略として有効だったのでしょう。でもこの速いシステムは荒っぽいのが欠点。間違いを検出するのは不得意です。
ところでカルフォルニア大学で誰をリーダーに選ぶかという実験をしたところ、優秀な人がリーダーに選ばれるのではなく「支配性」が高い人がリーダーに選ばれています。支配性の高い人は一番最初に発言してかつ、強い調子、確信に満ちた様子で話すのです。
この本でも安倍首相のことを書いていますが、安倍首相の力強く確信に満ちた態度が国民の高い支持率となっているということでしょうか。正直、安倍首相が「アベノミクス」の経済学的意味合いなり効果をどれだけ理解しているとは疑問ですが、集団同調圧力が強い日本で「この道しかない」と言われると肯いてしまうのが国民なんですね。
ちょっと話が飛びますが、コンラット・ローレンツという人が「攻撃」という本のなかで群れを成す魚についての実験を紹介しているのですが、群れの中の1匹だけを取り出してその魚から前脳を取りのぞいてみた。前脳のないこの魚は見、食べ、泳ぐ点では正常のものと変わらない。しかし、その個体が群れが離れた時仲間が1匹もついて来なくても一向に平気という行動上の特徴を持っている。餌を見つけたら、、あるいは何か別の理由でどこかへ行こうとしたら、仲間に影響を受けることなく決然と動き出す。すると、全群れが彼についていくのだ。手術を受けた魚は、その欠陥によって、まぎれもない「総統」になったと。欠陥を確信に満ちた態度と勘違いしないようにしなければ。でも日本人は勘違いしてついていきがちかも。指導者の前脳に欠陥が無いことを祈るばかりです。
脳には快楽中枢があって、快楽に関与する報酬系は生きていくのに必要なものを得たときに活性化するようにできていて「個体の維持」と「種の維持」の二つの内容がある。個体の維持は自分が生きていくために必要な食事とかを得ると快感を感じるようにできていて、「種の維持」では子孫を残すための行為=セックスに快感を感じるようにできている。人間に特徴的なことは、直接的な行為だけでなく「美しいもの」や「好奇心を満たすこと」「他者に褒められること・愛されること」「次世代を育てること」などより社会的・長期的な事柄も報酬系を活性化させるという点。
ところで理性的に判断していくと「種の生存」よりも「個体の維持」を優先する行動をとることが多くなる。最近の少子化というのは理性をつかさどる脳が発達しすぎたことによる必然の流れ…
男と女の違いとか依存症のメカニズムもドーパミンとセレトニンの量から説明していて、これは結構納得しますが、セレトニンとかドーパミンを直接外部から服用する方法とかはまだないんですよね。
まあ、200ページほどの新書ですので気軽に読んでみてください。
コメント
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