小池先生は大学時代の恩師というほどでもないのですが、通説を綿密な調査によってぶった切る論理のすごさには多大な影響を受けた(と言っても学究生活に入ったわけでもないので、それでどうなったということではないのですが)ものです。
いまだに密かにリスペクトしていて、著書が出ると買って読んでいます。でも最近は本の置き場がなくて原則的に買うことはやめてしまったので、この本は図書館で借りたのですけど。
今、非正規労働者の存在が新たな格差を生み、大きな議論になっている。ほぼ同じ労働をしているのにもかかわらず、正規労働者と大きな賃金格差があり景気後退となればすぐに首を切られてしまう。それはグローバル化する経済の深化とともに終身雇用、新卒正規社員採用の終焉と軌を一にしていると。
小池先生の議論は、非正規雇用は経済的合理性がないのではなくて市場競争が続く限り重要な役割がある。何よりもし非正規がより安上がりならばすべてに仕事は非正規に任せてしまえば正社員はいらなくなるはず。職場に聞き取り調査していけば正規と非正規は同じ仕事ではなく、たとえ同じラインについていても全体の習熟度が違っているので仕事の対応能力には差があると。高度な熟練を要する専門職を派遣によってまかなっている場合はあるが、その場合派遣費用は人件費と比べて決して安くはない。小池先生の方法は職場の実態の雇用慣行なりはアンケートや就業規則ではわからないので、現場の労働者に丹念に聞き取り調査をして、文章に出てこない現場のしきたりをあぶりだしていくことなのですが、そうすると通念とは違った非正規の役割が見えてきます。
では、その重要な役割とはと言うと、雇用の調節弁だけではなくて正社員として核となる熟練を担っていくものを選別登用していくことにあると。
具体的に戦後の基幹産業だった造船業、鉄鋼業のブルーカラーを見ていくと高度成長前から職場に出勤してくるものの半分は社外工なり臨時工という名の非正規だった。そこでは正社員と非正規との仕事は明確に区分されていて、臨時工から本工に登用されていくものもある割合でみることができた。仕事の習熟度などを見てこれはというものを本工にあげている。
アメリカのブルーカラーはどうか。これは小池先生の議論に親しみがないと違和感を覚えるのだろうが、アメリカのブルーカラーは労働組合の力が強くて先任権が確立されている。従って勤続年数の短い労働者は事実上非正規と同じような扱いになってしまう。ホワイトカラーはどうかというとキャリア初期は3年なり4年の期限付きで上級の職に昇任しない限りどんどん解雇される。これまた最初のキャリアは非正規と同じです。企業としてはそこで認められたものを昇任させることによって選別機能を果たしているわけです。
現場の労働者をすべて正規の新卒で採用できるなどというのは、優秀な新卒者を採用できるのは限られた有名大企業だけで、ほとんどの企業では望むべくもなくかなりの部分を中途採用で補っていくしかない。その場合企業との親和性を見つつ選別していくには非正規で雇用して正規に登用していくのが経済的にも一番合理的なはず。
これを踏まえての小池先生の提言は、すでに日本の職場で行われているのだが
A非正規労働者の正規への昇格性の整備
B言い換えれば上記の条件付きで、非正規労働者性の存続
そのためにはそれぞれの職場に「仕事表」を貼り出し非正規と正規を一枚の表に、同じ基準で記す。昇格条件を明示する。
ただしホワイトカラーの職場では仕事を標準化することが難しく仕事表ができないのが現状。どうしても主観的判断が、恣意性が残ってしまう。より専門性の高い高度な職場でも同様だろう。
ここで労働組合の発言力に期待されるのですが、管理職も加入させて云々と言われても、ちょっとなんだかな~ですかね。
因みに私の狭い知見からですが、区役所とかの現場の事務の人には60年代までは臨時職員で入ってから転任したという人が結構いました。現業職場のいわゆる作業員だと70年代でも正式の公募採用試験はしてなかったと思います。その後公務員人気が高まり採用希望者が増えたことと地方公務員法の原則に則した採用を求められて、臨時職員からの転任ということはなくなっていったと記憶です。公務員の場合は公務員法を改正しないと非正規から正規への昇格は難しいんでしょう。
でも、もはや現場での聞き取り調査をする体力が残されていないと言いつつ、小池節健在というか、通念なり通説の根拠をしつこく問い、丹念に資料を読み解いて、議論を進めていく姿には老いを感じません。批判を受けていますがゼミの助手だったの方の調査も取り上げられていて、名前を拝見して感慨無量です。
まあ、いまだにこんなレビューを書いているようでは、本を読んだというだけの成績「可」なんでしょうけど、どうもすいませんというしかありません。
専門書なのですが、読みやすいので興味がある人は一度挑戦してみたらどうでしょうか。
いまだに密かにリスペクトしていて、著書が出ると買って読んでいます。でも最近は本の置き場がなくて原則的に買うことはやめてしまったので、この本は図書館で借りたのですけど。
今、非正規労働者の存在が新たな格差を生み、大きな議論になっている。ほぼ同じ労働をしているのにもかかわらず、正規労働者と大きな賃金格差があり景気後退となればすぐに首を切られてしまう。それはグローバル化する経済の深化とともに終身雇用、新卒正規社員採用の終焉と軌を一にしていると。
小池先生の議論は、非正規雇用は経済的合理性がないのではなくて市場競争が続く限り重要な役割がある。何よりもし非正規がより安上がりならばすべてに仕事は非正規に任せてしまえば正社員はいらなくなるはず。職場に聞き取り調査していけば正規と非正規は同じ仕事ではなく、たとえ同じラインについていても全体の習熟度が違っているので仕事の対応能力には差があると。高度な熟練を要する専門職を派遣によってまかなっている場合はあるが、その場合派遣費用は人件費と比べて決して安くはない。小池先生の方法は職場の実態の雇用慣行なりはアンケートや就業規則ではわからないので、現場の労働者に丹念に聞き取り調査をして、文章に出てこない現場のしきたりをあぶりだしていくことなのですが、そうすると通念とは違った非正規の役割が見えてきます。
では、その重要な役割とはと言うと、雇用の調節弁だけではなくて正社員として核となる熟練を担っていくものを選別登用していくことにあると。
具体的に戦後の基幹産業だった造船業、鉄鋼業のブルーカラーを見ていくと高度成長前から職場に出勤してくるものの半分は社外工なり臨時工という名の非正規だった。そこでは正社員と非正規との仕事は明確に区分されていて、臨時工から本工に登用されていくものもある割合でみることができた。仕事の習熟度などを見てこれはというものを本工にあげている。
アメリカのブルーカラーはどうか。これは小池先生の議論に親しみがないと違和感を覚えるのだろうが、アメリカのブルーカラーは労働組合の力が強くて先任権が確立されている。従って勤続年数の短い労働者は事実上非正規と同じような扱いになってしまう。ホワイトカラーはどうかというとキャリア初期は3年なり4年の期限付きで上級の職に昇任しない限りどんどん解雇される。これまた最初のキャリアは非正規と同じです。企業としてはそこで認められたものを昇任させることによって選別機能を果たしているわけです。
現場の労働者をすべて正規の新卒で採用できるなどというのは、優秀な新卒者を採用できるのは限られた有名大企業だけで、ほとんどの企業では望むべくもなくかなりの部分を中途採用で補っていくしかない。その場合企業との親和性を見つつ選別していくには非正規で雇用して正規に登用していくのが経済的にも一番合理的なはず。
これを踏まえての小池先生の提言は、すでに日本の職場で行われているのだが
A非正規労働者の正規への昇格性の整備
B言い換えれば上記の条件付きで、非正規労働者性の存続
そのためにはそれぞれの職場に「仕事表」を貼り出し非正規と正規を一枚の表に、同じ基準で記す。昇格条件を明示する。
ただしホワイトカラーの職場では仕事を標準化することが難しく仕事表ができないのが現状。どうしても主観的判断が、恣意性が残ってしまう。より専門性の高い高度な職場でも同様だろう。
ここで労働組合の発言力に期待されるのですが、管理職も加入させて云々と言われても、ちょっとなんだかな~ですかね。
因みに私の狭い知見からですが、区役所とかの現場の事務の人には60年代までは臨時職員で入ってから転任したという人が結構いました。現業職場のいわゆる作業員だと70年代でも正式の公募採用試験はしてなかったと思います。その後公務員人気が高まり採用希望者が増えたことと地方公務員法の原則に則した採用を求められて、臨時職員からの転任ということはなくなっていったと記憶です。公務員の場合は公務員法を改正しないと非正規から正規への昇格は難しいんでしょう。
でも、もはや現場での聞き取り調査をする体力が残されていないと言いつつ、小池節健在というか、通念なり通説の根拠をしつこく問い、丹念に資料を読み解いて、議論を進めていく姿には老いを感じません。批判を受けていますがゼミの助手だったの方の調査も取り上げられていて、名前を拝見して感慨無量です。
まあ、いまだにこんなレビューを書いているようでは、本を読んだというだけの成績「可」なんでしょうけど、どうもすいませんというしかありません。
専門書なのですが、読みやすいので興味がある人は一度挑戦してみたらどうでしょうか。