カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

イスラム教の正統と異端(スンナ派とシーア派の対立その1)ー イスラム教概論12(学び合いの会)

2021-07-03 10:40:12 | 神学


Ⅵ 宗派(正統と異端) ー スンナ派とシーア派その他

 イスラム世界には歴史的に様々な宗派が存在してきた。現在でもいくつかの分派が存続している。だが現在はスンナ派とシーア派が二大勢力であり、その他は微々たるものだという。イスラム教の信者数を16億~18億人として、スンナ派が90%、シーア派が10%といわれる(1)。
  ここでは簡単にスンナ派とシーア派の比較が紹介されるが、イスラム教の歴史的発展の知識がないとフォローが難しい。私は全く勉強したことがないので、年表でも見てみよう。

 

イスラム教関連年表(2)

 

 歴史的には、やはり680年にフサインが殺害され、スンニ派とシーア派が分裂していったことと、1979年のイラン革命によりイランがシーア派による厳格なイスラム教国になったことが目につく。
 神学的にはムハンマドの後継者の条件をめぐる各宗派の争いの中心である「イマーム論」が最も重要なようだ。ウンマかイマームかとの問いともいえる。これは「正統カリフ」は誰かという問いでもあるので、念のためにクライシュ族の系譜も見ておこう。

 

クライシュ族の系図(4代までが正統カリフ)

 

 

 

 イスラム教の宗派は現在でもいろいろあるようだが、結局はウンマ(イスラム共同体の合意)を重視するのか(スンナ派)、イマーム(指導者)の継続性を重視するのか(シーア派)でわかれるようだ。ウンマかイマームか、ということのようだ。


1 スンナ派 Sunna

1-1 スンナとはなにか

 スンナとはもともとイスラム以前のアラブの部族社会で用いられていた言葉で「踏みならされた道」という意味だったという。つまり各部族の先祖伝来の「慣行・範例」を意味していたようだ。イスラム後はスンナは「ムハンマドのスンナ」の意味に限定され、ムハンマドが示した範例・慣行を示したようだ、以後、「ムスリムが守るべき正しい基準」という意味で使われるようになったという。

 ではムハンマドはどこに、どんな形で、スンナを残していたのか。どうすればそれを見つけることが出来るのか。いろいろ議論があって、結局それはハディース(伝承)のなかに残されているとされた。こうしてハディースが第2の法源とされていったようだ。スンナ派は正式には「スンナと共同体の民」とよばれるが、それは「預言者ムハンマドのスンナに従う人々」という意味なのだという(3)。

 スンナ派では、シャリーアの法源は ①クルアーン(アッラーの言葉) ②スンナ(ムハンマドの慣行) ③イジュマー(共同体・ウンマの合意) ④キャース(法学者の類推) の4つとされ、スンナは第2法源である。 スンナは抽象的な概念なので、具体的にはハディースに判断が求められるようだ。
 このスンナ(共同体)を重視するのがスンナ派だ。つまり、イスラム共同体の指導者(カリフなど)は、ムハンマドの「血統」であることが大事なのではなく、共同体全体で「承認」されていることが大事だとされるようだ(4)。

1-2 スンナ派とは何か

 イスラム世界の90%を占める宗派とされるが、宗派というより自分たち共同体への「自称」だという。
 正式名称は「スンナと共同体の民」 Ahl al-sunna waal-jamaa  意味は「預言者ムハンマドのスンナ 範例 に従う者」という。スンナ派はハディースのなかにスンナが見いだされるとするが、シーア派はイマームの権威に基づいてスンナを解する、またはイマームのスンナにも従うという。

 多くのハディースのなかには信憑性の疑わしいものもあり、その解釈によって様々な法学派を生んだ。現在公認されているのは4法学派(ハナフィー派・マーリク派・シャフィーイー派・ハンバル派)で、ムスリムはこの中のいずれかに従って日常生活を送っているという。

 スンナ派は「共同体」を重視し、「イジュマー」とよばれる「共同体の合意」を「神意」と見なして不可謬とし、これを第3の法源としている(第4の法源は「キャース」と呼ばれ、法学者たちが「類推」によって体系化した法)。

 このようにスンナ派は共同体の伝統や合意を重視し、コーラン解釈の最終的権威は共同体にあるとし(5)、なにか新奇なことは避ける傾向があるという。その意味では保守的だが、他方現実主義的でもあり、意見の相違に対しても寛容だという。また共同体の指導者としてカリフの正統性を認めている(6)。

 シーア派の紹介は次回にまわしたい

 

1 ちなみに、キリスト教20億人、ヒンズー教11億人、仏教4億人とかいわれるようだ。とはいえ、イスラム教徒数がキリスト教徒数を上回るのは時間の問題らしい
2 出典は『図解宗教史』成美堂 2015 2枚目も同様
3 シーア派ももちろんムハンマドのスンナに従うが、イマームのスンナ(慣行)にも従う点がスンニ派と異なるらしい
4 逆に言えば、認められれば誰でもカリフや王様など支配者になれるというロジックになる。というより、支配者や指導者は認められたことになって正統性を得る
5 共同体の合意と言っても、実際にはその時々の支配者の判断次第と言うことになるようだ。なお、シーア派ではイマームが不可謬なので、イマームが最終権威者とされるようだ。
6 とはいっても、オスマン朝の崩壊とともに1924年にカリフ制は消滅したという説が有力らしい(13世紀にモンゴルによって滅ぼされたという説もあるようだ)。現在はカリフは不在ということになっている。近年イスラム国の軍事リーダーがカリフを名乗ったこともある。

 

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