やっと映画 Belfast を観ることができました。アカデミー賞受賞作品だからと言うより、カト研のジョンストン師を思い起こすためでした。師は2010年に帰天しているので今年は仏教的に言えば13回忌になります。カト研の皆さんはもうすでにご覧になられたでしょうか。
白黒映画でした。少年バディが主人公だが、過酷な時代の変化に抗いながら家族が一緒に未来へ踏み出していく姿を描いているように思えました。故郷ベルファストを讃えるご当地映画ともいえそうです。
この映画は、1969年頃のいわゆる「北アイルランド紛争」(1)を直接正面から取り上げているわけではない。むしろ、それを背景としたファミリー・ドラマでした。監督・脚本はケネス・ブラナーで、著名な映画監督のようです。この映画は監督ご本人の自伝的な物語のようです。ローヤリスト、ユニオニスト、アルスター長老派を含むプロテスタント側からの描き方で、ジョンちゃんのような差別される(攻撃される)カトリック側からの描写ではありませんでした(2)。だが、宗教映画ではありません。対立を乗り越える力を家族愛と郷土愛に求めているとでも言えましょうか。EUを離脱したイギリス(北アイルランド)と残留したアイルランド、ロシアのウクライナ攻撃などカレントな問題にも問いを発しているようにも思えました。
われわれカト研としては、ジョンちゃんがどういう世界で生まれ育ってきたのかを知ることができます。映画としての質の高さや、出演俳優の出来不出来は私にはよくわからなかった。言葉もよく聞き取れなかった。それでも鑑賞後の気持ちはすがすがしかった。
久しぶりにカト研の皆で集まってジョンちゃんと矢崎さんと堀越さんを偲びたいものです。
写真
注
1 北アイルランド紛争はいろいろな呼称があるようで、日本のwikipediaでは北アイルランド問題と呼んでいるようだ。ジョンストン師は自伝では"Conflict in Northern Ireland" と呼んでいる(NorthernであってNorthではない 単語の使い分けが立場性を表すようだ)。"the troubles" とも表現している。
北アイルランド紛争は、宗教紛争か、領土紛争か、地域紛争か、捉え方はいろいろあるようだ。紛争は1960年代後半に始まり、1998年の「聖金曜日の和平合意」(Good Friday Agreement ベルファスト合意)まで続いたと言われるが、2000年代に入って対立は再び深まっているといわれる。北アイルランドが第2のウクライナにならないことを祈りたい。
2 北アイルランド紛争は実は戦前まで、さらにはアイルランドの独立までさかのぼるようだ。ジョンストン師は1925年生まれで、かれの自伝『Mystical Journey』(2006)は次のような衝撃的な文章から始まっている。
"I was born in the midst of terror・・・the old IRA was in my blood".
この自伝の中で師は北アイルランド紛争については詳しくは述べていないが、数少ない言及箇所はカトリック・マイノリティの苦痛を綴っている。師は1968年前に、学位論文を執筆中に、一度ベルファストを訪ねている。そのときの家や町の雰囲気を"a bit rowdy"と表現している(56頁)。せめてもの表現だったのであろう。
他方、私の畏友松井清さんはプロテスタントの側からこの紛争を描いている。深く議論したことはないが、かれはこの紛争を宗教対立とだけとは見ていなかったようだ(『北アイルランドのプロテスタントー歴史・紛争・アイデンティティ』2008、『アルスター長老教会の歴史ースコットランドからアイルランドへ』2015)。実際北アイルランドの長老派は歴史的には非国教徒として差別されてきた(いわゆるスコッチ・アイリッシュ)。対立の根はカトリック対プロテスタントという単純なものではないようだ。どちらの視点に立つにせよ、エキュメニズムの深化を求めたい。