事件記者のページ

遠い昔のTV番組を再現しようというムチャな試み

新潮12月号

2011-12-03 23:36:48 | 本と雑誌

翻訳小説が残ってたから片付けることにする、中国と韓国の各2編は日韓中三文芸誌のよる競作プロジェクトで今回のお題は「喪失」なんだそうが・・・津島佑子はともかく阿部和重のどこが喪失なんだよ、あ、わかった「常識の喪失」(違ったらゴメン、別に川上未映子と結婚したからイヤミ言ってるんじゃないよ)

まずは中国
莫言大浴場」-作家の私がたまたま公衆浴場へ行くと大昔綿花工場でいっしょに働いてた仲間たち(定年退職したというからたぶん60前後)が大騒ぎ、昔の友人が売れっ子作家になったからとハメはずし過ぎて警備員が駆けつけたりもするが、リーダー格の元工場長だったというオッチャンが「ここのオーナーは元オレの部下だ、ヤツのお袋はオレの姉さんみたいなもんだ」と言えば何となくおさまっちゃう、伝統は強い、文化大革命っていったい何だったんだと語り手の私は別に思わない、はあさうですか、実体験者はさういうもんかもな
「赤ベッド」-かかとが痛くなって「ルーム」へ行った私、係りの姐ちゃんに足を洗ってもらいながら身の上話を聞く、ここは日本のソープランドみたいなもので単純に身体を売った方がずっといい金になると言うのだが・・・もうずいぶん昔のこと、日本のサウナにも男性の身体をただ洗ってくれるだけの「洗身メイト」って仕事があると聞いたよーな、それまだあるんだろか、言えることはそんくらい

金仁順ある法会」-いろんな宗派のお寺へ次々帰依する友人(女性)を危なっかしいと思いつつ見守るしかない語り手(これまた女性)、アヤシイご利益をうたってお布施を巻き上げるなんてサギもいいとこだけどいるんだよな、ひっかかるヒトはいくらでも、それにお布施は安心料=税金の一種だと思えば悪いと決めつけるわけにもいかない、そも共産主義自体が新参者のキリスト教系宗教なんだからどれほど政治的強権を振るおうと大昔からある仏教系宗教にそうあっさり勝てるわけないのは当たり前、そっか、あちらの事情も似たもんなんだ・・・とけっこう興味深く読んだのであった

キムイソル」-主人公の俺は26歳、ムチャクチャ暴力的なオヤジにひたすら殴られ鍛えられ続けて、いつしかオヤジ以上にタフで凶悪な本物の犯罪者に成長していた・・・作者は女性とのこと、心底の男ギライで男とは女を虐待するために存在するものと信じてるらしい、21世紀の吉屋信子と言いたいとこだが吉屋は女の視点で書いてた(と思う)し男の全てを否定はしない、夫ではない父の存在意義は認めてた(と思う)、ここまで男を否定するってことは女も否定してる、つまりは有性生殖生物としての人類自体を否定してるんだよな、ま、それはそれでありかも

チョンミギョン南寺」-主人公は編集者、自分の作りたい本を作るために独立して出だしは好調だったもののそうそう本が売れるわけはない、たちまち会社は火の車・・・というお話らしいのだが、美術館でただ真っ暗なだけの展示をさまよったり、約束の場所へ行こうとしてタクシーに乗ったらテロにもまごうわけのわからんもめごとに巻き込まれたり、せっかくたどりついても仕事の話にならんかったり、いやそもそいつは会社のために万難を排して逢わなきゃいかんほどの大物作者なのか、違うだろ・・・と要するに悪夢(と言うかカフカ的不条理と言うべきか)な非現実世界を描いてるとしか思えない、そも三人称のキムだったり一人称の私だったり(これがまたわざとやってるのかただ乱れてるだけなのかわからない)な主人公は男性、たった一人の社員であるウネはその奥さんのハズなのに二人の会話は女同士のものとしか読めない、これって訳文が悪いのか本文のせいなのかどっちなんだ、全くもうちょっと何とかしろよー

というわけ(どういうわけ?)、いろいろあっても日本の文芸雑誌ってけっこうマシなもの(も)載せてるんじゃない?そう言えばもうすぐ芥川賞候補が出るね、自分の予想がどん程度当たるかちょっと楽しみだ