◆【時代の読み方】インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 5 最終回
時代の流れを時系列的に見ると、見えないものが見えてきます。NHKの放送や新聞・雑誌などを見て、お節介心から紹介しています。
■■ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 5
近年、中国の高速鉄道がなにかと話題になっています。NHKやまぐまぐニュース、Gooニュースなどをもとに、鉄道についても造詣が深い『冷泉彰彦のプリンストン通信』を中心にまとめてみました。
ここでは、この分野にあまり馴染みのない方を対象に、ポイントをわかりやすく紹介することを目的としています。詳細は、氏を初めとする、その分野の専門家の情報をご覧下さると幸いです。
15回連載で書きましたが、それを5回に集約し、今回は第5回、最終回として、前回に引き続きまして、その続きをお届けします。
■13 安全技術の未熟さと取り組み姿勢
前回、中国の高速鉄道におけます安全性の問題点は、高速鉄道以前のプリミティブな問題をご紹介しました。
既述のことで重複しますが、自国の技術を誇大広告の目玉として利用している、走行速度の高速化をしている点から安全性が損なわれているようです。
中国の高速鉄道は、日本やヨーロッパ諸国他から導入したオリジナル技術よりも高速で走らせています。ここにハード面での問題が生じそうです。
日欧の原型モデルにおける空力特性は相当に詰めてあり、中国の高速鉄道車両もその形状を継承していますので、車体の強度などが原型通りであれば問題はないでしょう。
この連載の初期で私が懸念していました、無理やり時速350キロで走らせることで、車体が浮き上がって脱線するようなことはないでしょうと、冷泉氏は言っています。また、そのために、部品が脱落するという可能性は少ないという見解をお持ちです。
しかし、その前提には、車体が原型モデル通りに製造されているということがありますが、品質管理が日欧と同様なレベルで行われているのでしょうか。
氏が言うように「社会のしくみ、価値観、行動様式といったレベルに問題がある」という以上、品質管理がキチンとなされているとは考えづらいです。
350キロの走行ととなりますと、パンタグラフと架線の間で、相当なスパークが起きます。日本の新幹線の場合には、屋根が耐火性になっていますので、火花が飛び散って燃えるということは心配ないようです。中国製も同様な対応がなされているのでしょうか。
■14 安全の基本「ブレーキ」
車体走行で、安全性を問うたときに、ブレーキの問題はついて回ります。この点においても、中国がコピーした欧米高速鉄道車両をそのままコピーしているにもかかわらず、その仕様とは異なる駆動力を用いていることが課題と考えます。
冷泉氏もこの点を大変気にしています。
日欧の原型モデルと、中国仕様の大きな違いは「接触式ブレーキ」を「常用する」という点です。日本や欧州の高速鉄道の場合は、現在は「接触式ブレーキ」の使用をできるだけ避けるような設計になっています。
日欧で採用している方法には2つあります。
1つはブレーキをかける場合には、モーターを発電機にすることでブレーキ力を得るという方法です。そこでできた電気は架線に戻される、省エネ思想にあります。これを「回生ブレーキ」といいます。
他方は、反対に電気を使って強力な電磁石を作り出す「渦電流式ブレーキ」を使う方法です。車輪とレールとの間に抵抗力を発生させることができ制動力を高めます。また、車輪についたディスクの回りに電磁的な抵抗力を作りますので、これも制動力に繋がります。
日本では、一時期300系や700系などで渦電流式を採用していました。しかし、最新モデルの常用ブレーキは、ほとんどは「回生ブレーキ」です。普通に走っているときは、回生ブレーキでほとんどの制動力を得る一方で、地震などの緊急時には強力な非常用の接触式ブレーキで止めるという思想です。
一方、欧州では、回生と渦電流式の併用が主流で、現在では接触式を止めて、渦電流式を標準にする動きとなっています。
ところが、中国の場合は「回生+電気制御空気ブレーキ」というのが標準仕様です。全ての高速鉄道がこの方式です。
氏によりますと、設計的には問題があるわけではないのです。ただ、問題は「回生ブレーキ」が十分に使われているかということを氏は懸念しています。
回生ブレーキは、ブレーキをかけると発電し、その電気を架線に戻すのですが、その場合に近くに走っている電車がないとか、ない場合に変電所を介して周囲に電気を配ることができる仕組みになっていないと作動しません。
これは、どういうことかといいますと、ブレーキが効かなってしまうのです。
原型モデルのE2でもそうですが、中国の高速鉄道の場合は「電磁式空気ブレーキ」を使います。特に運転手が判断しなくても、回生ブレーキと一体制御になっています。回生ブレーキが効きませんと、自動的に空気ブレーキが懸かりますので、ノーブレーキというわけではありません。
日本の場合は、新幹線の運行密度が高いですし、変電所も多く設置されています。震災などの場合を除きますと、回生ブレーキが利かないということは、運行密度の低い朝晩以外は少ないのです。ところが、中国の場合は密度の高い路線もあれば、ない路線もあります。更に第三国に輸出した場合は、様々なケースが考えられ、上記の条件に合わないことが懸念されます。
その結果、空気ブレーキが多用されます。頻繁に使われるとディスクやパッドの摩耗が激しくなります。点検・保守、そして空気圧による作動装置の確認とその保守をキチンとやる必要性が高くなります。
もちこれらが軽視されますと、ディスクにヒビが入っているのを見落とし、緊急制動が効かないといったトラブルが起きて、事故に繋がりかねないのです。
ペーパー状で比較しただけでは、大差ないようなことが、運用段階となりますと、仕様上では見逃されやすい問題が潜んでいるのです。
■15 中国の高速鉄道の行方は
中国の高速鉄道におけます問題点の締めくくりとして、線路などの設備に関して簡単に触れておきたいと思います。
冷泉氏は、高架橋と盛土部を問題視しています。
日本は地震国ですので、過去の経験を通して、いろいろな事例から積み上げた耐震対策の研究があり、その対策を徹底する努力をしてきています。
例えば、高架柱は鉄筋を強化するとか、盛土部には補強のために斜めにコンクリの柱を打ち込んだりしてきています。見えないところに大きな対策を施してきました。2016年の熊本地震でも、九州新幹線には震度7の直下型地震を受けた箇所もありましたが、回送電車が脱線しただけでした。構造物の損傷は防音壁が落ち程度で済んでいます。
このような「高価な工事」は、活断層のないところなどでは不要かもしれません。しかし、活断層が何処にあるのか、どの様に対策を打つべきか、本腰を入れた対応をしてきています。
中国のうたい文句である、短期間に完成するというお題目では、この種の調査やその対応は施されないとみて良いでしょう。
これまで14回にわたり、中国高速鉄道について、冷泉彰彦氏のメールマガジン、まぐまぐニュース、Gooニュース、NHKサイトやその他のネット情報を参考にしながら、その問題点を中心に記述してきました。
その問題点を解決できれば、中国の高速鉄道は日本やヨーロッパの関係国にとって脅威となるでしょう。しかし、その道のりは遠いと言えます。
中国の海外投資はことごとく失敗しているとさえいわれているのが現状です。2013年の中国鉱業聯合会の報告では、鉱山開発など資源関連の投資については、8割が失敗に終わっているとあります。投資国の政情不安などもありますが、やはりずさんな計画が原因でしょう。
そのすすめ方も現地で労働者を野党というより、中国国内の労働対策の一環で、中国本土から労働者を連れて行くやり方です。このような雇用を生まないやり方をしていては現地の反感を買います。中国人を対象とした襲撃事件も多数起きているようです。
その例として、冷泉氏はミャンマーで建設を計画していたダムを挙げています。環境破壊が問題視され、地元の反対が起こり、遅々として進んでいないのです。
習近平政権の手柄にするために大風呂敷を広げると必ず失敗するとさえいわれています。これでは、相手国の反中感情を高めるだけです。
人の目はごまかせません。世界中が、中国のインフラ輸出のインチキぶりにようやく気が付きはじめたと冷泉氏は言っています。このままでは、習近平政権は、苦境に追い込まれるだけです。
上述しましたが、問題点が明確なら、その解決策を適用すれば問題は解決の方向に向かうはずです。
それには、トップの意識改革、国民の再教育など、時間のかかる手法しかないのではないでしょうか。
それは時間がかかります。
しかし、諦めるのは早計です。一党独裁の共産党を解体すれば、その変革速度を高めることができるでしょう。否、これしか方法はないのではないでしょうか。
◆ ご挨拶
15回に渡る、長期連載に最後までお付き合いくださりありがとうございました。
中国批判をするつもりはなくできる限り公平な立場で書くつもりでした。しかし、結果的に中国に不利な情報が中心になってしまいました。
初めは、気軽に「何とか、書きたいことを書いていけば、5回くらいは書けるだろう」と楽観視していました。
しかし、書き始めてみますと、わからないことが多く、ネットや新聞でいろいろと調べたり、時には知人に情報を提供していただいたりして、何とか書いてきました。
初めは5回程度と考えていましたが、結局書きたいことは次々と出てきて、結果的に15回になってしまいました。
このような情報は、日本国内だけではなく、むしろ諸外国のトップの方々に中国の現状をさらに知って欲しいと願い、読んでいただきたいと思います。
中国が、世界第二位の経済大国であることを自覚し、グローバルに受け入れられる言動を採るようになる、一助であれば幸いです。
■ バックナンバー
◆ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 1
◆ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 2
◆ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 3
◆ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 4
◆ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 5
【参考資料】
冷泉彰彦のプリンストン通信
まぐまぐニュース
Gooニュース
NHKサイト
<完> 最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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