物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

思想をつむぐ人たち

2012-11-15 12:44:58 | 日記・エッセイ・コラム

鶴見俊輔さんの「思想をつむぐ人たち」(河出文庫)を購入した。鶴見さんが武谷三男について新たな何かを言っているのかなと思ったからであるが、その期待ははずれた。

確かに武谷の項はあるのだが、これは以前に彼が書いた文の再録であった。ただ、細かなところですこし書き加えたのかなという印象をもった。初出の方の書ももっていると思うので、後で詳しく調べてみようと思っている。

しかし、今回読んであらためて印象が深かったのは彼がハヴァード大学の学生だった頃に寄宿していたヤングさんのことが改めて心に沁みた。

ヤング夫人には3人の子どもがあり、鶴見がヤング家に寄宿するようになったころ、ちょうどヤング夫人の離婚が成立した。二男が鶴見さんと予備校で一緒だったらしいが、この話にこの二男のことはあまり出てこない。

ヤング夫人の鶴見さんを家族の一員として分け隔てなく扱ったさまとか、家が狭かったにもかかわらずそのことで卑屈にはなったりしなかったとか。

また、長男のケネス・ヤングはその後、外交官としての生活を送ったが、あるとき鶴見さんを訪ねて、ケネスにいまどうしているかと聞かれたときに、鶴見さんはアメリカのヴィエトナム戦争に反対していると言ったら、びっくりされた。

当時ケネスさんは中国とアメリカは外交関係を結ぶべきだという論文を発表していたが、もし中国と外交を結べば、はじめの中国大使になるねと鶴見さんが言ったら、君にそんなに低く評価されている国の代表になっても嬉しくないと応えたという。その後、ほどなくケネスさんは心臓麻痺で亡くなられた。

鶴見さんのアメリカに対する感謝の念はいくつかあるだろう。そのうちの重要な要素がこのヤング家での鶴見さんに対する態度であったに違いない。そして、そういうところから鶴見さんのアメリカ政府のヴィエトナム戦争に反対するという気持ちも出ていると知ると単なる反米ではないことがわかる。このことは小田実にも同じようなことが言えるだろう。

私たちは健全なる市民から何かを学ぶことができる。


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