昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第一章:親父への旅   手術本番へ ②

2010年10月06日 | 日記
一階の売店は、のどかだった。目的のバスタオル2枚を購入。入院のために親父の用意したものすべてが、目にしたことのあるもの。ラジオ、下着、シェーバーなどはいいとしても、バスタオルが使い古したもの2枚では、心許ない。日常を持ち歩きたい、という気持ちもわからなくはないが……。 バスタオルを抱えて、そっと病室に戻る。親父は眼を閉じたままだ。眠ってはいないような気もするが、声はかけずにソファに。文庫本を開き、 . . . 本文を読む

第一章:親父への旅   手術本番へ ①

2010年10月05日 | 日記
病室に戻ると、生活の匂いとざわめきが満ちている。家族の訪問を受けている人が一人。僕を迎え入れてくれた一人は退院準備をしているようだ。 会釈をして、親父のベッドへ。親父は、いつものようにベッドに端座する。首を垂れたまま動きを止める。椅子を引き寄せ、覗き込む。その横顔は暗く、険しい。 「明快だったね、説明。…安心だねえ」と、探りを入れるように話しかける。 「な!自信たっぷりじゃろ」 「うん。手術も難し . . . 本文を読む

第一章:親父への旅   親父の元へ、再び。 ⑤

2010年10月04日 | 日記
ここにいる老人たちのほとんどが、遠く離れて暮らす息子や娘を持っているに違いない。そしてひょっとすると、中には、自らが病に倒れることと引き換えに、息子や娘との暮らしを再び手に入れた人がいるのかもしれない。 もう一本のタバコに火を点ける。僕の出現をきっかけに、老人たちそれぞれの子供の話で、休憩所はにわかにざわめく。 と、突然60代半ばと思しき女性の顔が僕の前に出現。くるりと親父の方を向くと、「息子さん . . . 本文を読む

第一章:親父への旅   親父の元へ、再び。 ④

2010年10月03日 | 日記
駅に着く。同じホテルに電話。覚えてくれていたので、すぐにチェックイン。奇しくも、前回と同じ部屋の鍵を受け取る。 ポーチをベッドに投げ、早い昼食へ。ホテルの隣、前回と同じ店へ。注文したのは、“鍋焼きうどん定食”。あっさり関西風、具だくさんの鍋焼きうどん。煮物、酢の物、お新香、ご飯のセット。注文時には高いかな?と思った1300円も、納得だ。ゆっくりと食べ、お茶のお替わりまでして店を出る。 見上げると曇 . . . 本文を読む

第一章:親父への旅   親父の元へ、再び。 ③

2010年10月02日 | 日記
廊下から食器がぶつかる音が聞こえてくる。昼食の準備が始まったようだ。病院の一日は、淡々と規則正しく進んでいく。 僕はふと、方針変更をする。“今夜はホテルに泊まろう”と思う。 端座し腕組みをしている親父に「お昼ごはんの準備が始まったから、そろそろ出かけてくるね」と声を掛ける。 「そうか。チェックインしてくるか」。親父の中に予定変更はない。 「うん。昼飯も食べてくるね」 「そうせえ。それで…」 「4時 . . . 本文を読む