有限会社KOU、生い立ちの秘密
「義郎さんが最後だったんですよ」
「最後って……」
「“7つの衛星企業を作る”って、社長……倉田さん、言ってたんですけど、5つ目までは苦労しなかったんですが、それからが大変で……」
「じゃ、俺、7番目の……衛星&hellip . . . 本文を読む
明かされていく謎
後頭部と背中に大粒の雨を感じ、義郎は大川に落としていた目を上げる。月は再び黒い雲に覆われ、わずかに残していた光も失いかけている。
義郎は、次第に強さを増す雨を、口を大きく開けた顔で受ける。腹の底から湧き出てくる喜びに、笑いを抑えることができない。
口に受けた雨を勢いよく吐き出し軽トラに乗る。逸る気持を抑えることができない。床を踏み抜かんばかりに強くアクセルを踏み込む。高鳴 . . . 本文を読む
達男の思惑……
「久しぶりだな~~、義郎」
尻をソファの端までずらし「久しぶりだね~~」と応じる義郎の肩を、達男は立ったままぽんぽんと叩く。
「何年ぶりだ?」
肩を叩いた手を止め、病院の通路を急ぐ看護婦を見ながら、達男が訊く。義郎は、咄嗟には答えることができない。
「う~~ん……達男が高校を卒業する前に会ったのはいつだった?」
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倒産…?
「でもねえ、最初は安原のおじさんの力だったとしても、公平君がここまでやってこれたのは、公平君の力でしょ?それは信じた方がいいんじゃない?」
優子は、庭の一点から目が離せない義郎の肩に、そっと手を置く。
「聡美ちゃんも付いてるし。……そうそう、達男君も帰って来てるわよ。今日これから、お見舞いに行ってみれば?」
「え!?&he . . . 本文を読む
台風の目
遠く前方に霞んでいた大橋が、近づくにつれてくっきりと見えてくる。義郎はワイパーのスイッチを切り、薄闇の空をフロントガラス越しに見上げた。薄曇りの空に満月が朧に浮かんでいる。
「台風の目に入ったな」
呟きながら大橋の上を通りかかる。スピードを落とすと、軽トラのエンジンの唸り声に隠されていた大川の激しい水音だけが耳に届く。辺りのすべてを支配しているかのような凄まじい轟音 . . . 本文を読む
仕事のパイプ
「公平君、聡美ちゃんとずっと病室に詰めてるらしいのよ」
寝室に入ると、義郎が抜け出したままの形になっていた掛布団を整え、優子はその上に腰掛けた。右横をとんとんと叩く仕草に引き寄せられるように、義郎も座る。大事な話がある時の、いつもの位置だ。隣に座って話す方が本音が言いやすい、と優子が決めた二人のルールだった。
「そうだろうねえ。大変だなあ」
いつも必ず現場に顔を出していた公平 . . . 本文を読む
公平の危機
「公平君の奥さんの実家、よく知ってるでしょ?お世話になったんだものねえ。……恨みもあるかもしれないけど」
「安原醸造には5年間……いや丸6年間かな、お世話になったからねえ。首になったのも、その時は恨んだけど、今ではその頃の事情がよくわかってるから、感謝してるくらいだよ。……&hel . . . 本文を読む
異変の始まり
何もかもが順調だった。
半月毎に仕事の予定表が全員に渡された。予定表はいつも、日曜日を除いたすべての日が仕事で埋まっていた。さらに、義郎の現場にはいつも中野がいて、毎日夕方になると翌日の予定を書いたメモを手渡してくれた。現場に中野がいてくれることが、義郎はうれしく、心強く、安心だった。ミニユンボは事務所代わりに借りた陋屋の庭に置いたままだったが、義郎の仕事は、急遽 . . . 本文を読む