変化の予感
「びっくりしたやろう」
にんまりしながら上村は、僕と山下君の間に割り込んでくる。やむなく席を譲り、左の席へ移動した。
席に落ち着きバーボンをオーダーすると、「これがほんまの俺やねんで」と顔を向けてくる。「俺、黒ヘルに入ってたけど、学生違うんや。学生いうことにしてたけどな」
なぜか自慢そうに、鼻の穴を膨らませる。驚きはない。
「ま、偽学生やったんやけどな。ほれ、今回のことがあっ . . . 本文を読む
黒ヘルの行く末 ①
“ディキシー”までのわずかの距離を山下君と肩を組んで歩いた。心が弾んだ。一度立ち止まり、「ほんま、久しぶりやなあ」と強く肩を引き寄せると、山下君は「ほんまやなあ」と照れ臭そうに、しかし顔いっぱいに笑った。
そのままの勢いで“ディキシー”のドアを開ける。ドアの鈴は昔のままだったが、その音への反応は大いに変わっていた。
「いらっ . . . 本文を読む
相次ぐ再会
1972年秋、東京から京都に帰ってきた僕の暮らしは、規則正しく淡々と過ぎて行った。東京3人組からアドバイスを受けて決めた履修科目の講義には、ほとんどすべて出席した。2~3度しか入ったことのなかった学生食堂で、頻繁に昼食をとるようにもなった。奈緒子との“きちんと大学生をする”約束は果たしていけそうだった。
しかし、どこか腑に落ちない気分だった。講義を受けるよう . . . 本文を読む