第30回
ランチ代わりのパンケーキとレモンティーが終わり、コーヒーを追加注文して20分。約束の時間はとっくに過ぎている。飯嶋は、竹沼から届いた“新会社構想:第三稿”を目の前に、何度も溜息を漏らしていた。
地下鉄乃木坂駅を外苑東通りに出てすぐ、田端の“乃木坂CM研究所”まで徒歩数分の喫茶店。午後1時半、昼休みの時間も終わり、店内には . . . 本文を読む
第29回
グラスに目を戻した高山の次の言葉を待ちながら、あゆみも自分のグラスを見つめる。吹っ切ったはずの久保田の顔が浮かんでくる。今になってみると、愛したことがあるということさえ確かなこととは思えない。一体、何にこだわり、何を吹っ切ったというのだろう。
「ノー、ノー。コンプライアンス、コンプライアンス」
突然あゆみに顔を向けそう言うと、高山は右人差し指を左右に動かす。
「それが誰かは、言え . . . 本文を読む
第28回
「コンプライアンスの関係で、個人名や個人が特定できそうな情報には触れられないけどね」
そう言って、またウィンクをすると、高山はゆっくりと語り始めた。
15年前、高山は二つの大きな別れを経験した。きっかけは、バブル崩壊だった。
バブル崩壊の翌年に厄年を迎え、2本の大型契約を失っていた高山は、その翌年の厄明けを派手なパーティで祝い、心機一転を図った。バブル期に8人にまで膨らんでいたス . . . 本文を読む
第27回
夕闇の富ヶ谷の交差点を二人で渡る。11月も終わろうとしているのに、コート姿に出会わない。
「冬が来たかなあって思ってたのに、今日は暖かいですね」
高山は立ち止まり、久しぶりに袖を通したハリスツイードのジャケットを脱ぐ。
「私、今日、千代田線の中で、Tシャツの外人さん見ましたよ」
「あの人たち、気温に合わせて着る物選びますからね。まあ、今日の僕みたいに、無理して季 . . . 本文を読む
第26回
「あゆみちゃんにも何か“あ~~あ、まったく~~”って話でもあったんですか?」
あゆみは両肘を突き、掌に顎を乗せる。その瞬間の溜息とゆがんだ微笑みの奥には、怒りがあるように見える。
「ううん。“あ~~あ、まったく~~”ってわけじゃないんですよ。そんなの何回もあったから慣れてますし」
「おや?じゃ、根深いですねえ、今回の . . . 本文を読む