昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 25

2011年01月31日 | 日記
神武景気や岩戸景気と言われた長い好景気もさすがにやや失速気味。とはいえ、GNPが西側世界第2位になった、日本の経済成長は“東洋の奇跡”、万博特需に期待高まる、といった活字を朝刊の紙面で目にすると、まだまだ高度経済成長時代は続くとものと思われた。 好景気は続く。職種を問わなければ、とっちゃんが会社員になる道は見つかるだろう。職業安定所に行けば解決する。僕は、そう安易に考えて . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 24

2011年01月28日 | 日記
言葉が途切れた一瞬に、“ぽっこり”の前から逃げるように立ち去り、ゆっくりと鴨川沿いに下宿へと向かった。喧騒が後ろに遠くなるに従い、“とっちゃんの宵山は終わってしまったんだなあ”という想いが強くなっていった。 大沢さんと桑原君には、“おっさん”たちの嘘を知らせなくてはならない、定かではない実体と、とっちゃんの受けた被害も伝えよ . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 23

2011年01月24日 | 日記
とっちゃんが振り向くこともなく早足で去っていくのを見送り、僕は河原町御池まで急いだ。地上数メートルは明るい空気に包まれているが、空はすっかり夜の闇に包まれている。街の灯りと宵山の照明に赤味を帯びた京都の夏の夜が人混みの熱気と混ざり合い、上半身にまとわりつく。 河原町御池まで引き返し、背伸びして見る。“おっさん”が準備していた屋台は、さすがにもうオープンしているようだ。ひと . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 22

2011年01月21日 | 日記
とっちゃんが突然語り始めた“会社員になる”とか“結婚しなくちゃいけない”といった話の源は、“おっさん”にあったのだった。 最後に銭湯であった夜、とっちゃんは“おっさん”にラーメンと餃子をご馳走になった。2人前の餃子を貪るとっちゃんの向かいでビールの瓶を次々と空けながら、“おっさん&rdqu . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 21

2011年01月17日 | 日記
意欲のなさをその横顔に露わにしながら、怠惰な動きで“おっさん”は作業を続けていた。屋台を完成する頃には、沈み始めている陽は落ちてしまい、とっぷりと暗くなってしまうのではないかと思わせるほどだった。道路脇の提灯が集蛾灯のように人を引き寄せ、辺りはこれから混雑を極めていく予感に満ち満ちていた。 「もう、帰ろう」。人混みと暗さに“おっさん”の姿も見えにく . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 ⑳

2011年01月14日 | 日記
前に進もうとする僕を、ジーンズのループに回した指先の力で止めている。振り向くと、口元に力が籠っている。指先に渾身の力を込めているようだ。 訝しく思い様子を窺うと、視線が一点に集中して動かない。新たなきれいなネエチャンの出現か、と舌打ちしたい気分で目線の先を追う。 そこに見えたのは、意外な人物だった。“おっさん”だったのだ。銭湯に来ることがなくなり、次の現場に移動していっ . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 ⑲

2011年01月10日 | 日記
やけに静かになったとっちゃんを従え、御池通りを越える。河原町通りいっぱいに広がった人波は、まだ肩と肩がぶつかるほどではない。30以上と聞いている各町内で保存されている山鉾の一部でも見ようと先を急ぐ。何処に何があるかわかってはいないが、尋ね歩けば大丈夫だろうと高をくくっていた。 ずらりとぶら下げられた道路脇の提灯には灯が入り、これからのさらなる賑わいを予感させている。歩道に沿って並んだ屋台の一部は . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 ⑱

2011年01月07日 | 日記
祇園祭の山鉾巡行は、四条烏丸から四条通り、河原町通り、御池通りと曲がって行き、烏丸通りを下る一周コース。だから、宵山の日の夕方にはコースにある市電の架線は外される。市電で行くのは止めた方がいい……。と、カズさんから忠告を受け、僕たちは鴨川の堤防を三条大橋まで下っていくことにした。 「よろしゅう頼むで~~」という“おっちゃん”の大きな声に押される . . . 本文を読む

第二章:1969年:京都新聞北山橋東詰販売所   とっちゃんの宵山 ⑰

2011年01月01日 | 日記
天井の木目を漫然と見つめている間に、眠りに落ちた。目覚めると、午後3時を回っている。空腹を抱えたまま、販売所へと急いだ。ジーンズとチェックの半袖シャツを自転車の籠に突っ込み、洗いたてのスニーカーを荷台のゴムに挟んでおいた。   真夏の日差しが照りつけていた。配達エリアのお屋敷の何軒かでは、お手伝いさんと思しき女性が庭や玄関先に水を打っていた。生温かく立ち昇る土埃の匂いを走り抜けると、 . . . 本文を読む