昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   ④

2011年03月28日 | 日記
店は順調だった。特に特徴のある店ではなくメニューも平凡なものだったが、立地がよかったのだろう。4人掛けのテーブル4つ、16席の小さな店は、12時直前から満員になり、1時間半で約2.5回転。午後は暇だったが、午後5時を過ぎる頃からぽつぽつと客が入り始め、10時の閉店までにお昼時同様、さらに2回転くらいしていた。 コックは店の売上と経費を計算し、伝票に転記しながら、ほとんど毎日「材料費、水道光熱費な . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   ③

2011年03月25日 | 日記
「無政府主義って、どない思う?」。 応急手当てが終わると、桑原君が身を乗り出した。 「絵空事ちゃうか~~?」。僕はそう言いながら立ち上がる。二度使って干してあったティーバッグを3~4個持って流しに行き、行平鍋に水を入れる。「簡単に言いいよんなあ。アナーキズムいうのはなあ、一人ひとりの人間が……」と後ろから聞こえてきたが、水音で聞こえないふりをした。 「なあ、そうい . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   ②

2011年03月21日 | 日記
朝早く、桑原君はやってきた。店の前に毎朝配達されてくる鶏ガラの山を寸胴の中に入れ、白湯スープの準備が終わった頃だった。デモか座り込みの帰りだろうと思った。 「黒ってどこ?」。セクトはヘルメットで色分け。革マルは赤、中核は白、青は文学部のL闘くらいまでは認識できていたが、黒に記憶はなかった。 「黒ヘルって、知らへんか~?」。桑原君は、黒ヘルの頭をポンと叩く。その指先から血が滴っているのに驚き、「 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   ①

2011年03月18日 | 日記
「ヘルメットの色、変わったやろ?」。深夜にやってきた桑原君は、後ろ手に隠し持っていたヘルメットを畳の上に置いた。ずっと白だったヘルメットが、黒に変わっていた。誇らしげだった。 「なんてセクト?」。そう尋ねて僕は、自分の口から“セクト”という言葉が自然に出たことに驚いていた。 1970年4月中旬。僕は大学生になり、そして中華料理屋店の住込み従業員になっていた。 &nbs . . . 本文を読む