昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……36

2014年09月27日 | 日記
第36回   記帳する二日前、安達は残っていた現金のほとんどを引き下ろしていた。その額、約120万円。久美子が30万円入金して間もなくのことだった。 自宅マンションは、千鶴子の手で既に解約済み。オフィスの家賃も、12月分までは安達が先払いしている。都内を漂流するための経費なら、過去4~5回と同様、必要になったその都度引き下ろせばいい。ホテル暮らしに大金を持ち歩くのは危険でもある。な . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……35

2014年09月27日 | 日記
  第35回  もはや帰ることはない、という安達の強い意志を、久美子は感じ取った気がしたのだ。安達が一方通行の旅を選んだ理由と動機に思い当たる節はない。しかし、安達にとって大切だったのは行き先ではなく、仕事から抜け出し、事務所を離れ、ただただ漂流することだったのではないだろうか。そして、それを押し留める力が自分にはなかった、ということだ。 今になって思えば、用意周到だった。事務所は . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……34

2014年09月23日 | 日記
第34回   安達の妹千鶴子と麻布署に安達の捜索願を提出して、1ヶ月が経っていた。 千鶴子はすべてに手際がよかった。捜索願に必要なものは予め備えられており、捜索願、失踪届、失踪人認定の手順などについても、警官からの説明を必要としないほどだった。 そして、捜索願が受理されるとすぐ、外へ向かいながら「兄貴のマンション、解約しました」と久美子に告げた。驚いたが、止むを得ない事だと思った . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……33

2014年09月19日 | 日記
第33回   「なんや、バタやんも出てきたんか。彼ら、ほったらかしにされて、どないしてんねやろうなあ」 会社の近くに借りている駐車場に田端が駆けつけると、堂島は案の定クルマの中にいた。助手席に座ると堂島はニヤリとした目を向けてきた。 「俺だってほったらかしにされたようなもんだよ。話すのも面倒くさいから追っかけてきたんだけどさ」 田端はシニカルな笑みを返し、溜息を漏らす。 「竹 . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……32

2014年09月12日 | 日記
第32回   「竹沼君。どう?ITの方。金になってきた?コピーもやってるんやろ?二刀流やもんなあ、竹沼君。偉いなあ」 竹沼の向かいに堂島、飯嶋の向かいに田端が腰を下ろすとすぐ、堂島は竹沼に挨拶代わりの褒め言葉を繰り出す。堂島のいつものやり方だ。 「ITの方が金にならないもんで……。大変ですよ」 「そら、一緒やで、広告業界も。広告で稼いでる人間なんて、 . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第五章“パワーストーン” ……31

2014年09月08日 | 日記
第31回   「あと10分。いや、5分でいいんですけど」 竹沼の目配せに呼応し席から腰を浮かせた飯嶋を、比留間は未練がましく押し留めようとする。 「比留間、もう約束の時間だから行かなくちゃいけないからさ。で、どうする?お前、やめとくか?」 竹沼は飯嶋の腕を掴み、顎を出口に向ける。 「わかりました。じゃ、今日はこれまで、ということで」 比留間がいかにも不服そうに書類を二つ折り . . . 本文を読む