昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

石ころと流れ星  49

2012年01月25日 | 日記
封筒を開けては閉め、閉めては開けて、久しぶりの朝寝坊をした。開けたままだった低い窓ににじり寄り外を覗くと、いきなり瓦の照り返しが目を刺した。まだ夏の日差しが続いている。すっきり目覚めたはずの頭が、気だるく淀んでいく。眠りに落ちる直前ふと浮かびなかなか消えることのなかった「東京に行く前に”ディキシー”に顔を出してみようかな」という想いがまた浮かび、うっすらと漂っている。何かが . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  48

2012年01月23日 | 日記
コックの弟耕介が照れくさそうに復帰して一週間、彼と僕との間には自然にいくつかのルールができていった。朝の仕込みは、僕。午後、コックの休憩時間の店番は、耕助。夜の片付けと掃除は、二人一緒に。ということになった。耕助のアパートからの距離と彼が朝に弱いことをお互いに考慮した結果だった。しかし、午後に数時間の自由になる時間を必要としていた僕が、早朝の仕込みを積極的に引き受けた結果でもあった。 ランチタイ . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   47

2012年01月17日 | 日記
まず、引っ越しと東京旅行に必要な費用を大まかに計算した。下宿は、大学の学生課に貼り出されている町屋の2階であれば、3~4000円/月で見つかるだろう。引っ越しは免許を持っている友達のレンタカーで済ませばいい。東京旅行の宿泊は、高校時代の友人の下宿を次々と泊まり歩くとして、全て合わせて5万円あれば事足りると判断した。 大雑把な安産を繰り返しながら仕事を終えキッチンを掃除していると、コックの「まあま . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   46

2012年01月13日 | 日記
わずか一日余りの不在だったのに、夏の日差しに照らし出されている店の姿はすっかりよそよそしかった。僕の部屋さえ、よそよそしかった。僕が暮らし働いていた痕跡は、もう掻き消えたかのようだった。 汗に濡れたシャツとジーンズを脱ぎ捨て、敷きっぱなしの布団に胡座をかいた。尻に貼り付くブリーフが気になり、立ち上がり下ろした。素裸のまま、身に付けていた物全てを一抱えにして窓辺に行った。 窓を開け放つと、朝の冷 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   45

2012年01月07日 | 日記
早朝の京都駅には、たくさんの表情があった。広い待合室の一隅にリュックを背負った若い一群。対角の一隅に旅途中の中・高年の一群。二つの人の群れの間に丸く腰掛けているスーツ姿が点在していた。奇妙に静かだった。 子供の泣き声に奥の片隅に目をやると、眠る子供を背中に、胸にした赤ん坊をあやしている母親の姿があった。生気が、その一点から待合室全体に漂っていくようだった。それを機に、近くに座っていたスーツ姿が一 . . . 本文を読む