第12回
“鳥正”の奥、座敷席で待っていたのは、飯嶋だけではなかった。竹沼も同席していた。
「おや。珍しい取り合わせだねえ」
向かいに腰を下ろし、おしぼりを手にしたまま、高山はしばし二人を見比べる。同い年の54歳。高山が初めて紹介した時はライバル心剥き出しだった二人が席を同じくしていることに、月日の流れを感じる。
「君たちよく会ってるの?」
「ここ2~3年かなあ、 . . . 本文を読む
第11回
久美子の訪れから一週間が経った。
高山オフィスのセンターテーブルには、新聞、雑誌の切り抜きの山ができつつあった。スタッフ二人が次々とページをめくり、これはと思う箇所を切り抜いては積んでいく。高山はその様子を腕を組んで見つめながら、時折溜息を漏らす。
毎年定期的に行われる資料集めとプレゼンボード制作も、もう30年を過ぎた。4台のパソコンがデスクに載っていること以外、事務所の景色は何ら . . . 本文を読む
第10回
「あなた、そろそろ帰りなさい!」
6人がやっとのカウンターバー“ミッドナイトラン”の時計は2時を指している。「お客さんがいる間が開店時間よ」といつも言っているママが客に帰りを促すのを、竹沼は初めて目撃する。
カウンターには客3人。入り口近くから、竹沼、吉野、若い女性の順に並んでいる。竹沼と吉野が持ち込んだ議論は、ママの「不景気なのよね~~。あなたたち意見が違 . . . 本文を読む
第9回
「“ミッドナイトラン”にでも行ってきな!」と言った高山の意図を汲み、吉野と竹沼の後を追った田端だったが、二人の諍いを止めることはできなかったようだ。
コピーライターとしての将来に40歳前に早々と見切りを付けた竹沼と、カメラマンから写真家へのステップアップにまだ未練が残る吉野は、ここ数年些細なことから言い争いになることが多かった。高山の眼前で掴み合いになったこ . . . 本文を読む
久美子は、タクシーを富ヶ谷の交差点で止めた。深夜だというのに、交差点を行き交う人の数は多い。コンビニの灯りに、羽織っただけのダウンコート姿が恥ずかしい。急がねば、と思う。
高山のマンションに着く。一群の人だかりが喧しい。横をすり抜ける。中庭に高山オフィスからの明かりは、もうない。池があることに気付く。小さな水面に月明かりが揺れている。安達が何度か口にしたお気に入りの池なのかもしれない。生き物がい . . . 本文を読む