昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   43

2011年09月19日 | 日記
「俺なりの説明してええか?リンゴ箱の中のリンゴが一個腐ると他のリンゴも腐るやろ。それを防がんとあかんから、腐った一個を急いで取り出す。……いうことやと思うで。黒ヘルの基本的な闘争方針は」 上村が鼻を鳴らす。 「箱を替えると、中にいるリンゴにとってもっといい環境になる。いうことやないの?リンゴを潰すんやのうて、箱を潰すん違う?」 和恵が、すかさず修正する。僕には、ど . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   42

2011年09月16日 | 日記
皆藤さんの名前を最初に耳にしたのは、東京3人組からだった。彼らは、どこから入手したのか、学費値上げ反対に端を発した学園紛争の経緯を詳細に知っていた。彼らが異口同音に、重要人物として挙げたのが、皆藤さんだった。 「オーラのある人だったらしいよ」「演説の一言一句に、借りものじゃない魅力があったんだってさ。きっと文学青年だったんだね」「詩集を作ってたらしいよ。それがさあ、意外と古典的なものだったんだっ . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   41

2011年09月12日 | 日記
「もし、もしやけど、革命に本気で小杉さんが突っ走って行ったら、夏美さんも武器を取ってた闘わはるんやろか?」 僕は残る疑問を素直にぶつけてみて、すぐに失敗したことに気付いた。革命という言葉に“もし”を2つも付けてしまったからだ。おまけに“本気で”という言葉は、小杉さんのみならず、黒ヘルの存在理由を軽視していると採られかねない。 「ちょっと待て~!」 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   40

2011年09月09日 | 日記
「あ!柿本君、何かひっかかてるん違う?」 和恵がぽんと肩を叩く。「うん」と頷くと、和恵は“わが意を得たり”の顔になった。 「夏美さん、炭鉱町の出身やろ?“新しい”とか“もう古い”とかに、小さい頃から振り回されてきはったんよ。それで、次の“新しい”に出会うこともなしに集団就職で出てきはったやろ。家族の . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   39

2011年09月06日 | 日記
和恵は上村のウィンクを睨み返し、コーヒーカップを口に運ぶ。その口元を見つめる上村の目に、小さな棘がある。僕は、ディキシーのカウンターで僕が座った位置と、僕の右肩にしきりにしなだれかかっていた和恵を思い出した。 上村と和恵には、別れ話が持ち上がっているのに違いない。別れの意思表示をしたのは和恵で、上村にはたっぷりの未練があるように見える。和恵の僕にしなだれかかる姿は、僕を意識してのことではなく、む . . . 本文を読む