昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  64

2012年04月11日 | 日記
3時間後、僕は新幹線に乗っていた。座席深く埋もれていくような倦怠感に包まれていた。が、晴れやかな気分だった。奈緒子のお蔭で取り戻した肉体の、奥深くに巣食っていた卑しい虫たちがいなくなったような気分だった。初めて知った人肌の染み入るような温かさや、肌と肌が貼り付き合うような汗のお蔭だと思った。 身体は睡眠を求めているのに、頭は冴えていた。目を閉じると、彼女の表情や小さな仕草が思い出された。どうして . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  63

2012年04月06日 | 日記
僕は下から腕を伸ばし、奈緒子を抱きしめようとした。しかし、奈緒子に両手首を押さえつけられた。さほど強い力ではなかったが、その指先には有無を言わせない意思が籠っていた。 僕の腕から肩へ、肩から全身へと力が抜けていく。奈緒子が乗っている腰骨がきしんだ。 「帰る前にちゃんと言って。ねえ、ちゃんと、ね。……私のこと、どう思ってる?これから私たち、どうなるの?ケンちゃんは、ど . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  62

2012年04月04日 | 日記
瞼の裏が焼けるほど熱くて、目を覚ました。目を開けると、日の光に直撃された。痛いほど眩しく、また目を閉じる。首を上げて薄く開けた片目で見回したが、辺りはすべてが白く霞んでいた。 目覚めた直後は、どこか見知らぬ所に置き去りにされたような不安があったが、素っ裸の自分に気づき、汗ばんだ胸や下腹部に手で触れると、現実が一気に蘇ってきた。ひどくお腹が空いていた。 「起きたの?」 陽射しに慣れてきた目に、 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  61

2012年04月02日 | 日記
坂田との交際や彼から聞いたという僕の話はほどほどに終わり、奈緒子の話の大半は水上に関することだった。水上に手紙を手渡された時の驚きと戸惑い。彼との手紙のやり取りからわかってきた水上の偏執的な性格。一言僕について触れてから以降繰り返された、執拗な僕との関係に対する疑いと僕への批判。そして、そんなことに疲れた奈緒子が水上の手紙に返事を書かなかった時から始まった彼女に対する個人攻撃…&he . . . 本文を読む