昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

とっちゃんの宵山 ⑭

2016年10月24日 | 日記
とっちゃんに案内された“松の湯”は、販売所から数百m東、北山通りから2~30m北へ上がった所にあった。まだ農地が多く、銭湯を営むには不向きな一角にも見えたが、次々と建築されるアパートの住人にとっては貴重な存在だとも推察された。 僕たち3人は、“松の湯”の前でとっちゃんを待った。“おっさん”にいよいよ会えることに、気分は高揚し . . . 本文を読む

とっちゃんの宵山 ⑬

2016年10月11日 | 日記
翌日、販売所の朝はがらりと一変した。山下君が帰ってくるまではお菓子が出てこないこともあって、まずはとっちゃんの独演会。 話題の中心は山下君。自衛隊という言葉には多少馴染みはあっても、山下君から出てきた言葉の多くは、とっちゃんにとっては初めて遭遇するものだったらしく、まずは僕への質問から始まった。 「しかし、なんやあれ?グリグリ~~~、ほれ!ほれ!あれや。シ、シ、シ‥‥」 「新宿?資本論?」 . . . 本文を読む

とっちゃんの宵山 ⑫

2016年10月04日 | 日記
「グリグリ~~。どうや?」 翌朝、いつもの席に陣取ったとっちゃんは、配達から帰ってきた僕を、後輩を迎える顔で待っていた。 「どうや、って?」 「びしょびしょやないか」 「平気、平気」 「濡らしてへんやろうなあ」 「新聞は濡らしてない!」 大沢さんと桑原君が様子を伺っている。 「グリグリも一人前になったもんや」 とっちゃんはブウとタバコの煙を噴き出し、尖った口先でフィルター部分まで . . . 本文を読む