昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   38

2011年08月30日 | 日記
「京都駅の近くに深夜喫茶ありましたよね?」 僕は近すぎる和恵の顔を避けながら、そこにいるみんなに届くように声を上げた。 「烏丸七条の辺りにあった思うなあ」。気だるい上村の声に、ポケットをまさぐる。千円札一枚と小銭に指先が触れる。ジンライム3杯目から無料になっているおかげで思いのほかのお金が残っている。 「でも深夜喫茶、高いんと違います?」 「そら、深夜料金やからなあ。ちいとは高いやろう。小 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   37

2011年08月12日 | 日記
「その話はやめとこ!」。小杉さんが夏美さんを下から睨みあげるように言う、その語調が大きな痛手だったことを伺わせる。ずっと僕の右肩に軽くもたれかかっていた和恵は右肘を少しつねるようにした。 「皆藤君の話は止めとこうな。……私らの話も、今夜はこれくらいにしとこうか。……柿本君、また話そうな」 「いきなり喋り過ぎ違うか~?まだそんなに親しいわけ . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   36

2011年08月08日 | 日記
夏美さんは、小杉さんの唐突な申し出を受け入れた。バイト代の希望を聞くと、「三日間はまず使ってみてください」と殊勝なことを言う。「20歳になったとこです」と言う割には幼い面立ちと自信に溢れた断定的なもの言いのアンバランスが、夏美さんには興味深かった。議論に興じる学生たちの中にあって、「まずは働いてみてみないと……」という行動力にも惹かれた。 「田舎の弟を思い出したんやけ . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   35

2011年08月01日 | 日記
ある時はさりげない、またある時は大胆なアプローチを、夏美さんは受けた。夏美さんは大いに戸惑い、喜び、驚きながら、その一つひとつをきちんと受け止めたが、受け入れることはなかった。そしてそのうちに、慣れていった。 学生たちのアプローチのほとんどは、ガクさんの“自分の気持の説明ができなと……”という言葉からすると、夏美さんには、形も色も定まらないもの . . . 本文を読む