昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……15.家の完成。そして……

2013年07月26日 | 日記
家の完成。そして…… ここだぞ!」と公平に案内されて目の前にした土地は、区画整理途中の分譲地の端、大川に近い角地だった。 「50坪って、狭いんだねえ」 隣の優子に呟くと、組んでいた腕の肘をつねられた。 「僕ん家、ここにできるの?」 尋ねる幸助に「そうだよ。幸助の部屋、どの辺かな?」と応える優子の声が、弾む。 総予算1200万円と聞かされ、とても現実のものとは . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……14.至福の日々の訪れ

2013年07月18日 | 日記
至福の日々の訪れ 日々被災現場に通う毎日は、義郎にとって新鮮なものだった。 父親は夏場は夜の鮎漁に出かけることが多く、冬場はほとんど山に籠っている、という生活だったので、父親が毎朝出かけ毎夕帰って来るという暮らしを、義郎はしたことがなかった。 役所勤めや数少ないサラリーマンの家庭を羨ましいと思ったことはあったが、そんな家庭に足を踏み入れると、すぐ帰りたくなった。居心地が悪く、空気も澱んでいる . . . 本文を読む

第四章“ざば~~ん”……13.公平の転機

2013年07月04日 | 日記
公平の転機 “台風の目”を自認していた公平が、「俺は、弱い台風だなあ」と長嘆息したのは、義父が息を引き取って一週間後、バー“寄り道”の奥でのことだった。 「たまには二人で飲むか」と誘われた時からわかっていたような展開だった。終始寡黙な公平の横で、ただただ自分の先行きの不安と戦っていた義郎は、「そんなことないよ」と応えるのが精一杯だった。 見事な . . . 本文を読む

第四章“ざば~~ん”……12.危機からの脱出

2013年07月02日 | 日記
危機からの脱出 大川の堤防が右に大きく曲がる直前、辺り一帯が一瞬白く輝いた。直後には、軽トラの屋根を揺るがす衝撃が襲ってきた。ブレーキを踏むのと同時に、前方を稲光が走る。バリバリという雷鳴の音に目を凝らすと、松が淵の上に屹立している一本杉の先端が赤く燃えていた。驚いた義郎は軽トラを止め、雨の中に出ていった。嫌な予感がした。 それは、義郎に勇気を与え続けてくれた一本杉だった。   . . . 本文を読む