家の完成。そして……
ここだぞ!」と公平に案内されて目の前にした土地は、区画整理途中の分譲地の端、大川に近い角地だった。
「50坪って、狭いんだねえ」
隣の優子に呟くと、組んでいた腕の肘をつねられた。
「僕ん家、ここにできるの?」
尋ねる幸助に「そうだよ。幸助の部屋、どの辺かな?」と応える優子の声が、弾む。
総予算1200万円と聞かされ、とても現実のものとは . . . 本文を読む
至福の日々の訪れ
日々被災現場に通う毎日は、義郎にとって新鮮なものだった。
父親は夏場は夜の鮎漁に出かけることが多く、冬場はほとんど山に籠っている、という生活だったので、父親が毎朝出かけ毎夕帰って来るという暮らしを、義郎はしたことがなかった。
役所勤めや数少ないサラリーマンの家庭を羨ましいと思ったことはあったが、そんな家庭に足を踏み入れると、すぐ帰りたくなった。居心地が悪く、空気も澱んでいる . . . 本文を読む
公平の転機
“台風の目”を自認していた公平が、「俺は、弱い台風だなあ」と長嘆息したのは、義父が息を引き取って一週間後、バー“寄り道”の奥でのことだった。
「たまには二人で飲むか」と誘われた時からわかっていたような展開だった。終始寡黙な公平の横で、ただただ自分の先行きの不安と戦っていた義郎は、「そんなことないよ」と応えるのが精一杯だった。
見事な . . . 本文を読む
危機からの脱出
大川の堤防が右に大きく曲がる直前、辺り一帯が一瞬白く輝いた。直後には、軽トラの屋根を揺るがす衝撃が襲ってきた。ブレーキを踏むのと同時に、前方を稲光が走る。バリバリという雷鳴の音に目を凝らすと、松が淵の上に屹立している一本杉の先端が赤く燃えていた。驚いた義郎は軽トラを止め、雨の中に出ていった。嫌な予感がした。
それは、義郎に勇気を与え続けてくれた一本杉だった。
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