天使との4泊5日 ⑤(最終回)
リビングの床、バスタオルの上に寝転び、晴れ渡った空を遠く眺める。初夏の日が煌いている。暑いくらいだ。南西向きの窓は、これからさらに日差しが強くなるだろう。
リビングの片隅でトイレシートにメグがしゃがんでいる。希子はなんとも無防備な姿で眠っている。
腰にバスタオルを巻き、冷蔵庫に立ち上がる。食料と飲料をチェック。冷凍庫を開けると、買い . . . 本文を読む
天使との4泊5日 ④
バスルームから戻ると、希子はまだ熟睡の中にいた。隆志の足音にメグが顔を上げる。昼光の下で見ると、もう子猫ではなさそうだ。
そこに希子がいる、その横にメグがいる、そんな光景が休日の午後の陽だまりの中にあることに、自然と笑みが漏れる。
家庭を存在し継続させていくことができるのは、“あるべき処にあるべき存在がある安心感”。そんな . . . 本文を読む
天使との4泊5日 ③
小学校6年の時、同じクラスにA君という男の子がいた。みんなから少し煙たがられている子だった。普段はさしたる問題も起こさない子なのだが、気の短い所があるのが玉に瑕で、一旦怒りに火が付くと止めようがなくなった。だが、何が彼の怒りを誘発するのかは誰にもわからなかった。ある男の子は、学校帰りに肩を組んだ瞬間に殴られた。また、ある女の子が「消しゴム貸してあげよ . . . 本文を読む
天使との4泊5日 ②
リビングに通す。希子はすぐにメグを移動ハウスから解放。メグは辺りを少し嗅ぎ回り、キッチンから隆志が運んできたトレイの水に口を付ける。
「お腹空いてないかな?」
隆志はメグにしゃがみ込む。と、笑い声がする。見ると、フローリングを撫でる希子の笑顔がある。凭れたソファの上にはストールが丸められている。
「隆志、緊張してない?」
「いや。&hellip . . . 本文を読む
*これまでの連載に加筆修正をして完成させたものです。
最終決定のタイトルは「天使との4泊5日」です。
本日より、5日連続で掲載します。
かなり変わっていると思います。改めてお読みください。
天使との4泊5日 ①
GW最後の朝。カーテンの開け放たれた東南の窓に初夏の日差しが眩しい。
隆志は瞼の裏を白く照らされ、ベッドを転々とする。両手がシーツの上を探るが . . . 本文を読む
3日目。快晴の朝、希子はもうベッドにはいない。開け放ったカーテンの向こう、ベランダには洗濯物。希子のワンピースのようだ。首を廻らせてみるが、姿は見えない。リビングへ入ると、Tシャツの後姿がメグを抱き、開けた窓に向いて立っている。壁の時計は、午前10時。柔らかい風が通っている。
ダイニングテーブルの上には、クロワッサンが数個。レンジではお湯が沸いている。
「クロワッサン、どうしたの?」
「冷凍 . . . 本文を読む
「手塚さんは、自分の居場所を見つけたね。次は自律だね。で、ナオミさんのその後は?わからずじまい?」
「残念ながら」
「手塚さんとナオミさん、どんな関係だった?」
希子に問われ、隆志は二人の経緯を、同棲開始から隆志のプロポーズ後に至るまで、かいつまんで話した。
「手塚さんのバスルームに残ってた赤と青の染料の跡と紫に染まった生地、ナオミさんからのメッセージだね」
「メッセージ?」
「彼女の . . . 本文を読む
リビングの床、バスタオルの上に寝転び、晴れ渡った空を遠く眺める。初夏の日が煌いている。暑いくらいだ。南西向きの窓は、これからさらに日差しが強くなるだろう。
リビングの片隅でトイレシートにメグがしゃがんでいる。希子が置いておいたのだろうか。ガード下に忽然と現れた娘とは思えない心配りだ。しかも、なんとも無防備な寝姿ではないか。
腰にバスタオルを巻き、冷蔵庫に立ち上がる。食料と飲料をチェック。冷凍庫 . . . 本文を読む
バスルームから戻ると、希子はまだ熟睡の中にいた。隆志の足音に気付いたのか、メグが顔を上げる。昼光の下で見ると、子猫ではなさそうだ。発達障害の猫なのかもしれない。
自分の頬に笑みが浮かんでいることに気付く。
シャワーの陰で漏らした嗚咽の余韻はもうない。そこに希子がいること、その横にメグがいること、そんな光景が休日の午後の陽だまりの中にあること。
あるべき処にあるべき存在がある安心感。そんな独り . . . 本文を読む
「実は俺、退学することにした」
手塚の言葉に、手にした水を落としそうになる。
ナオミが訪ねてきてから3日が過ぎた夜。隆志は手塚に呼び出されていた。
身に覚えのない罪を裁かれる気分でやってきた“ブラック&ホワイト”のカウンター。
手塚の第一声は、しかし、思いもよらないものだった。
「どうしたんですか、いきなり」
「いきなりじゃない。半年間考え抜いたことだ」
「退 . . . 本文を読む