昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……46(終).幸助の決意

2013年11月15日 | 日記
幸助の決意 優子はまだ、決壊した場所にしゃがみこんでいる。幸助が怒りに声を荒げるのを背中で聞いていたようだ。幸助はその背中に近寄り、声を掛ける。 「母さん、帰ろう!」 優子の背中は動かない。幸助の怒りで満たされていた目は、その背中を見て色を変える。 この人は、一晩で大切なものを川の流れに失ったんだ。さらに自分の日記が追い打ちをかけている。怒りの声を上げる息子の姿はきっと、見るに堪えないもの . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……45.過去との決別

2013年11月13日 | 日記
過去との決別 幸助は一歩前を行き、後ろに手を伸ばす。優子がその手を取る。久しぶりに触れる母の手は、拭った涙で少し濡れていた。 階段を下りる。優子がそっと手を離す。義郎の生死に関する覚悟を、幸助は感じる。何を免れた2階から1階に下りると、しかし、フローリングの泥に現実に呼び戻される。 「幸助君」 小さな呼び声に、一瞬身体が硬直する。優子がまた手を握ってくる。 「幸助君」 今度は少し大きく . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……44.幸助の日記

2013年11月11日 | 日記
幸助の日記 中学2年の新学期が始まった直後、幸助は学校の帰り道、“お前の親父偽物らしいな”と言われる。“どういうこと?”と訊き返すが“そういうことだよ”と言われ、そのまま押し黙った。その後二度と同じような言葉を聞かされることはなかったが、義郎は本当の父親ではないのでは、という疑問は膨らんでいった。 その後何度か&ldquo . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……43.木箱の中身

2013年11月07日 | 日記
木箱の中身 振り向いた幸助の表情と声にただならないものを感じた優子は、後を追う。泥にぬかるむ急坂に足を滑らせ転んだが、その悲鳴にも幸助は振り返らない。 長沼が駆けつける。助け起こされ、二人で幸助の後を追う。 「お~~い!優子~~~!どうした~~~?」 背中に達男の声が届く。 「うるさい!」 一瞬立ち止まり、振り向きもせずに優子が怒鳴る。長沼は思わず、掴んでいた腕を離す。 「ごめんね、 . . . 本文を読む

昭和少年漂流記:第四章“ざば~~ん”……42.義郎との別れ

2013年11月05日 | 日記
義郎との別れ 1992年初夏、本格的なシーズン到来前の台風がもたした豪雨に、万全な修復が施されたはずだった大川の堤防の一部はあえなく決壊した。決壊箇所は一か所、松が淵の突き当たり、下沢地区を守るべき個所だった。 「ここなんだよな、いつも」 「戦後だけで3回目だろう」 「前回の修復、完璧だったって聞いてたけどなあ」 「破られ癖が付いてるとしか思えないなあ」 「松が淵に魔物でも棲んでるんじ . . . 本文を読む