昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   21

2011年05月30日 | 日記
5時前に店に辿り着き、入り口を開けた時には、一旦乾いたシャツが汗に濡れていた。 「お~~~!どやった?楽しかったか?」 コックの迎える声に店内を見回すと、奥のテーブルで入口の方を向いている一人の客と目が合った。 「いらっしゃいませ~~」と声を掛ける。しっとりと生暖かく下半身をくるんでいるジーンズが気持ち悪い。 「ちょっと着替えて来ますわ」 カウンター越しにコックに小声で告げる。調理台の上 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   20

2011年05月27日 | 日記
三枝君と京子がいそいそと帰っていくのを、僕はバスタオルを腰に見送った。後には、睦言の余韻が残った。 窓から路上を見下ろすと、肩を寄せ合うようにして急ぐ二人の後ろ姿が光っていた。 「アイロン借りてきたから、ちょっと待っててね~~」 声に振り向くと、和恵が古そうなアイロンをかざしていた。彼女が寝ていた掛け布団の上には、僕のジーンズが置かれている。 「悪いね」 ぴょこりと頭を下げて、気付いた。 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   19

2011年05月23日 | 日記
小杉さんへの怒りがどこから生まれたものなのか。それもクリアになったような気がした。「“庶民”とはなんだ!!そこに選民意識はないか?!って、俺は君にも言いたい!」 そんな怒りの言葉を三枝君に吐きながら、僕ははっきりと思い出した。吉田山の山頂で僕の頭に血を上らせたのは、“一般大衆”という言葉だった。 「組織の運営は、一般大衆を操作するのに似ている」 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   18

2011年05月20日 | 日記
三枝君の声に、その隣でうつ伏せになっていた女の子が、身体を反転させる。 「大変やったんから、本当に~~。柿本君」 京子だった。酒のせいか、声がしわがれている。口の端を気にしながら起き上がる。 「自分が何を言い、何をしでかしたか。柿本君、覚えてないでしょう?」 思い出そうとした瞬間、頭頂部に痛みがあることに、僕は気付いた。高校生の時、教師に拳骨でグリグリされた後に似ていた。何をしたというのだ . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   17

2011年05月16日 | 日記
僕の大きな叫び声に三枝君は僕の頭を抱え込み、「気付かれたやないか~~!」と潜めた声に力を込めた。 「何しとんねん!」 その姿を諍いと見た小杉さんたちが近付いてくる。三枝君は慌てて僕の頭から腕を放した。が、遅かった。 「こんなとこでエネルギー無駄にせんでもええやろ~~」 一升瓶を持った影も駆け寄って来て、瞬く間に僕と三枝君の周りに全員が集合することになった。 「なんでもないですから。心配せ . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   16

2011年05月10日 | 日記
「京子、君のアパートに行ったんやろ?何しに行ったんや?泊まったんか?」 三枝君の畳みかけるような質問にたじろぎながら、僕は紙コップの酒をあおった。目を小杉さんの方へ向けると、小杉さんに寄り添うようにしている二人の女性が見えた。一人は、京子のようだった。 「あの人、あの小杉さんの隣にいてはんのが、夏美さんや。小杉さんの彼女や。ナンバー2や。京子が気い使うてんの、わかるやろ?立ち位置で」 三枝君 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   15

2011年05月06日 | 日記
吉田山山頂の広場は月の光に照らされ、表情が読み取れるほどの明るさだった。遠く嵐山の花火を臨みながら、大文字や街並みをひと通り眺め終わると、改めてお互いの顔を確認しながら、自己紹介をした。 京子の友人は一美といい、やはり一度京子の部屋で会っていた。目を伏せがちに話す姿に、初対面の時の印象をはっきりと思い出した。 僕から西瓜を奪い取るようにした三枝君にも、見覚えがあった。その旨を告げると、 「一 . . . 本文を読む

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   14

2011年05月02日 | 日記
東大路をゆっくりと北上。東山一条を右折すると、緩やかな坂道になる。平坦だと思っていた京都の街に、初めて起伏を感じる。 「もう山登り始まってるみたいやねえ」 いつの間にか前を行く京子に声を掛けると、「山言うても、丘みたいなもんやからねえ」と笑顔で振りむいた。彼女は初めてではないようだ。 鬱蒼とした一角を目指して数分。吉田神社の鳥居に着くと、10人ばかりの男女が群れていた。顔の識別の出来ない距離 . . . 本文を読む