遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『無頼無頼ッ! ぶらぶらッ!』 矢野 隆  集英社

2013-07-12 17:52:02 | レビュー
 単行本の表紙が劇画タッチだが、この小説そのものが劇画化されるのにもってこいのストーリー展開だと感じた。著者の『蛇衆』をおもしろく読んでいたので、本書も楽しめるのでは・・・・と手に取った次第。

 徐福伝説を種にした怪奇冒険潭小説とでも言えようか。主人公は二人。蜘蛛助と犬飼兵庫である。
 蜘蛛助は行商人。笑うと不思議な魅力を発揮する男。好奇心のかたまりだ。不可思議を追い求めている。「この世のすべてを己の目に焼きつける」という夢、欲望を持っている。行商の旅を続けるのはそのためであり、生業は二の次。「小袖に股引姿。手足には手甲脚絆をつけ、羽織は目を引く鶯色」という風体。背中に木箱を背負い、天秤棒を突きながら歩く。この木箱は、なんだかドラえもんの何でも出てくるポケットみたいなもの。ストーリーの中で、いろんな小道具がこの箱から取り出されてくる。
 犬飼兵庫は、今は蜘蛛助の用心棒のような形で一緒に諸国を流浪している。それは、道場で無惨な死を遂げた父の仇を探し求める旅でもある。仇討ちのための諸国遍歴のために、蜘蛛助に同行するのはそれなりに目的にも適う旅になるという次第。だが、蜘蛛助の不可思議を求める夢と行商行為のために、兵庫が様々なトラブルに巻き込まれて行くという次第。蜘蛛助は好奇心・謎を解く知恵を働かせ、兵庫は襲い来る艱難の障壁を打ち払い、斬り払うという分担の旅でもある。
 この視点でいけば、このコンビの小説、シリーズ化を期待したいものである。

 さて、本書については、蜘蛛助が煙草の葉の行商が一段落し、小金ができたところで不可思議のネタ探しに行くところから始まる。場所は博多。兵庫と3日後に落ち合う約束で別れた後、蜘蛛助が仕入れてきた不可思議のネタは、いい女から仕入れてきた話。阿蘇の深山幽谷の果てに巨大な鉄の門があるという。そこに至る簡単な絵図も入手したというのだ。蜘蛛助には、この巨大な門の存在を自分の目で確認し己の目に焼きつける、この一念あるのみ。この目標を達成することしか、もう脳裡にはない。兵庫はその荒唐無稽な話を胡散臭く思い、文句も言うが、結局、蜘蛛助の巨大な鉄の門探しの旅に同行することになる。

 荒唐無稽の話の展開に尽きる。美しい女に教えられた巨大な鉄の門に到達するには、とんでもない試練が次ぎ次ぎに待ち受けているというストーリー展開である。この話が劇画タッチの行動という理由はそこにある。絵になる活劇なのだ。まあ手放しで楽しめる作品というところか。

 試練の冒険潭は鉄の門に至るプロセスでの謎解きの積み上げでもある。試練の冒険潭が一章単位に語られていく。各章がある意味1回分の読み切り活劇として楽しめて、緩やかに謎解きストーリーとして繋がって行く。兵庫が争闘を引き受け、蜘蛛助を守る。蜘蛛助は目標のために目の前にある謎を考え抜き、次に繋ぐ答えを導き出すという次第。

 そこで、冒険潭の構成展開は次のとおりである。
<拒みの里>  知恵が試される
 賊に襲われている翁を助けた二人は、翁と山小屋に泊まり、里の野菜と猪の肉を煮こんだ田舎料理を振る舞われる。ところが、翌朝、蜘蛛助の左足が痺れる結果となる。翁が足の経絡に支障を及ぼす細工をして消えたのだ。最初の罠がはやくも仕掛けられてしまった。なぜか、兵庫には痺れが出なかった。
 痺れる足で歩く蜘蛛助が絵図に書かれた集落を見つける。二人は集落の中に入っていくが、そこは「拒みに里」だった。
 里の中を辿って行くと、なぜか元の場所に舞い戻っている。そこから蜘蛛助の謎解きが始まる。

 迷路の謎を二人が解いたところで、あの翁が再び出現する。ここで立ち去るなら、蜘蛛助の足を元通りにしてやるという。当然、蜘蛛助は拒絶する。ならばと、翁は懐の紙切れを蜘蛛助に放り投げる。

<企みの森>  力が試される
 迷いの里を抜けてから7日目の昼、果てしない森の中に居る。7尺にとどこうかという巨大な影が現れる。蜘蛛助が熊と名付けた大男。この熊は二人が先に進むのを阻止しようとする。壮絶な戦いが始まる。なんとか二人はこの闘いを克服する。
 その熊の名前は、趙英だった。黄泉の民に古くから伝わる名前だという。蜘蛛助はその趙英から「はるか昔、黄泉の民は海を渡ってきたそうだ」と聞き出していた。

<見えずの童> 知恵が再び試される
 趙英が指さした道の先で、二人は山奥のひなびた里に辿り着く。
 通りを歩くと、二人を見た里人は足早に去り、拒絶の意志を示す。
 火事のあった更地に、無惨に切りきざまれ、さらされた血まみれの侍を死体を目撃する。その後、5,6歳の薄汚い衣服をまとった男の子を見つける。その子は行く先々で「見えず」の扱いをされているのを二人は後をつけて知る。この童との出会いが、新たな試練の始まりとなる。ここでは蜘蛛助の思考回転が大きな冴えを見せる。蜘蛛助はこの童を小丸と名付ける。
 最後に、この小丸が二人をこの里の長である老婆の許に連れていく。

<蛮勇の砦> 再び力が試される
 9尺ほどの錆だらけの鉄の門のある場所に辿り着く。岩山の切り通しに作られた門である。
 その鉄の門をくぐり抜けて行くと、岩山を地形を利用した堅牢な砦。月明かりに照らされた山道を一人の女が歩いていく。その女は、なんと蜘蛛助が博多で会い蜘蛛助に絵図を与えた女だった。二人はその女の後を追跡するところから、この冒険潭が展開する。
小さな洞穴を抜けた先には、一見でざっと1町四方ほどありそうな岩石の広場。そこでは豚面の猪男との格闘に陥る羽目になる。
 その男の名は徐厳、女は徐華という。徐厳は懐から1枚の獣の革を取り出し、蜘蛛助に渡す。それは経絡を記した人体の図だった。そして、徐福のこと、不老不死の妙薬のことなどを知る。人体経絡図はここまで辿り着いた褒美だという。

<黒鉄の大門> 観察力、知恵と勇気が試される。
 砦を出てから3日。徐厳の言った岩山の頂上に着く。辿り着いたのは断崖絶壁。
 この章の面白いのは、よく観察して謎解きをする。そして行動するには決断と勇気が要求されるというところ。此岸から彼岸へどうして渡るか? その謎解きが問題だ。
 蜘蛛助の状況観察、知恵の回転と兵庫の観察眼が相乗効果を発揮していくおもしろさが味わえる。ちょっとインディージョーンズ風のもじりがあって、これも余興か。

<黄泉返りの果て>
 冒険潭の大団円。各章の登場人物達、首謀者、兵達が出そろう。そこで、あの翁から、黄泉の民のいわれが語られる。蜘蛛助と兵庫のいずれかが、選ばれし者になるように望まれるのだが・・・・・話はそう簡単には終わらない。
ここで最後の壮絶な闘いがはじまって行く。それは生き様の哲学をかけた闘いでもあるのだ。
 結構、考えられた話の展開になっている。徐福伝説もここまで展開できるのか・・・小説作家が生み出した想像力の織りなす伝説世界。その荒唐無稽さ、波瀾万丈を大いに楽しめる。まさに劇画世界である。原作・矢野隆、劇画・某・・・という具合で、二度目の楽しみができないものか。

 手放しで、謎解き活劇をしばし楽しめる軽快なタッチの作品だ。


ご一読ありがとうございます。

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脇道にそれた好奇心から検索して、調べてみた。徐福が神になっている!

徐福 :ウィキペディア

徐福ゆかりの地 日本の徐福伝説
 徐福伝説 :「伝説の扉」
 佐賀に息づく徐福 :「Jofuku Saga」
 徐福伝説 :「邪馬台国大研究」

 徐福伝説 鹿児島県串木野市冠岳 :「ワシモ(WaShimo)」
 徐福公園  :「財団法人 新宮徐福協会」
 新井崎神社 :「伊根商工会」
 徐福雨乞地蔵祠 The Regend of Xu Fu :「flickr」


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