遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『ガイアの法則』 千賀一生  徳間書店

2012-08-16 00:32:48 | レビュー
 著者は「2003年8月21日、私は破壊されつくしたイラクの首都バグダッドに立っていた。」という書き出しで始めている。その直後に、「この決断によって、私は思いがけない人類についての情報をつかむことになった。この体験については、あまり特異であるので、まずはファンタジーとしてお読みいただきたい。その上ですべての判断は読者にゆだねたいと思う。」と書き込んでいる。裏返せば、ファンタジーではないと暗に示唆しているのか。だが、本書の最後には、「本書はファンタジーであり、すべてフィクションです。登場する人物、団体、地名、国名などはすべて架空の世界です。本書の内容が現実の出来事と一致しているのは、偶然の一致とお考えください。」と印刷されている。これは著者が書き加えているのか、出版社が載せているのか、定かではないけれど・・・・

 私は結局、サイエンス・ファンタジーとして本書を読みとることにした。かなりの空想力を交えて、事実に近い偶然の一致点を組み込み、現実の出来事を多少あるいはかなりファンタジーの世界にシフトさせて架空の世界での整合性をはかったもののように感じている。非常に興味深くおもしろいところがありながら、どうもすんなりとは納得できない部分もあるからだ。まあ、ファンタジーとしては、一気に読ませる魅力があると思う。また、こういう見方ができるか、という点で過去を考察する思考材料としては有用である。ただ、科学的思考という観点で考えると、過去の事実、既知の事実の正確性の上に組み立てないと意味がないので、この点では距離を置いておく必要がある気がする。まあ、私の理解力不足のなせるわざかもしれないが・・・・。
 本書の評価は、まず読んでいただいて、ご判断いただだくのがよいだろう。
 「我々の常識を覆すような情報の真偽」を問うためには、その情報は正確な事実に基づいて組み立てられていなければならないと思う。

 このファンタジーの基本的コンセプトだと私が理解したことを少し、読後印象を含めてご紹介しておきたい。
 バクダッドに着いた著者は、一人のユダヤ人に誘われ、エリドゥの遺跡に案内される。そのユダヤ人は先に帰り、著者一人遺跡に留まる。そして、過去に何度も体験したことがあるトランス的体験をここでもするのだ。そして著者の意識は6000年前のエリドゥの地に至る。そしてシュメールの最高神官に出会う。本書はその最高神官が著者に語った内容を、著者が後で確かめてみた、という設定になっている。このあたり、ファンタジーとしては巧妙な設定である。
 「人類の文明がこの地から始まったのは偶然ではない。我々シュメールの神官は、時間と空間の法則を知っていた。それぞれの時には、そのそれぞれの時をリードする場というものがあるのだ、人類文明の誕生を導いた我々は、そこに一つの法則があることを知っている。その法則は、人類のすべての歴史に例外なく流れ、今日まで続いている。」(p22)として、最高神官が著者に授けた叡智が、本書・ガイアの法則なのだということになる。なかなか上手な展開だ。

 最高神官は天体が産み出す「聖なるリズム」がこの地球にあるリズムを形成し、世界の文明の盛衰、勃興もこの「聖なるリズム」の産み出したものなのだということを語っていく。 この最高神官は、シュメール文明の宇宙周期象徴学という概念を持ち出す。常識を真に覆すには、シュメール文明が「宇宙周期象徴学」を検証できる証拠を資料として残している事実が存在するのか。その有無を明確にしなければならないだろう。(ネット検索をしてみたが、有無の判断を的確にできる情報を見つけられなかった。)この宇宙周期象徴学が存在する前提で話が進むので、まずはファンタジーととらえておこう。
 シュメールの叡智として、次の諸点が論じられていく。要約的にまとめてみる。

*一つの法則、「聖なるリズム」がある。
 そのリズムの焦点が結ばれる地は、生命が最も活気づく地である(p29)。つまり、文明の中心地、文明の勃興する地の移動が起こる。文明の盛衰、転移が発生する。
 「聖なるリズム」には、地球のバイオリズムが潜んでいる。1611年間に、経度にして22.5度「聖なるリズム」の焦点が西側にスピンする。(p60~62)
 つまり、1611年を1単位として、22.5度ずつ西に再優位な文明極点が移動し、そこで新文明が開化する。(p64)
 一方で、東回りに同様に移動するスピンがある。そして両者のスピンは相互作用で進展してゆく。相対性の原理に基づく命のリズムである。(p66)
 このスピンについて、「宇宙のあらゆるリズムはスピンによって引き起こされる。我々の理解では、スピンとは、物理現象以前の宇宙の脈動であり、あらゆる存在に宿る息吹なのだ」と、最高神官は説明する。(p146)
*90度という角度は聖なる角度であり、同時に1/4リズムを示す。(p32)
 このリズムから、春分、夏至、秋分、冬至という4つの特殊ポイントが生まれる.(p157)
*1/4リズムは6444年である。 (p32)→後述の歳差運動に関連する。
*地球がスピンしてもたらすリズムが命のリズムを刻み、地球上の全生命はそれに連動する。(p39)
*宇宙周期象徴学の叡智を凝縮した象徴図形が16放射線状図形である。これは天皇家の「十六菊花紋」と同一である。(p43)
 上記の22.5度のスピンとは、円の360度に対する1/16スピンであり、象徴図形の16と関係する。 (p68)
 1/16リズムに一致した場所、地域の民族に光があたり、文明の中心地になる。大地の脈動、大地の力が働いている。(p133)
 1/16スピンつまり1/16リズムの半期間にあたる1/32リズム(11.25度)のポイントは、二次的に文化の頂点となる地域である。これは聖なるリズムの派生リズムとして位置付けられる。 (p124~125)
*人類の文明は1611年をサイクルとし、東回りのスピンは最初の800年が活動期、後半の800年が停滞期(睡眠期)であり、逆に西廻りのスピンは最初が停滞期であり、後半が活動期となる。時間のサイクルも東回りと西回りのスピンと同様に正反する。 (p88)
つまり、著者は約800年のサイクル単位が、陰陽の対関係になるとする。(p89)
*地球のスピンには、自転と歳差運動という2つがある。自転のスピンは24時間。歳差運動の旋回スピンは2万5776年である。(p147)(ただし、著者は本書中で、2万6000年という数字表記をしている箇所もある。)
 そして、ここに1/16リズムを当てはめてみる。
 すると、25776年÷16年=1611年、24時間?60分÷16=90分。
 1日の自転  360度÷16=22.5度     (p148)
 一方、1/4リズムを当てはめると、25776年÷4=6444年 
 著者はさらに展開する。90分は意識のバイオリズムであり、365日÷16≒23日、この約23日は人間の身体のバイオリズムだと(p150)。「私たち人類も、地球という命のリズムによって統括されているのだ」(p141)と最高神官はいう。
 また、1611年÷16≒100年。つまり、約100年の周期もあるとする。

 16という「聖なるリズム」をマジック・ナンバーとして、法則が形成され、ファンタジーな世界が描き出されていく。
 古代文明の盛衰、移動から現代文明への『文明焦点移動』がこの「聖なるリズム」で説明されていくのである。 本書で採りあげられている1/16リズムの『文明焦点移動』は、シュメール文明・メソポタミア文明を基点に、東回りはインダス文明、唐文明、そして日本の明石・淡路島(東経135.0度)。西回りはギリシャ・ローマ文明、アングロサクソン文明。
 さらにギリシャ文明(1/16リズム)に対し、ローマ文明(1/32リズム)の関係が例として説明されている(p91)。文明のバイオリズムは1600年だという。
 またこの法則は人間のリズムにもつながっていくと説く。一方でそれは宇宙全体、宇宙の循環にも連動しているという何ともファンタスティックな展開である。実に、おもしろい。
 「この16ビートのリズムの構造こそ、宇宙のリズムそのものなのだ。」(p155)
 「この宇宙のすべてはスピンを基軸に展開するのだ。」(p271)とする。

 16というマジックナンバーについて、本書の第一ステージで、日本の天皇家が代表紋章とする「十六菊花紋」とそっくりのシンボルがユダヤ教の礼拝堂に見られる。エルサレムの遺跡、ユダヤのヘロデ王の石棺、エルサレムのヘロデ門上、シュメール時代の王家の家紋、円筒印章、戦勝記念碑など、さらにバビロニアの遺跡イシュタル門にも、酷似のシンボルが存在する。エジプトの王墓からの出土青銅器にも。
 そして、日本の歴史は、アマテラスの時代からユダヤの血縁が関与しているという。
 (p41~p51)
 このあたり、本書に関心を抱かせ、引き込まれていく導入になっている。巧みだなあ・・・と感じる。

 16のマジック・ナンバーとは別に、もう一つ、宇宙の法則だとして説明されているシュメールの整数がある。「72」と「144」だ。「一つの存在に対して恒星の中心軸と惑星の中心軸とが一直線に並ぶ時、一つのリズムの節目を形成する」(p163)とする。つまり、太陽に対して水星、金星、地球などの惑星が一直線に並ぶサイクル、それが144年だそうである。その半周期は72年だ。東経135.0度の阪神・淡路大震災を起点にして、過去を72年サイクルで遡ると、「関東大震災、東海大震災、伊豆大島噴火、桜島噴火、富士山噴火+宝永地震」(p175)が該当するという。
 本書は2010年1月発行だから、2011年の東日本大震災はもちろんこのサイクルに入っていないし、その予測はない。地震大国日本にとって、ある年数をサイクルに眺めれば、地震がピックアップできる気もするが・・・・。
 144年に1/16リズムを組み合わせると、144年÷16=9年。気学で言われる9年の運気のサイクルに結びつくという。「9年サイクルのリズムは、地球の生命体すべてに存在する主要なリズムの一つ」であり「聖なる中心力の受容周期」(p161)と説明している。
 72というマジック・ナンバー、72年周期や100年周期についても、いくつかの一致事例が説明されていて、興味深く、これまたファンタスティックでもある。

 ファンタジーとして読んでも、わかりづらい箇所がある。「インダスとシュメールの位置は、我々が春の合一点と呼ぶ、特殊なポイントとなり」(p96)という最高神官の説明が出てくる。この「春の合一点」が何を意味するのか、充分には説明されていない。
 東回りのスピンはシュメール文明の位置を起点に説明されるが、西回りのスピンは、インダス文明の中心地に、前インダス文明の中心地を設定し、ここを起点に説明されている。上記の「春の合一点」という概念のもとに、二つの正反するスピンが入れ替わるという説明につながっている。このあたり、私にはわかりづらい。
 また、突然に「巨大なグレートイヤー」(p96)という語句が出てきたりする。この語句の前後の文章には何がグレートイヤーなのか説明がない。ただし、この語句は本書後半に「6444年に1度の変換期は、グレートイヤーの1/4リズムである」(p220)「2万5776年のグレートイヤー」(p221)と記されているので、この意味なのだろう。
 そして、現在は、東回り周期と西回り周期が180度の対立極点に位置する時代にあるのだとする。長期周期として、大きな変換点にきているというのだ。
 「すでに我々の目からは、シュメールに始まる今までの文明は過去のものとなったのであり、新たな文明は誕生し始めているのだ。」(最高神官の言、p53)
 「この変動周期は、東西スピンが180度に開いた時に生ずる。」(同上、p197)
なぜ、180度の時に? 180度まで広がると、円を閉じる方向になるためなのか? 著者は、地球の歳差運動の1サイクルがマクロで見ると、前半周期から後半周期に正反が転じる変換点をイメージしているように私は感じる。勿論、明示されているわけではない。
 東回り周期がシュメール文明を起点にし、西回り周期を前インダス文明を起点にすることで、今、東西スピンが180度に開いているという論理になっている。どうも、この起点を二つにできる理由が「春の合一点」ということに関連するようだ。
 私がわかりづらいと感じている箇所は、私一人だけだろうか。お読みいただき、感想あるいはご意見をコメント戴ければありがたい。
 そういう部分があるからこそ、ファンタジーなのだろうか。
 
 第4章は「[ガイアリズム」過去と未来」と題され、冒頭に「ガイアの法則」という用語も使われている。しかし、不思議なことに、「ガイア」という用語については本書に説明がない。既知の用語として扱われているようだ。
 第4章から第5章「[宇宙とは何か]新たな知の体系」になると、ファンタジーの様相がさらに加わっていく。これは私の読後印象であるが・・・。それだけ、知的おもしろさという要素もある。現代の科学的思考と知見を超えている一種詩的表現に入り込んでいる部分があるのではないかとすら感じる。私には理解の及ばない箇所がある。
 上記のことと併せて本書を読んで考え、判断してみてほしい。

 本書には、古代から現代までの主要な文明が登場し、中心地となる都市名が出てくる。ロンドンを起点にして東回りに挙げると、ローマ、スパルタ、ミケーネ、エリドゥ、洛陽である。唐文明を採りあげながら、唐時代の首都長安ではなく、洛陽が「中国のすべての歴史の中で最も長く都が置かれていた中国の中心地」として使われている。なぜか、ガンジス文明の中心地がどこかは明記されていない。(私の見落としではないと思うが。)
 ここに採りあげられた中心地について、ウィキペディアの日本語版、英語版を併用してその経度位置を調べてみると、本書で使われいる経度の数値は、ウィキペディアの記載する数値とは差異がある。正確な数値ではない。(正確な数値の四捨五入でもない)
 微妙に著者の図式に整合するように整えられている。このあたりは、仮説提示ということなのか。それならば、いわゆる現時点で一般的に認められる科学的根拠や証拠を踏まえた上で提示する必要があるだろう。巻末にあるように「地名、国名などはすべて架空の世界」としての利用なので自由に描けるということなのか。それならば、「法則」という用語の使用が、読者に心理的バイアスとして影響するように思う。
 このあたりに本書をまずはファンタジーとする意図があるのかもしれない。

 まあ、ファンタジーとしてでも、過去の文明の移動を興味深い切り口で眺められるという点は、おもしろい。自らの意識や思考の枠組みを広げてみる契機には十分なる。

 最後に、印象深くかつ興味深い文を、さらに考える材料として引用しておこう。

*民族の歴史というものは、その民族の始まりとなった人物のソウルパターンに導かれる。(p43)
*聖書の神話がシュメールの神話を元にしている。(p43)
*ユダヤ・キリスト教の系譜の大元となるアブラハムは、聖なるポイントである東経45.0度のエリアで生まれた。 (p124)
*人類文化の個性を形作る中枢となるもの、それは言語なのだ。(p135)
*聖なるリズムの節目には古い自身を捨てることが自然の法則にかなっているからだ。・・・それらを捨てれば捨てるほど、魂はその節目に新しきを得る。(p221)
*意識とは、自らの意識領域を拡大することによって進化するのだ。生命体意識の完成とは、完全なる自由意識の実現である。(p264)
*この宇宙には絶対的基準が存在しないため、人間が感じているような絶対的な運動というものは存在せず、すべては特定の何かとの相対変化を運動量として認識しているにすぎないのだ。(p273)


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 一応、史実にある、あるいは実在する項目について、関連情報をネット検索してみた。その一覧をまとめておきたい。

シュメール :ウィキペディア
Sumer :From Wikipedia, the free encyclopedia
Ancient Sumer History :TRIPOD
謎のシュメール文明 :「古代の不思議」 後藤樹史氏
シュメール王名表 :ウィキペディア
エリドゥ :ウィキペディア
ウル  :ウィキペディア
ウル第三王朝 :ウィキペディア
Ancient Uruk :TRIPOD
ジグラット → ジッグラト :ウィキペディア
メソポタミア :ウィキペディア
Acient Methopotamia :TRIPOD
メソポタミア文明史 :南風博物館
メソポタミア文明  :「世界史講義録」金岡新氏
インダス文明 :ウィキペディア
エジプト文明 :「世界史講義録」金岡新氏
インダス文明 :「世界史講義録」金岡新氏
モヘンジョダロ :ウィキペディア
Archaeological Ruins at Moenjodaro :UNESCO
ガンジス文明 → インドの歴史 :ウィキペディア
黄河文明 :ウィキペディア
唐文明 →  :ウィキペディア
長安 :ウィキペディア
ギリシャ文明 → 古代ギリシャ :ウィキペディア
偽りの縮図:古代ギリシャ文明解釈 [ふと考えること] :「東京の郊外より・・・」
Mycenae :From Wikipedia, the free encyclopedia
ローマ文明 → ローマ帝国 :ウィキペディア
古代ローマ文明の没落とゲルマン民族の大移動
ローマの文化 :「世界史講義録」金岡新氏

古代文明都市ヴァーチャルトリップ :大成建設

世界最古、2万年前の土器 中国で発見、料理に使う? :「朝日新聞」2012.6.29
日本の土器、世界最古なの? :「朝日新聞」2009.10.3

歳差  :ウィキペディア
天球の回転 :「ステラナビゲータ」
歳差運動の説明  :「失われた文明の知恵」 大地 舜氏 

概日リズム  :ウィキペディア

宇宙 :ウィキペディア
universe :From Wikipedia, the free encyclopedia
Multiverse :From Wikipedia, the free encyclopedia

気学 ← 九星気学 :ウィキペディア
九星、気学とはなにか :「開運の方位学 Nine Star Ki Astrology」

ガイア  :ウィキペディア
ガイア理論:ウィキペディア
Gaia hypothesis :From Wikipedia, the free encyclopedia
ガイア仮説 :「EICネット」

'Gaia' scientist James Lovelock: I was 'alarmist' about climate change

THE GAIA THEORY のHP

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