本書のオリジナルは『千里眼のマジシャン』というタイトルで2003年3月に小学館から刊行され、『千里眼 マジシャンの少女』と改題されて、2004年4月に小学館文庫に入った。それが、平成20年(2008)11月、加筆修正され、「完全版」という形で改めて角川文庫化された。オリジナルを読んでいない。当文庫本の解説を参考にすると、かなり「現実離れした破天荒な作品」(p658)として発表されていたようだ。つまり、この完全版ではオリジナルとは距離を置いて改変され、新たな創作という類いになっているものと想像する。つまり、余分な先入観を持たずに、この完全版としてのフィクションの世界を楽しめばよいという話である。
今回のテーマは何か? 一言で言えば、「お台場カジノ」オープン直前の仮営業時点で大事件が発生し、このカジノ構想が崩壊するに至る顛末を描くというもの。
シリーズとしては、千里眼の岬美由紀が例の如くスーパーヒロインとして大活躍するのだが、そこにマジシャンの少女・里見沙希が主な登場人物の一人として関係してくる。他に、藍河隆一、永幡一徳が加わる。
このストーリーが設定されている同時代背景と現時点を重ねてみれば、このフィクションが一層楽しめると思う。まずその点にふれておこう。
先日、作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が死去した。享年89歳という。石原慎太郎は1999年4月に都知事選挙に立候補、選挙戦に勝利し都知事に就任した。その際、1万人の雇用創出効果を掲げて公営カジノの実現を公約の一つに盛り込んだ。だが、この「お台場カジノ構想」は国の法整備を待つというスタンスで、2003年に構想の中止が発表された。丁度このタイミングに合わせるように、オリジナルの『千里眼のマジシャン』が発表されていたことになる。
その後、公営カジノに関し国の対応はどう進展してきたか。議員立法として通称「IR推進法」が2016年(平成28)12月に公布・施行された。正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(平成28年法律第115号)という。そして、2018年(平成30)7月には、通称「IR実施法」が公布された。正式名は「特定複合観光施設区域整備法」(平成30年法律第80号)である。「IR整備法」「カジノ実施法」とも呼ばれるようだ。この法律は、公布から3年以内に施行されるということだった。2019年3月、IR実施法施行令が決定された、施行日は2021年7月19日である。
この事実を踏まえて、現時点でこのフィクションを読むのは、法が整備された現実の視点を加えて、対比的に捕らえる立ち位置を読者にもたらしていることになる。かなり極端な設定のフィクションを介して、公営カジノを改めて考えてみる材料にもなると思う。
さて、このストーリーの始まりは、一種のジグソー・パズルのようである。主な登場人物とその周辺事情がパズルの重要ピースのように独立的かつパラレルに描写されて行くところから始まる。読者にとっては、それらのピースがどういう意味を与えられているのか不可解で戸惑うところが出発点となる。このアプローチそのものがまずおもしろい。
冒頭に登場するのが永幡一徳。有楽町の一角にあるセブリモーターズ本社の傍まで行き、必要とされない人材となった己の過去を振り返る。残り少ない財布の中身を気にかけながら、宝くじの幟を見て、東京都スクラッチくじを買うかどうか逡巡する。だが、その時、宝くじ売り場の近くに座っている小男に呼び止められ、彼と賭け事をする羽目になる。だが、小男とのやり取りがトリガーとなり、永幡は「二番目の法則」を会得する。その結果、ギャンブルに常勝し億万長者になる。それがどう絡む・・・・・?
行政改革担当・規制改革担当大臣として内閣に抜擢された昭和35年生まれの戸田俊行。彼は東京都知事の息子である。井尾山輝夫・内閣官房長官が閣僚を集合させた会議で、臨海副都心にカジノを建設したいという都知事の提案に対し、合法化への意見を閣僚に求める。総理が法案成立に前向きである姿勢と、都によるカジノ・テーマパークの施設建設は8割がた完成している状況を伝える。この会議で合法化への動きに賛成したのは平丘経済産業大臣と戸田だけだった。
休暇を取り、長野の虔折山スキー場に来ている岬美由紀に話が移る。スキー場で少年に対し即興のカウンセリングを依頼されるエピソードがまずおもしろい。美由紀はスキー場から2kmほど離れたホテルに宿泊している。夜、聞き覚えのあるヘリの爆音に気づき、緊急事態の発生と判断する。勿論、美由紀は救助という行動に飛び出していく。遭難者の発生らしい。現地に到着すると腕時計型のGPS発信機を発見するが、遭難者は見当たらない。そこに雪崩が発生してくる。美由紀は巻き込まれる・・・・。何とか危地を脱出して、ホテルに辿りつくと、異常な雰囲気を感じる。美由紀は何等かの罠に陥れられたと悟る。即座にその場から姿を消す。この後、美由紀はブッツリとストーリーに登場しなくなる。なぜか? 読者には疑問が残るまま、ストーリーが進展していく。
里見沙希は、横浜中華街にほど近い商店街にあるマジック用品専門店でアルバイトをしている。つい最近、FISMのドレスデン大会に出場してイリュージョンに挑戦したが見事に失敗した。店長は沙希の仕事ぶりから能なしと判断していたが、デックを片手のみで複雑にカットする実技を見せつけられて唖然とする。そんなところに、内閣府大臣政務官の秘書と称する腰木が沙希を訪ねて来た。近々オープン予定の第三セクターの大規模娯楽施設でのセレモニーにおいて、イリュージョンを演じて欲しいという依頼だった。つまり、沙希は真っ先にお台場カジノでの仕事に関わりを持っていく形になる。
戸田は、芹沢警察庁長官、三塚警察庁刑事局長、出崎警視総監と井尾山、平丘が会議をする場に参加する。芹沢は警察組織が全面的にカジノ経営のあらゆる段階に関与することを法規に規定することを要求していた。その場で戸田は一つのゲームをしてみせる。その実験を踏まえて、警察の大掛かりな支援は不要で、イカサマを見抜ける専門家こそ必要なのだと力説する。芹沢は一旦譲歩しつつ、プロ・ギャンブラーの助言という意味で永幡一徳、イカサマを見抜く専門家という意味で藍河隆一の名を挙げる。戸田は永幡と藍河をお台場カジノに引き入れる役回りになる。
戸田と藍河が出会う場面がおもしろい。戸田が考案して警察組織のトップ官僚たちが見抜けなかったゲームのカラクリを藍河がいとも簡単に見抜いてしまうのだ。藍河は元警部補で、警視庁刑事部組織犯罪対策部に所属していた。ある時点で藍河はでっちあげの事件の捜査命令を受け、その捜査プロセスで悪徳警官のシナリオを背負わされる立場に陥る。反証の手段はなかった。汚職で逮捕され、警官の肩書を失っていた。
役者が出揃った。ここからいよいよ舞台はお台場のカジノ・テーマパークに移っていく。
招待客だけを集め、主催者側が仮営業をする日に、藍河と永幡はジパング=エンパイアと称するお台場にできたカジノ・テーマパークに赴いていく。二人は電車内で知り合うことになる。戸田議員の指示をうけた米倉茜が藍河と永幡をエスコートする。米倉茜は、ジパング=エンパイアが敷地面積115ヘクタールで、東京ディズニーリゾートに匹敵する規模だと説明する。
テーマ・パーク内を見物して歩く藍河は、”迷羊神社”、通称”負け犬神社”に入る。ギャンブルに明け暮れる迷える羊をケアする神社までも設置されている。藍河が神社の奥に行くと、永幡が相談していた女は「臨床心理士 岬美由紀」の名刺を藍河に差し出した。その女は藍河によくある名前ですと応対した。この場面の文脈から、読者はこの女が美由紀でないことが想像できる。ならば、名刺を差し出したのは誰なのか?
そして、事件は劇場”宴楽座”で発生する。そこには、沙希のイリュージョンを見るために、招待客、国会議員、警察官僚などが観客席を占めていた。戸田議員は藍河に日本人少女のイリュージョンのショーを見物することを勧める。
ショーの途中で機関銃を乱射する黒装束の男が現れて、事態が急変する。そこにリーダー格と思われる伸銅畔戸と名乗る男が登場する。彼は、劇場が占拠され、観客は人質となったと告げる。この仮営業のために、カジノにあるチップと同額の現金400億円が金庫室におさめられている。それをいただくための人質が劇場に居る観客だと。勿論、ここには、戸田議員の他に、芹沢警察庁長官、三塚警察庁刑事局長、出崎警視総監が招待されていた。平丘議員も観客の一人に含まれる。
この伸銅を初めとする黒装束の一団が人質を取り400億円奪取の事件を引き起こしたところから、ストーリーの後半の大活劇が始まっていく。
勿論、ストーリーの展開はどんどんおもしろくなる。そして意外な展開へと突き進んで行く。その意外な展開の一つとして、本物の岬美由紀が突然にカムアウトしてくるのだからおもしろい。その背景には、勿論理由とプロセスがあった。それ自体がサブストーリーとして一つの挿話になる。大掛かりな400億円奪取のシナリオが周到に準備されていた事実と真の首謀者が徐々に明らかになっていく。如何にしてこの奪取を阻止できるのか・・・・。読者は途中で読むのをストップしづらくなるとお伝えしておこう。
ちょっと行き過ぎ、やり過ぎ感のあるストーリー構成になっているが、その分エンターテインメント性に溢れている。その活劇的な展開を楽しめる作品である。
実際に公営カジノができたとしたら、どんなリスクが発生するか。そのシュミレーションになる問題事象はあちらこちらに描き込まれている。そういう目で、ちょっと極端なこのストーリーを仲介として、カジノ運営面に絡む利権問題を含めて、現実的な問題事象について考えてみるのにも役立つかもしれない。
最後に、一つ付け加えておきたい。エンディングのシーンが実にいい!
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、事実ベースでの関連情報を少し検索してみた。IR実施法絡みの今後を見つめる上でも役立つベースになると思う。
石原都政 :ウィキペディア
東京のジレンマ :「iag JAPAN」
公営ギャンブル :「コトバンク」
IR推進法 :「コトバンク」
IR実施法 :「コトバンク」
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律 平成28年法律第105号:「e-GOV法令検索」
特定複合観光施設区域整備法 平成30年法律第80号 :「e-GOV法令検索」
特定複合観光施設区域整備法施行令 平成31年政令第72号 :「e-GOV法令検索」
カジノ法案最新情報まとめ【2022年最新版】 :「日本カジノ研究所」
カジノ(IR)の日本誘致に関する質問主意書 提出者 江田憲司 :「衆議院」
東京お台場 大江戸温泉物語 18年間の物語 :「大江戸温泉物語」
ここは押さえておきたい!お台場のおすすめ温泉スポット22選 :「一休.com」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『クラシックシリーズ5 千里眼の瞳 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ4 千里眼の復讐』 角川文庫
『後催眠 完全版』 角川文庫
『催眠 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ3 千里眼 運命の暗示 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ2 千里眼 ミドリの猿 完全版』 角川文庫
『クラシックシリーズ1 千里眼 完全版』 角川文庫
『探偵の鑑定』Ⅰ・Ⅱ 講談社文庫
『探偵の探偵』、同 Ⅱ~Ⅳ 講談社文庫
松岡圭祐 読後印象記掲載リスト ver.2 2021.6.11時点 総計32冊
今回のテーマは何か? 一言で言えば、「お台場カジノ」オープン直前の仮営業時点で大事件が発生し、このカジノ構想が崩壊するに至る顛末を描くというもの。
シリーズとしては、千里眼の岬美由紀が例の如くスーパーヒロインとして大活躍するのだが、そこにマジシャンの少女・里見沙希が主な登場人物の一人として関係してくる。他に、藍河隆一、永幡一徳が加わる。
このストーリーが設定されている同時代背景と現時点を重ねてみれば、このフィクションが一層楽しめると思う。まずその点にふれておこう。
先日、作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が死去した。享年89歳という。石原慎太郎は1999年4月に都知事選挙に立候補、選挙戦に勝利し都知事に就任した。その際、1万人の雇用創出効果を掲げて公営カジノの実現を公約の一つに盛り込んだ。だが、この「お台場カジノ構想」は国の法整備を待つというスタンスで、2003年に構想の中止が発表された。丁度このタイミングに合わせるように、オリジナルの『千里眼のマジシャン』が発表されていたことになる。
その後、公営カジノに関し国の対応はどう進展してきたか。議員立法として通称「IR推進法」が2016年(平成28)12月に公布・施行された。正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(平成28年法律第115号)という。そして、2018年(平成30)7月には、通称「IR実施法」が公布された。正式名は「特定複合観光施設区域整備法」(平成30年法律第80号)である。「IR整備法」「カジノ実施法」とも呼ばれるようだ。この法律は、公布から3年以内に施行されるということだった。2019年3月、IR実施法施行令が決定された、施行日は2021年7月19日である。
この事実を踏まえて、現時点でこのフィクションを読むのは、法が整備された現実の視点を加えて、対比的に捕らえる立ち位置を読者にもたらしていることになる。かなり極端な設定のフィクションを介して、公営カジノを改めて考えてみる材料にもなると思う。
さて、このストーリーの始まりは、一種のジグソー・パズルのようである。主な登場人物とその周辺事情がパズルの重要ピースのように独立的かつパラレルに描写されて行くところから始まる。読者にとっては、それらのピースがどういう意味を与えられているのか不可解で戸惑うところが出発点となる。このアプローチそのものがまずおもしろい。
冒頭に登場するのが永幡一徳。有楽町の一角にあるセブリモーターズ本社の傍まで行き、必要とされない人材となった己の過去を振り返る。残り少ない財布の中身を気にかけながら、宝くじの幟を見て、東京都スクラッチくじを買うかどうか逡巡する。だが、その時、宝くじ売り場の近くに座っている小男に呼び止められ、彼と賭け事をする羽目になる。だが、小男とのやり取りがトリガーとなり、永幡は「二番目の法則」を会得する。その結果、ギャンブルに常勝し億万長者になる。それがどう絡む・・・・・?
行政改革担当・規制改革担当大臣として内閣に抜擢された昭和35年生まれの戸田俊行。彼は東京都知事の息子である。井尾山輝夫・内閣官房長官が閣僚を集合させた会議で、臨海副都心にカジノを建設したいという都知事の提案に対し、合法化への意見を閣僚に求める。総理が法案成立に前向きである姿勢と、都によるカジノ・テーマパークの施設建設は8割がた完成している状況を伝える。この会議で合法化への動きに賛成したのは平丘経済産業大臣と戸田だけだった。
休暇を取り、長野の虔折山スキー場に来ている岬美由紀に話が移る。スキー場で少年に対し即興のカウンセリングを依頼されるエピソードがまずおもしろい。美由紀はスキー場から2kmほど離れたホテルに宿泊している。夜、聞き覚えのあるヘリの爆音に気づき、緊急事態の発生と判断する。勿論、美由紀は救助という行動に飛び出していく。遭難者の発生らしい。現地に到着すると腕時計型のGPS発信機を発見するが、遭難者は見当たらない。そこに雪崩が発生してくる。美由紀は巻き込まれる・・・・。何とか危地を脱出して、ホテルに辿りつくと、異常な雰囲気を感じる。美由紀は何等かの罠に陥れられたと悟る。即座にその場から姿を消す。この後、美由紀はブッツリとストーリーに登場しなくなる。なぜか? 読者には疑問が残るまま、ストーリーが進展していく。
里見沙希は、横浜中華街にほど近い商店街にあるマジック用品専門店でアルバイトをしている。つい最近、FISMのドレスデン大会に出場してイリュージョンに挑戦したが見事に失敗した。店長は沙希の仕事ぶりから能なしと判断していたが、デックを片手のみで複雑にカットする実技を見せつけられて唖然とする。そんなところに、内閣府大臣政務官の秘書と称する腰木が沙希を訪ねて来た。近々オープン予定の第三セクターの大規模娯楽施設でのセレモニーにおいて、イリュージョンを演じて欲しいという依頼だった。つまり、沙希は真っ先にお台場カジノでの仕事に関わりを持っていく形になる。
戸田は、芹沢警察庁長官、三塚警察庁刑事局長、出崎警視総監と井尾山、平丘が会議をする場に参加する。芹沢は警察組織が全面的にカジノ経営のあらゆる段階に関与することを法規に規定することを要求していた。その場で戸田は一つのゲームをしてみせる。その実験を踏まえて、警察の大掛かりな支援は不要で、イカサマを見抜ける専門家こそ必要なのだと力説する。芹沢は一旦譲歩しつつ、プロ・ギャンブラーの助言という意味で永幡一徳、イカサマを見抜く専門家という意味で藍河隆一の名を挙げる。戸田は永幡と藍河をお台場カジノに引き入れる役回りになる。
戸田と藍河が出会う場面がおもしろい。戸田が考案して警察組織のトップ官僚たちが見抜けなかったゲームのカラクリを藍河がいとも簡単に見抜いてしまうのだ。藍河は元警部補で、警視庁刑事部組織犯罪対策部に所属していた。ある時点で藍河はでっちあげの事件の捜査命令を受け、その捜査プロセスで悪徳警官のシナリオを背負わされる立場に陥る。反証の手段はなかった。汚職で逮捕され、警官の肩書を失っていた。
役者が出揃った。ここからいよいよ舞台はお台場のカジノ・テーマパークに移っていく。
招待客だけを集め、主催者側が仮営業をする日に、藍河と永幡はジパング=エンパイアと称するお台場にできたカジノ・テーマパークに赴いていく。二人は電車内で知り合うことになる。戸田議員の指示をうけた米倉茜が藍河と永幡をエスコートする。米倉茜は、ジパング=エンパイアが敷地面積115ヘクタールで、東京ディズニーリゾートに匹敵する規模だと説明する。
テーマ・パーク内を見物して歩く藍河は、”迷羊神社”、通称”負け犬神社”に入る。ギャンブルに明け暮れる迷える羊をケアする神社までも設置されている。藍河が神社の奥に行くと、永幡が相談していた女は「臨床心理士 岬美由紀」の名刺を藍河に差し出した。その女は藍河によくある名前ですと応対した。この場面の文脈から、読者はこの女が美由紀でないことが想像できる。ならば、名刺を差し出したのは誰なのか?
そして、事件は劇場”宴楽座”で発生する。そこには、沙希のイリュージョンを見るために、招待客、国会議員、警察官僚などが観客席を占めていた。戸田議員は藍河に日本人少女のイリュージョンのショーを見物することを勧める。
ショーの途中で機関銃を乱射する黒装束の男が現れて、事態が急変する。そこにリーダー格と思われる伸銅畔戸と名乗る男が登場する。彼は、劇場が占拠され、観客は人質となったと告げる。この仮営業のために、カジノにあるチップと同額の現金400億円が金庫室におさめられている。それをいただくための人質が劇場に居る観客だと。勿論、ここには、戸田議員の他に、芹沢警察庁長官、三塚警察庁刑事局長、出崎警視総監が招待されていた。平丘議員も観客の一人に含まれる。
この伸銅を初めとする黒装束の一団が人質を取り400億円奪取の事件を引き起こしたところから、ストーリーの後半の大活劇が始まっていく。
勿論、ストーリーの展開はどんどんおもしろくなる。そして意外な展開へと突き進んで行く。その意外な展開の一つとして、本物の岬美由紀が突然にカムアウトしてくるのだからおもしろい。その背景には、勿論理由とプロセスがあった。それ自体がサブストーリーとして一つの挿話になる。大掛かりな400億円奪取のシナリオが周到に準備されていた事実と真の首謀者が徐々に明らかになっていく。如何にしてこの奪取を阻止できるのか・・・・。読者は途中で読むのをストップしづらくなるとお伝えしておこう。
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実際に公営カジノができたとしたら、どんなリスクが発生するか。そのシュミレーションになる問題事象はあちらこちらに描き込まれている。そういう目で、ちょっと極端なこのストーリーを仲介として、カジノ運営面に絡む利権問題を含めて、現実的な問題事象について考えてみるのにも役立つかもしれない。
最後に、一つ付け加えておきたい。エンディングのシーンが実にいい!
ご一読ありがとうございます。
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特定複合観光施設区域整備法 平成30年法律第80号 :「e-GOV法令検索」
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