祝い言葉 | |
正月にはまだ少し間があるが、正月の江戸小咄でも書いてみよう。 元日に熊さんが大家さん宅へ新年の挨拶に行った、大家さん『オー熊さんかい、正月だ上がって茶でも飲んでいきなよ』と座敷へ招じた、正月の挨拶も終わり、熊さんが『ところで大家さん、目出てー句を詠ませておくんなさい』と云った、大家さん『その目出度い句ってのは何だい』と興味を示した、熊さんが『この家を 貧乏神が とり巻いて』と上の句を詠んだ、途端に大家さん『なんだい元日早々我が家を貧乏神が取り巻いてとは縁起でもない』と烈火の如く怒った、熊さん落ち着いて、『まあー大家さん、下の句を聞いておくんなさい』と『福の神の 出所なし』と詠んだ、これを聞いた大家さん「そうかい、今年一年我が家に福の神が居てくれるのかい」と機嫌を直し大いに喜び『おいばーさんや、何か見繕って熊さんに酒を出してあげな』と云った、熊さん大家さんで酒肴をご馳走になり良い気持ちで辞去した。 |
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道でぱったり熊さんと出会った八っつあん、『オー熊公昼から あけー顔して、正月だからいいけど、景気がいいな』と云った、熊さん「なーに只酒よ」と云った、八っつあんこれは聞き捨てならない、「正月から只酒を飲める所なんか有るのか」と熊さんに質した、熊さん『なーに大家さんで馳走になっただけよ』と云う、八っつあん、『あのしわん坊《けちん坊を江戸時代はこう云った》の大家さんが酒をふるまったのに、大いに驚き『一体何をして酒を振る舞われのだ』と聞く、熊さん例の貧乏神の祝いの句を話す「よしわかった俺もその手でごちになろう」と大家さんへ年始に行った。 八っつあん先に福の神を出してしまったので、貧乏神の出しようが無くなってしまった、切羽詰って『貧乏神の 出ところなし』と下の句を詠んだ、酒肴をご馳走になるどころか、丸太ん棒を持った大家さんに、追い回される羽目になった。 |
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人間て同じ意味でも言葉が前後したり、言い間違えると全く逆の意味になったり、相手に不快感を与えてしまうことが有る。 |
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