中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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営業は広い

2016年10月02日 | コンサルティング

今から10年ほど前のことです。私の知り合いの転職エージェントSさんから1通のメールが来ました。そこにはこんなことが書いてありました。

「転職を希望しているT君という27歳の営業マンがいるのですが、彼と一度会ってもらえませんか。彼は現在大手食品会社で量販店担当の営業をやっているのですが、どうしてもコンピュータ会社でマーケティングをやりたいと言っています。それも貴君が勤務していた外資系のH社を強く希望しています。H社のことなら何でもよいので彼に色々と教えてあげて欲しいのです。」

Sさんにはかつてお世話になったことがあったので、T君の件は快く引き受けました。1週間後、T君と新宿の喫茶店で会うことになりました。

当日、T君は喫茶店に約束の時間よりも早く来たようで、すでにコーヒーを半分以上飲んでいました。私はあいさつをし、しばらく世間話をした後、ストレートに質問をしてみました。

「なぜ辞めたいの?XX食品と言えば業界最大手で財務体質も良いじゃないか」
「会社が嫌なのではなく、いまの営業という仕事が嫌いなんです」
「だったら異動の希望を出し続ければ、企画部門に行けるかもしれないよ」
「はい。入社以来ずっと異動希望を出し続けたのですが、駄目だったんです」
「それで転職を?」
「そうです、若いうちにマーケティングをやりたいんです」

普通なら、ここで彼に思いとどまるように言うところなのですが、実は私は彼に転職を進めました。それも、彼が希望するH社の知り合いに連絡しても良いとまで言いました。

それから1か月ほどして、転職エージェントのSさんからメールが来ました。

「T君ですが、新しい会社に転職が決まりました。お力添えいただき、ありがとうございました。それにしても独立系システム販売会社の、それも営業とは意外でした。」

私にとっては意外ではありませんでした。あの日、T君と喫茶店で3時間以上話し合ったのですが、私は彼の知識量に驚いたのです。自社製品はもとより、競合製品やお客さんである大手スーパーに関する知識、物流システムに関する情報など、群を抜いていました。

そこで、思い切って「君ならコンピュータ会社で働ける」と伝えたのです。

「ただし、H社は止めた方が良いよ。外資は意外と自由が利かないんだ。それよりも君の業界知識なら、国内のシステムインテグレータの流通営業あたりなら喜んで受け入れてくれると思うよ。」

営業と聞いてT君は一瞬がっかりしたような顔をしました。それでも私が「一度きちんと調べてみては?それでも外資でマーケティングをしたいならH社に連絡してあげるから。」

T君と話をしてみてわかったのは、製品そのものよりも、顧客に提供するシステム(仕組み)に興味があったということです。もしもH社のマーケティングに行っていたら、H社の製品だけをいかにして売るかということばかり考えさせられて、結局は失望することになったでしょう。

T君は営業が嫌だったのではなく、違う種類の営業がやりたかったのです。彼は現在、システム販売会社の営業課長として大いに活躍しています。

もしも「営業が嫌だ」という人がいたらこう言ってあげてください。

「営業は広い!」

(人材育成社)


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