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ROEと企業の不祥事

2016年01月10日 | コンサルティング

「この10年ほどの間に企業による不祥事や事故に対する社会的関心、および企業の社会的責任に対する意識が高まり、それらに対応した形での法規制の強化が行われるようになった。」
これは「組織風土と不祥事に関する実証分析※」という論文の冒頭の一文です。この論文が書かれたのは今から10年近く前のことです(掲載は2008年1月号)。しかし、大企業や公的な組織の不祥事はいまだに減少する気配すら見えません。

この論文では、不祥事を生み出す様々な要因を統計的手法で分析しており、その中で要因のひとつとして成果主義を挙げています。
「・・・今回の解析結果からは、成果主義が『職場での不正・違反放置の風土』を醸成しやすいことも示されている。Mitchell (2001)は近年のアメリカの法制度が企業の経営陣に短期的な株主利益の最大化を目標とした経営を強いており、そのために企業の不正行為や非倫理的行動が増えたと指摘している。」

私は、成果主義が直ちに不祥事を生む土壌になっているとは考えていませんが、「短期的な株主利益の最大化」すなわち短期的な成果を求める経営については大いに関係ありだと信じています。

さて、近年ROE(自己資本利益率)が投資指標として注目されています。ROEは自己資本に対する利益の「成果」を測る指標であり、ROEが高い企業は収益力が高く株価は上昇しますから、株主が最も重視する指標です。

海外からは、日本の企業のROEが(特にアメリカの企業に比べて)低いことについて「株主軽視だ」と非難を浴びています。それに対しては、海外からの投資を呼び込むために官民を挙げてROEを重視した経営を推奨しているようです。一例として、2014年から「JPX日経インデックス400」に高ROE企業を積極的に採用し「グローバルな投資基準」としてPRしています。

しかし、「短期的な株主利益の最大化」が行き過ぎると、企業の不祥事が生じる可能性が高くなるであろうことは、常識的に考えてもわかるはずです。短期的な利益を上げなければクビになってしまうとしたら、経営者は多少の不正に目をつぶるかもしれません。また、大きな組織では小さな不正が小さいままで終わらず、どんどん大きくなってしまいます。昨年起きたいくつかの大企業の不祥事は、そうしたパターンを踏襲していたように思います。

また、企業の利益についてはもちろんですが、人材育成に関しても「短期で成果を求める」ことは非常に危険だと思います。

仕事に対するモチベーションが、目先の成果を上げることだけだとしたら、その企業はどうなるでしょう。人を育てるなどという悠長な行為は形骸化してしまい、研修などの人材育成が行われたとしても「促成栽培」のような内容になってしまいます。その結果、個人のパフォーマンスは多少上がるかもしれませんが、チームワークはガタガタになり、企業の力は落ちていきます。

短期的な成果を重視し過ぎた結果、企業も人もつぶれてしまっては元も子もありません。企業は人が集まって成り立っている組織です。目先の利益を確保するよりも、長期的に人を育てることにコストを使うべきではないでしょうか。それが企業を将来にわたって健全に成長させる一番有効な手段だと思います。

その結果、海外に比べてROEが多少低くなっても良いではありませんか。

(人材育成社)

※「組織風土と不祥事に関する実証分析」、星野崇宏、荒井一博、平野茂実、柳澤秀吉(著)、一橋経済学2(2): 157-177、2008年1月、https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/15869/2/keizai0020200530.pdf


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