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孤独なボウリング

2015年11月15日 | コンサルティング

「直接何かがすぐ返ってくることは期待しないし、あるいはあなたが誰であるかすら知らなくとも、いずれはあなたか誰か他の人がお返しをしてくれることを信じて、今これをあなたのためにしてあげる」 

これは一体何のことを言っているのでしょう。「孤独なボウリング」※という本の一節なのですが、実は信頼(trust)について述べたものです。

著者のロバート・D. パットナムは、社会の中でこうした信頼が存在している状態を社会関係資本(ソーシャルキャピタル:Social Capital)と呼んでいます。社会を構成するメンバーに信頼関係があれば、それが社会の効率を高め、社会全体の発展に寄与するというものです。

経済学では、個人は常に(自分の)効用を最大化するためにしか動かない超利己的な存在として定義されています(経済人モデル)。企業のような多くの富を生み出すシステムであっても、個人同士がお互いに契約を結んでいるから成り立つのだと考えます。つまり、経済学では企業を「契約の束(Nexus of contracts)」とみなすのです。

経済学では、契約に関わるコストは無視していますが、実際に個人の一挙手一投足を契約で縛ろうとすれば、膨大なコストがかかります。いや、それ以前に不可能でしょう。

一方、社会関係資本は契約ではなく、信頼によって作られている一種の「資本」であるとしています。なぜ資本かというと、道路や橋や港など、社会全体の経済活動を支えるインフラ(社会資本)と同じようなものであると考えるからです。

「孤独なボウリング」では、かつてアメリカの多くの町に存在していた「ボーリングクラブ」のような、地域の住民同士が信頼関係を醸成するコミュニティが崩壊していることをデータで示しています。こうした状況が社会関係資本を減少させ、結局は経済の成長を阻害することにつながるというのです。

こうした信頼関係の減少は、企業の内部においても見ることができます。たとえば、終身雇用(長期安定雇用)の崩壊です。

いついなくなるかわからない社員に対して、「今こいつを育てておけば、将来何らかの見返りがきっとあるだろう」と思うことはないでしょう。また、成果主義を採用する企業では、短期的な成果に結びつかない人材育成などは二の次になることは明らかです。

空想ですが、マイナンバー制度が安全かつ確実に運用できれば、個人ごとの細かい契約を極めて低コストで維持できるようになるかもしれません。一歩進んで、個人の成果とその測定方法について定量的、定性的に詳細に記述できれば、どの企業で働いても一切矛盾が生じないような「完全契約」が実現できるでしょう。まさに経済学の理論通りの超効率的な世界です。

そうなれば、企業や社会の中で「資本としての信頼」は必要なくなります(私自身はそんな企業で働きたいとは思いませんけど)。

この本を読んで「信頼」というものをあらためて考え直してみたいと思いました。

(人材育成社)

※「孤独なボウリング」ロバート・D. パットナム (著),2006年,柏書房:原題「Bowling Alone,R.Puntnam,2000」


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