パレスチナ・ナウ―戦争・映画・人間作品社このアイテムの詳細を見る |
著者の熱意にもバイタリティにも努力にも博識にも頭の回転の良さにもまったく頭が下がる。
おそらくは意識的にジャンル横断的な著作を驚くほど連発するその発想と能力はすごいと思うな。
どの著作も、散見される誤字や思い違いなども含めて(笑)、非常に人間臭い文筆活動である点が好感。
で、パレスチナ。
およそ世界のありさまは単純ではなくて、パレスチナの状況も「シオニストのユダヤ人対イスラムのアラブ人」という二項対立には決して収まらないことを、この本は著者の現地での見聞と、精力的な映画分析とで教えてくれる。
まずもってイスラエルにもイスラエル国籍をもつパレスチナ人がいるということも知らなかった。
それから、イスラエルに集まったユダヤ人も、東欧系のほかにモロッコ系ロシア系アラブ系(!)エチオピア系などなど、見た目にも多様であること。東欧系ユダヤ人がアシュケナジームという支配階層を形成する一方で、他のユダヤ人が二級階層として扱われ、イスラエル内で厳然たる階級社会ができあがっていることも。
日本や世界(欧米?)で流布するパレスチナについての表象がステレオタイプに傾きがちであることにふれつつ、イスラエルやパレスチナの現状をその多元性や個別性を失わないように伝える、そのことに尽力した1冊である。
一般的な解説書と併せて読むとよいと思う。
途中旧ユーゴに関する論考を挟んで、最後は日本の状況を見据えるには70年代の論証に手を付ける必要があると結ぶ。今後の活躍に期待したい。
***
以下、この本で触れられていた夥しい数の映画のうち主だったモノをメモメモ。
「ミュンヘン」スピルバーグ2006
ステレオタイプ助長として批判的に論考されている
「アルナの子供たち」ジュリアーノ・メール2004
ユダヤ人女性がボランティアでパレスチナ難民の子供たちに演劇を教える。が、女性は死亡。後に女性の息子(監督)が難民の子供多地を訪ねてみると、ある者は殺され、ある者は自爆攻撃で命を絶っていた。子供たちのたどった運命のドキュメント。
「パラダイス・ナウ」ハニ・アブ・アサド2004
ふたりのパレスチナ人が自爆攻撃するに至るまでの内面の葛藤を描く。
ついこのあいだまで日本で公開されていた。み損ねた。
「ジェニン・ジェニン」モハマッド・バクリ2002
イスラエルによる攻撃をうけた難民キャンプでのインタビュードキュメント。
バクリはイスラエル・アラブ人。本作はイスラエルでは強烈な拒否反応を巻き起こす。
「ルート181」ミシェル・クレイフィ2004
1947年の国連決議181で定めたパレスチナ分割線にそって進み、途上でであう人物にアトランダムにカメラを向ける。
48年には、決議181の分割線を無視する形でイスラエルは独立宣言をし、パレスチナ人の村落を破壊し住民を虐殺した。し続けている。
ルート181・パレスチナ‐イスラエル 旅の断章前夜このアイテムの詳細を見る |
「ウェイティング」ラシッド・マシュラウィ2004
長い不在の末ガザに戻ってきた映画監督。劇場のこけら落としに向けたパレスチナ人俳優のオーディションのために、各地に行って俳優の映像を撮ってくるという仕事をやるはめに。撮影クルーはヨルダン、シリアの難民キャンプへ出向くが、ことはうまく運ばない。劇映画の体裁であるがセミドキュメント。
「ハイファ」ラシッド・マシュラウィ1996
1993年ガザ難民キャンプ。ハイファという綽名の狂人は35年前のイスラエル侵攻で故郷ハイファを追われ、それいらい精神に変調をきたしいまだに35年前の現実を生きている。オスロ合議でにわかに和平ムードでうかれる周囲をまったく理解することができず困惑する。
支配者側からの楽観的和平に対する現実のシニシズム。
「D.I.」エリア・スレイマン2003
ナザレとエルサレム。諧謔の軽みの裏で混沌と頽廃を描く。
サンタクロースがパレスチナ人の子供に追われる。車の中から隣人に手を振りながら、口元ではこっそり罵倒している中年男。屋上から空き瓶を投げ付けるのが日課の男、など、奇人変人が引いた画面でとらえられる。
D.I.紀伊國屋書店このアイテムの詳細を見る |
「アンダーグラウンド」「ライフイズミラクル」クストリッツァ
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「赤軍PFLP世界戦争宣言」若松孝二、足立正生1971
二人と、すでに現地にいた重信房子の三人によるPFLPルポ。というよりは、生活と行動をともにしたものによる革命闘争の日常の映像。戦争とは日常であり、革命とはスタンバイすることであるというテーゼ。ベイルート~ゴラン高原~ジェラシ山。
「よど号」のニューズリールではじまり、ベイルート市内の難民キャンプの光景に日本のTV画面などがはさまれる。ゴラン高原のゲリラたちの姿では、食事をし就寝する場所に無造作に置かれる銃などの細部を驚きをもって撮る。画面にかぶさり日本側からの闘争の理念、PFLPからのメッセージが語られる。
ゴダール「ヒア&ゼア」のもとになったフィルムと同時期に撮られる。
足立は撮影後再度ベイルートにわたり日本赤軍兵士となる。
「ガーダ」古居みずえ2005
ガザのハンユニス難民キャンプに育った女性ガーダを13年にわたって追ったドキュメント。結婚と出産を経て、諸々の事件を契機に同胞女性たちへの話を聞く聞き手として、歴史と記憶という主題に向かって研鑽を積んでゆく過程が活写される。オスロ合議、第二次インティファーダをはさみいっそう混沌とする情勢。
女性ならではのシーン(結婚前に繰り広げられる女性たちの狂騒など)が生き生きと様子を伝える。
ガーダ パレスチナの詩マクザムこのアイテムの詳細を見る |
「エドワード・サイードOUT OF PLACE」佐藤真2006
サイードの死後、サイードの軌跡を跡付けるようにゆかりの地を訪れる。サイードの映像を用いず、主体のないロードムーヴィー。サイードの思想や言動にもあえてふれることなく、ただ主人公不在の領域を探査する。
幸福だった少年時代(イギリス統治下のエルサレム)からカイロ、ベイルート、ニューヨークへ。
後半ではパレスチナ難民キャンプの生活が淡々と描かれる。著名な思想家と無名の難民の間の関係を成立させること。
サイードの人生そのものがオリエンタリズムの圏内で生じた事件であること。オリエンタリズムとは外部の存在ではなくそれを認識するものの内部に深く宿る。
エドワード・サイード OUT OF PLACE紀伊國屋書店このアイテムの詳細を見る |
「幽閉者」足立正生2006
岡本公三をモデルに。主人公Mは同志二人とともに国際空港に乗り込み銃撃戦を展開する。Mは自殺用の手榴弾が故障していたため官憲に逮捕され、拷問を受ける。監禁される独房生活のなかで、彼は空想の世界に迷い込む。19世紀の革命家や思想家が現れ、宇宙の無限と万物の照応について、テロリストの道徳について対話を交わす。
あるとき捕虜交換の取り決めがなされ、Mは解放される。最前線のゲリラ基地で帰還歓迎会が開かれる。だがMは解放が信じがたい。猿芝居をやめろと言い放ち一人山林をさまよい、自殺を試みるが・・・
パレスチナ闘争をひとつの契機として、極限状況における哲学的な夢想とその注釈。テロリズムをめぐる道徳的判断も宇宙の形而上学的思惟のなかに溶融する。
足立は1974年に日本赤軍兵士となった後、1998年にレバノンで逮捕され2000年に日本に強制送還された。
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この本で唯一気がついた「思い違い」。
クストリッツァは「バンドのベース弾き」と書いてあるが間違い。
彼はギタリストである。
この調子でほかにもあるかもしれないね~
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