Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

アイリーン・ガン「遺す言葉、その他の短編」

2007-03-23 06:10:15 | book
遺す言葉、その他の短篇

早川書房

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テッド・チャンより寡作という惹句にひかれて読んでみる。
死んでいる人と寡作の人にはなぜか惹かれるんだよね^^;

で、イーガンの短編のあとに読んだせいか、どうもネタの噛み砕き具合が足りない印象で、もうちょっと仕掛けに凝ったらいい小説になるのにな~と思ってしまいました。
とはいえ、下品な種明かしとかご都合主義的展開は一切なくて、架空世界にポンと説明なしに放りこまれる感覚はスマートで、ユーモアあふれる言い回しもさえていて読んでいて悪い気はしない。
一編が短くて読みやすいし、悪くないです。

**

○中間管理職のための出世戦略
昆虫といえばカフカだけど、これはもっと卑近な、俗っぽいがゆえに変に切実な寓話。その渦中にいる者は身につまされる感覚なのだと思うな。これに匹敵するくらい精神構造を改変してるんだぞ~っ!って。まあそれに気づかずどっぷり浸っている人は幸か不幸か・・?

○アメリカ国民の皆さん
これはわたし、肌でわかる世代じゃないな~
わかる人にはすっごく笑えるんだろうな~
NさんがTV司会者ってのも可笑しいが、R君は生き残ってるけどまたやられちゃうし。

○コンピュータ・フレンドリー
「友達」のノリが下品で最高にいい。これがアメリカの8歳児かあ。うちの子ははるかに上品だぞイ。
で、これは教育というものが未来に向けてどうしても想像させてしまう悪夢みたいなものをとらえているなあと。子供の持つアナーキーさと、それを否定する体制と、それを擁護しきれない親の立場と。で、状況を打開しようとするのは少女のっ枠組みを超えた心情と、マージナルな大人達・・って物語の王道ではないですか。

○ソックス物語
あははは~
シュヴァンクマイエルのアニメみたいだ。もしくはモンティパイソン?こういうナンセンスは若いころ好きだったな(^^;)

○遺す言葉
これは道具立てはすごく期待持てる。もうちょっと展開できたらもっと面白いのに~。でもあの先の展開を書かずに匂わせて終わるというのも確かにひとつの見識だな。想像力が刺激される~~~
・・と言うより、これはかつてあった生というものの不思議とそれに対する畏敬の物語なので、あまりSFチックに盛り上げる必要はないだろう。感じ取られるのは精神の不滅。その希望に涙腺が緩む。

○ライカンと岩
ちょっとティプトリーっぽいテイストの作品。
ここでも教育の悪夢とそれを乗り越える希望というテーマがみられる。
子供の頃大事だったものと、長じてからともに歩いていくというのはなかなか感動的。

○コンタクト
これはいい雰囲気だ。ファーストコンタクトものといえば断然レムだけれど、この作品、前半はレムを思わせるような厳粛さ。でも途中からはまったく違う。むしろ異世界間の愛のあり方を描く。世界が、異種であること、多様なもの混交であるならば、幸せとはこういう道であるのかもしれない。
これもティプトリーを思わせる。

○スロポ日和
一転してサブカルな雰囲気。ティプトリーの軽めの作品を思わせる。風俗産業の滑稽な真実をスパッと切り分ける異星人の妙な冷静さに笑えるし、それをとりまく人間の軽薄さがなんとなく人類の危機を救っちゃったりするのが可笑しい。(救うというか先送りってあたりもいい)

○イデオロギー的に不安定なフルーツ・クリスプ
ティプトリー賞(というのがあるのをはじめて知った)の資金を集めるためにティプトリー・ベイク・セールというお菓子即売会があるんだそうな。で、そのためのレシピだそうで。
う~ん、レシピまで作品集にいれるか~でも料理はイデオロギーを反映するってまじめかつユーモアたっぷりに論じるとなんともアイロニカルである。

○春の悪夢
ホラーだな。実体はまったくはっきり描かれないのでそれが怖い、といういいセンスを持っている。季節感をうまく利用して風景を肌で感じさせる。結局実体があったのか、それともそれは彼女の意識下にある情念だったのか?スティーブン・キングが編纂するアンソロジーに応募して漏れた作品だが、めぐりめぐって後に出版されたときにはキングが評を書くことになったという執念の作品。

○ニルヴァーナ・ハイ
ニルヴァーナもカート・コバーンもよく知らないけれど、そんな名前の高校が出来た日にゃ世も末だな。という末の世の学園日常ライフをお気楽に描けば、それは陰惨な影をまとって隠しきれない。コロンバインの事件の前に書かれて、あっというまに現実が小説の先へ行こうとしているという・・・

○緑の炎
4人の作家によるリレー小説。そのわりにまとまりがあり、面白い。道具立てがなかなかよくて、なんと主人公はアシモフとハインライン。それだけでぐっとくるのに、いきなり冒頭からマッドサイエンティストの祖形たるニコラ・テスラが絡んでくるというだけで口元が緩んでくる~
でもそれだけじゃなかったよ。史実や伝説をうまくからめてなかなかにエキサイティング。雪片と数学をやりとりするところなんかはちょっとイーガン的興奮を。


というわけで、ずしりとした感銘を味わうというよりは、多彩な作風を軽い気持ちで楽しむつもりで読めば十分に面白いと思いました。

アイリーン・ガンは1945年生まれのアメリカのSF作家。76年ころから作品をかきはじめ、シアトルのファンダムで活躍しているらしい。マイクロソフト社の草創期の社員だったそうです。ウィリアム・ギブスンの親友。

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2 コメント

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はし休め (OZAKU)
2007-03-23 20:44:17
こんばんわ、manimaniさんも読まれましたか~。やっぱ「テッド・チャンより寡作」というキャッチコピー(?)には心惹かれますよねえ。
私的にはイーガンとか難解なSFを読んだあとにはし休め的によんだらいいなって感じでした。
ものすご~くエキサイティングではありませんが、そこそこ「あ、面白いじゃん」って思いましたね。
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はし休め(笑) (manimani)
2007-03-23 23:34:56
☆OZAKUさま☆
はし休めね、そんな感じですね~
そもそもOZAKUさまの記事みてこの本を買ったんでした。ずっと積んでおいたのでやっと今読んだところです。
どんな局面でもなんとなくシニカルなセリフ回しで、そういうところが笑えますね。
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