Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「グラン・トリノ」クリント・イーストウッド

2009-05-03 23:39:05 | cinema
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グラン・トリノGRAN TORINO
2008アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
原案:デヴィッド・ジョハンソン、ニック・シェンク
脚本:ニック・シェンク
出演:クリント・イーストウッド(ウォルト・コワルスキー)ビー・ヴァン(タオ・ロー)アーニー・ハー(スー・ロー)クリストファー・カーリー(ヤノビッチ神父)



やられた!
完全にやられた!
この映画にはまいった!
I was knocked out conpletely by the movie!

・・といいかげんな英語を思わず吐いてしまうくらい
セリフが深く耳の奥に残っている。
言葉を大事にした、映像を大事にした、
音響を大事にした、音楽を大事にした、
映画です。

イーストウッド監督の作品はちゃんとは見ていないのですが
ときおりTVなんかでやっていると大概はみていて
西部劇系でない、現代もの?(語弊が・・)になると
しばしば、古き良き価値観を重んじ、若者のふがいなさを嘆き
結局は力で解決するみたいなところがちょっと鼻につくと思っていたのです。

自分も若かったしね(笑)

でもそれは自分の見る目がちょっと歪んでいたのかもしれない。
『グラン・トリノ』では、そういう構図、古き良き正義を重んじ、若者の退廃を嘆き、というところはまったく変わっていないにも関わらず、ワタシのほうはすっかりこの映画にまいってしまった。
イーストウッド監督は、結局そういう世代の断絶や価値観の変転を含め、総体としてのアメリカ社会を見つめて、そのうえで誤解を恐れずにある一面から切り取って映画にしていたのではなかったか?
ワタシもいまや古い人間に属するほうにまわってしまったせいもあるだろうけど、そういう過去の善きものへの思いはそれはそれで一つの生のありかたとして受け入れるようになってきたのかもしれない。

***********


【以下たぶんネタバレ含むと思います!!】



イーストウッドさん(劇中の「コワルスキーさんと呼べ!」にならい、さんづけで)は、そういう過去の価値観、戦場体験に立つ複雑な優位性、人種による蔑視、移民系仲間での毒のあるコミュニケーションへの信頼、力による解決、自立心、男性性の肯定、そういう諸々すべてを、ウォルト・コワルスキーというポーランド系アメリカ人の老人に体現させる。
そして、次の世代である二人の息子や孫たちと上手くやる事が出来ない。偏屈で怒りっぽく、妻が死んだ後も一人で家に暮らす。

それでも周囲はどんどん変わって行き、隣家にはよりによって「イエロー」が越してくる。「イエロー」のごろつきもその辺りを徘徊するし、黒人の悪そうなヤツもいるし。この状況をコワルスキーさんが快く思うはずがない。

隣人であるモン族(東南アジアあたりにいる山岳民族だそうだ)のひ弱な息子タオが、従兄弟のごろつきグループによって悪事にまきこまれ、コワルスキーさんの大事なグラン・トリノを盗もうとするが、バレバレで未遂に終わる。

失敗したタオに焼きを入れようと、ごろつきどもがやってきたところを、コワルスキーさんは銃を持ってスゴい迫力で追い返す。(「オレの庭に入るな!」という動機でね)

そんなことをきっかけに隣人と不本意ながらも交流が始まるわけだ。
この交流をきっかけに、コワルスキーさんはタオに仕事を教えたり紹介したり
女の子との付き合い方を諭したり。
偏屈なコワルスキーもタオを友人として認めることになり、そしてタオの家族の幸せを思い、ついにある行動にでるのだ・・・


で!
ワタシが感動したのはですね、
これが決してコワルスキーさんが心を開いたとか、考えを変えたとかいうのではない、という点です。
まあ、少しは心開き考えを変えてはいるんでしょうけど。
ただ、そういうメロドラマではないというところです。

コワルスキーさんは、あくまで自分自身の信念と勇気に基づいて行動していたら、自然と隣家の家族と交流が生まれたということ。そしてその結果、友人としてのタオの身の上を前に自分はどうあるべきかを、やっぱり自分の信念=過去を背負った経験と価値観に基づいて考えた帰結としての、あの最期だったということ。
そういう一本貫いた老人の生き方を見せてくれたところに感動したのです。

コワルスキーさんが実際どういう心持ちだったのかは、観客がそれぞれ考えることでしょう。昔の人らしい正義感から(ダーティーハリー!)かもしれませんし、朝鮮戦争での殺人への悔恨もあったかもしれません。タオやタオの姉スーへの友情であったかもしれませんし、上手く行かなかった自分の家族とのことに対する自分のあり方を示すという事もあったかもしれません。はたまた、自分がすでに病気に冒されていて先は長くないという見通しもあったかもしれません。
それらすべてを彼なりに決算したのかもしれません。

そう。これは決算の映画だったのです。
コワルスキーさんの体現する価値が「正しい」という主張ではなくて、そういう価値を持った人間の姿を淡々と描いたということだと思う。
しびれますね~

(それが、あまりにも西部劇のシチュエーションを思わせる・・というようなことは、きっと誰かが言うでしょうからやめておきます。)




おもえばコワルスキーさんを形作るそういうもろもろが、あまりあからさまでなくさりげなく示されるということに映画の構成のほとんどが費やされていたかもしれない。
彼の従軍の誇りと悔恨はすでに冒頭、彼の孫たちがいたずらで開けてみる大きなケースにある写真や勲章によって予感されている。
若い世代への苦い思いは冒頭の葬儀での「ヘソ出し」孫娘によって明示されていたし。
「イエロー」にも「黒」にも苦々しい思いを持っているけれども、そのイエローである隣人のスーが悪いヤツに絡まれていると、やっぱり助けに行かないと気がすまない。
そういう彼の性格は随所で描かれる。
戦後にフォード社でやはり誇りを持って働いたし、その傍らで名車グラントリノを手に入れ入念に整備してきたこと、ガレージの工具コレクション?の見事なこと、etc.

そういういっさいが、彼の生き様を示していたとともに、その最期について観客が考えるうえでの材料になるのだから、この映画は一瞬もムダがない、非常によくできている作品といっていいのではないだろうか。


*****

とにかく、タフで偏屈だけど心根は曲がっていなくて、自分は古い人間だということも知っている、そんな老人はワタシの理想とする老後なので、その魅力に参ります。我が国ではムリかなあそういう老い方は・・つうかそもそも自分、全然タフじゃねーし^^;

それから最初におもいきりビックリするのは、タオが盗みにはいるガレージでの演出ですね。
あれは、企んでやったことなのか?としたら恐るべきことですし、偶然であれば、それを逃さず採用するカンの確かさですね。
(何のことかっていうと、あのランプですね。からから揺れて二人を交互に映し出す光のことです)

女性が潤滑油としてはたらく(というとちょっとエッチな表現かしら??^^;)のがまたいいですね。スーがいなかったらタオとの友情もなかったでしょうし、モン族の女性を中心とした一族がこぞってコワルスキーさんに「感謝の気持ち」を持ってくるところなんか、笑えるし心安らぐしいいですね。
スーはすごく良い演技でしたね~
捨てがたいのはまた隣りの「バア様」で、露骨にコワルスキーさんをいやがるけれどもそのうちなんとなく受け入れてみたりする。
ミス・ヤムヤム(笑)もちょい役だけど結構重要だ。

ステキなスー↓




葬式で始まり葬式に終わる。
という円環構造も実に見事です。ワタシは最後のほうの葬儀の場面になったとたんに泣きました。見事さに泣いた。
この円環を通じて27歳童貞の神父さんもまた成長したのだ。(こちらは成長の物語)

あとはですね、
『チェンジリング』に続き、またもや見せてくれた、贅沢なエンドロールですかね。
海岸沿いの道をタオが譲り受けたグラントリノにコワルスキーさんの愛犬だった犬を乗せてずーっと去って行くシーンですが、あれ?舞台は中西部じゃなかったっけ?と思いつつ、今回のゴージャスは、そのエンドロールに流される歌。グラントリノの歌だけれど、どうやらこの映画用に書き下ろしの曲のようですね。イーストウッドさんも息子のカイルさんも関わって曲作りをしたようです。で、この曲はエンドロールにしか使われない。。。すごい贅沢。。。最近の映画ってだいたいエンドロールにはありネタのポップソング~とか多いので、なんかゴージャスな気分^^
かつ、この歌を聞きながら最後の決意をしたコワルスキーさんの胸中を振り返り、ふたたび涙無くしてはいられなかったワタシでありました;;


******


なんだか勢いに乗じて、まとまりもなく書いてしまって、
おのれの文才の無さにちょっとがっかりしつつも・・
・・ワタシが『ハリーとトント』を『明日に向って撃て!』を観ていらい憧れてきたアメリカ映画は、現代はイーストウッドが形にしていた!
ということで、おしまい。




【追記】

モン族については、ベトナム戦争中にアメリカ軍に協力したので、戦後共産主義勢力の報復を恐れてアメリカに移住したと語られている。
アメリカ軍によって組織された山岳民族はマンガ「ディエンビエンフー」にも出てくるが、要はベトナムのなかでも少数民族として低い扱いを受けていた、そういう民族感情をアメリカが利用したということですね。
そういう背景もコワルスキーさんの心を動かしたのかもしれませんね。



【さらに追記】

こういう「決算の映画」は日本においてはどのような映画になるだろう、と思いつつ観ていましたが、ガラリーナさんのところで篠崎誠監督「忘れられぬ人々」が紹介されていました。ぜひ観てみたいと思います。
ガラリーナさんありがとう。


【さらにさらに追記】
書き忘れていましたが、この映画には「街の音」が満ちていました。
遠くを車が走る音、パトカーのサイレンの音、まあそんなものですが、
音楽を極力抑制してそういう空間の息づかいを伝える事でこの映画のどこかなまなましい現実感を作っていたと思います。
このへんのセンスは若い頃のリュック・ベッソンにぜひ学んでほしい事の一つです(ということはまあ蛇足として(笑))


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24 コメント

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凄い映画でした (ガラリーナ)
2009-05-04 00:56:15
>コワルスキーさんが心を開いたとか、考えを変えたとかいうのではない

全く同感です。偏屈じじいは、どこまでいっても偏屈じじいだもん。それでも、ウォルトが魅力的に映るイーストウッドの演技には凄まじいものを感じました。これで俳優業は引退と言っているので、そういう意味でも総決算なんでしょうね。
興奮冷めやらぬ (manimani)
2009-05-04 01:16:10
☆ガラリーナさま☆
コメントありがとうございます。
偏屈人間の最終型のあり方をひとつ示したということですかね
あれでよかったとかこうしたらよかったのにとかいう問題ではないところがぐっときます。
頑固爺、ばんざい (かえる)
2009-05-04 08:34:47
manimaniさん、こんにちは。
そうか、イーストウッドさんと呼ぶべきですね!
本当にまいった、やられた、につきます。
西部劇は食わず嫌いしがちな私でしたが、アメリカよりヨーロッパ派な私なんですが、イーストウッドにはひれ伏さずにはいられなくー
エンディングの歌にもしびれましたねー
こんにちは。 (えい)
2009-05-04 10:23:39
コメントさせていただくのは久しぶりでしょうか。
ちょっと嬉しくなったのでひとこと。

なにがうれしかったかと言いますと、
「決算」という言葉を発見したこと。
この映画、「集大成」言われる方が多いのですが、
ぼくは、これはイーストウッドの「総決算」と思い、
あえてそちらを選んでいたんです。

と、それだけのお話なのですが、
やはり嬉しいです。
ポリシー。 (BC)
2009-05-04 12:16:37
manimaniさん、はじめまして。
~青いそよ風が吹く街角~のBCと申します。
トラックバックありがとうございました。(*^-^*

昔堅気の老齢男性の一本筋の通ったポリシーは伝わってくる作品でしたね。

スー役の女優さん芯の強さと清らかな透明感を併せ持っていて魅力的ですね。
アメリカ好き (manimani)
2009-05-04 13:04:16
☆かえるさま☆
コメントどうも~^^
ワタシは普段は隠していますが(笑)アメリカ映画結構好きで西部劇も好きです~~どんなにアメリカが間抜けで人種差別で帝国主義で暗黒商法であろうと、好きを否定できないのです~
なわけで、イーストウッドさんにはまいりました。
どうも (manimani)
2009-05-04 13:06:51
☆えいさま☆
コメントありがとうございます
そうですね~決算ですよね
決算についての映画。
イーストウッドが総決算をしたのかどうかはわかりませんが。まだまだ撮るべきものを見つけてくれると思いたいですね。
帰結 (manimani)
2009-05-04 18:09:43
☆BCさまm☆
はじめまして。でしたっけ?^^;
コメントありがとうございます。

ポリシーというか生き方なんでしょうねえ。貫くということ自体がそういう生き方をしてきたってことでしょうね。

スーはいいですね^^

またお越しください~
お久しぶり (T)
2009-05-04 22:40:35
Tです。ごぶさたです。
manimaniさんは観た当日にブログUPしてるの?
私も観てきましたよ、グラン・トリノ。5/3に。
5年振りぐらいの劇場鑑賞。それがmanimaniさんと同じ日に同じ映画だったら、すごい偶然だよね~。
おお~ (manimani)
2009-05-04 22:57:23
☆Tさん☆
お久しぶり~
グラントリノ5/3に観ましたよ。
これは運命ですね(笑)

だいたいは観てすぐには書かなくてヒマになったときにまとめて書く感じですかね~
盛り上がるとすぐ書きますね。

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