Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「迷宮の将軍」ガブリエル・ガルシア・マルケス

2007-12-04 21:18:27 | book
迷宮の将軍
ガブリエル・ガルシア・マルケス,木村 榮一
新潮社

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19世紀に実在した南米の「解放者」シモン・ボリーバル将軍が大統領職を離れて最期の旅をする。その軌跡と生涯を綿密な調査をもとに、旅にある生の細部におよぶフィクションbasedノンフィクションとして構成した小説。

南米史には明るくないので(というかまあどの歴史にも明るくはないが)、全体像がはっきりとわかりにくいのが残念だが、物語として楽しめると同時に、きっと南米に生を受けた人が読むならば心根にずんと響くものを持っているだろうと想像できる。
他のガルシア=マルケスの作品に比べると驚くほどストレートな作風で、よくいわれる魔術的リアリズムというタッチとは遠く、むしろジャーナリスティックなリアリズム文体である。見てきたかのように、あるいは本人であるかのように将軍の行動と回想を書き連ねる筆致は、おそらくはそのスタイルこそ南米が南米であることをリアルに読者に伝えることのできる方法として作者が選択したものだろう。題材と文体を作品ごとに慎重に選ぶという点でガルシア=マルケスらしい作品のひとつなのだと思う。

ボリーバルの生涯の伝記ではなく、最期の旅の記録の体裁をとっているところがさすがの着眼である。
将軍の後半生の栄光と挫折は、ありえたかもしれない南米大陸北部統一国家の挫折そのものである。宗主国スペインに対する死を賭した戦いから解放、独立を指導した将軍は、解放者として英雄視されながらも、独立後の国家大統合を牽引するなかで、分離独立主義者や、解放後に目標を失った民衆などからの反目も買う。革命の道筋も一進一退で、国家の形態も統合と分離を繰り返し一向に定まらない。

将軍が大コロンビアの大統領を辞して出た旅は、この栄光と混迷の同居をそのまま体現したような旅なのだ。病に冒され息も絶え絶えでありながら時に強靭な精神力で気丈にふるまったり、旅の目的や目的地を時勢によってめまぐるしく変えてみたり、医者嫌いでいながら病人のシャツを渡すだけで病を治すという祈祷師に身をゆだねてしまうという蒙昧さをみせたり、失意のなかでもなおコロンビア世界の統一のために各方面に手紙を書いてみたり。
力強くありながらも紙の船で大河を下るかのような危うさと計り知れなさをもった長旅だ。

小説は、あてのない行程を、病に悩まされながら、思うままにまどろみ回想する、一見ひたすらそれの繰り返しであり、いったいどこまでつきあえばいいのかと途方にくれるような構成なのだが、ひとたび読み始めると、その内側に潜んでいる起伏にとんだ生涯の反響に引き込まれてしまう。ガルシア=マルケスにしてはアクがないな~と思っているうちに思いがけなくぬっとりとした沼へ、いや、まさに将軍のいた迷宮に誘い込まれる、油断のならない小説。

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しかし、ワタシ的問題として、見てきたように撮る映画は居心地悪いのに、見てきたように語る小説は座りがいいのはナゼだろう??

そこには映画と小説の間の違いに関わる本質的な事柄が潜んでいるような臭いがする。
臭いぞ~

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シモンボリバル市というのがあちこちにあるらしい。ベネズエラにも3つくらい。どうやって区別するんだろう。。。?と思ったら州が違うようですね。

シモン・ボリバルという名の原子力潜水艦もあったらしい。米国海軍原潜2号機だそうで。アメリカでこのネーミングは、大国が南米の動向に深く関わっていたことを示唆するのだろう。

ついでにいうと、ボリビアーナという小惑星まである。これもシモンにちなんで命名されているということ。迷宮の将軍も夜空の星にまで自分の名が付けられると想像しただろうか??

そもそもボリビアの国名もシモン・ボリーバルの名から取られた。ボリビアの憲法を草案したと小説中にもある。初代大統領だったとのこと。

ボリビアというと、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドが高飛びし、最期を迎えたた国であるが、彼らがボリビアに赴いたのは1900年代初頭(1908ころ)らしいので、シモンらによる独立からはさらに80年くらい下る物語だね。

今朝TVで、ベネズエラはミスコン上位者の常連だというのを聞いた。
う~ん。現実はいろいろだ。




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