Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ブリッジ」エリック・スティール

2007-07-17 03:49:28 | cinema
ブリッジ
THE BRIDGE
2006アメリカ
監督・製作:エリック・スティール

誤解を恐れずにいうなら、これは世界的に有名な橋に関する良質なルポルタージュである。
橋にまつわるどのような映像がありうるかという問いに対する無数の答えのひとつには、自殺者の姿を映す、という回答が厳然たる事実として含まれる。

撮影すること自体が不謹慎であるというのは、事実に対する不敬であるだろう。

撮影するくらいなら救援しろというのは、橋を車で渡るくらいなら救援しろ、映画を観るくらいなら救援しろ、と橋にかかわるすべての人々が悪であるというのに等しいし、たとえばすべての戦地ルポを禁じる論理である。

厳然たる事実をフィルムに収めるという点で、この映像は橋に対して誠実であり、イデオロギーによる偏りがない。と思う。

フィルムは自殺者だけでなく、雲にかすむ橋、朝焼け、夕暮れに映える橋の姿を悠然と映し出し、音楽までつけている。これは橋のプロモフィルムなのだ。

***

では、このフィルムのもうひとつの面である「自殺者」のルポという側面ではどうか?
この側面はもっぱら遺族や親しい人々へのインタビューによって構成される。この方法も間違っていないと思う。それ以外の方法は思いつかない。
インタビューでうかびあがるのは、自殺者がどういう人となりであったか、死に至るまでの心の動きが周りの人々にはどう見えていたか、である。追悼も教訓もない。基本的に正しいと思う。

ただ、思ったほど自殺者の、あるいは遺族らの「人生」は見えなかったように思う。これは話される内容が自殺者の死に関わることに絞られていたせいではないか。あくまで「本人」が不在のインタビューであるのだから、むしろ遺族自身の出自や家族構成や、本人しかわからない心や思いを自由に語らせるべきだったのではないだろうか。そのことによってはじめて人の人生というものがみえたのではないか。直接故人にかかわらないことでも、見えた人生には必ず得るものがあるはずだ。

という意味では、唯一含まれていた「生存者」のインタビューが一番肉薄的だっただろう。「本人」の生々しい告白が、家族の思いと対置されることによって、生存者である息子と、その厳格な父親との間の、直には言及されない無言の確執がにじみ出るように伝わってきて、息子の生きる空気というものがありありと感じられた。全編この空気感がほしかったと思う。

***

しかし、ほとんどの死者は、生前精神の病を患っていたのもちょっと意外だった。うつ病、統合失調症。
自殺にはさまざまな原因があるだろう。その原因が病の引き金になったのか、病が死の原因であるのか、そのあたりも掘り下げてほしかった。この映画の扱い方では、やっぱり自殺する人はそういう病気なのよね~という感想で終わってしまいそうである。これはまずかろう。

それから、インタビューの構成を故意にシャッフルしていたが、その意味は図りかねた。いちばん「華麗に」飛んだロックンローラーの彼を、期待を持たせつつラストに配置したのか?という、スペクタクル志向の存在を邪推する。それは正しくないだろう。

あとはなあ・・・音楽の使い方がちょっと・・必要だったのかなあ?
橋のプロモとしては機能していたけど自殺者のルポとしては不要だったなあ。


結論的には、人生の掘り下げ不足で、珍しいもの観たさの人や短絡思考のひとにあらぬ誤解を与えてしまいそうな仕上がりになっている点で、万人には薦めることができない映画だと思った。

でも劇場は意外と混んでいたけどね。



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3 コメント

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お先に失礼します。 ()
2007-07-25 09:17:37
こんにゃにゃ♪
私から先にお邪魔しに来ました(笑)
manimaniさんの感想を読んで
そうそう・・生き残った人の話は 面白かった
つまり
他の人へのインタヴューがつまらなかった・・ということに 気づきました。
あのカメラは やはり 意図的に
映画のために設置されたんですね。
確かに その点で 拒否反応を示してしまう人も
いるでしょうね。
問題は 何のために撮ったか?
という点で
橋の安全策をつけるための 啓蒙なら
意味あることでしょうが
微妙ですね
それが きちんと 観客に伝わるような
力のある 監督が 撮るべきだったのじゃないかと
今 ふと思いました。
返信する
な・・なんで・・? ()
2007-07-25 09:25:18
またたび猫です。
「ミュンヘン」はすぐにTBが反映されたのに
この「ブリッジ」は
どうして私のほうからも
TBできないんでしょう???
こりゃ
自殺者の怨念????

そんなヒト どこにおんねん???(笑)
返信する
どうやら (manimani)
2007-07-26 03:43:29
☆猫さま☆
というわけで、そういうことだと思うことにしましょう。
決して怨念ではなく・・・
返信する

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