Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ホーリーモーターズ」レオス・カラックス

2013-04-24 02:48:35 | cinema
ホーリー・モーターズHOLY MOTORS
2012フランス/ドイツ
監督・脚本:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン、エディト・スコブ、カイーリ・ミノーグ、ミシェル・ピコリ、エヴァ・メンデス 他


カラックスの新作とあらばやはり観るでしょう。

実に不可思議な映画です。

冒頭映画館の観客が身じろぎもせずこちらを見据えている、まるで鏡のような画面に狐につままれた感。

そしてカラックス本人が薄暗がりの中サングラスをかけて不安げに目覚める部屋は、
空港を窓から望む場所にありながら港の雑音が聞こえる変な場所。

壁の一部が隠し扉のようになっていて、それを開ける鍵はカラックスの指と一体化した金属のパイプ。
ドアを開けた向こうには電灯が点滅する暗がり。奥にさらにドアがあり、開けると劇場の2階席に。
映画上映中の劇場客席の通路をゆっくりと巨大な犬が歩いてくる。



記憶が適当なので違うところがあろうかとは思うが、これはまるでデヴィッド・リンチの映画の始まり方である。
この魅力的な導入は、あとから思い起こすとその後の展開とは全く関係ないと思われるモノであるからまた厄介である。

魅力的な導入という点では例えば『ポンヌフの恋人』でも橋に至るまでの長い長い導入が印象的である。
イントロで不可解な力で観客をつかむのがカラックス的な魅力のひとつなのだろう。
不穏な暗がりに目覚めて不穏な暗がりの劇場に不穏な鍵を使って入り込む、
それが映画なのだという宣言のようでもある。

これから観るものは「映画」なのだという宣言。


そのあとに延々続くのは、リムジンの中で変装を繰り返し演じられるドニ・ラヴァンの百面相なのだが、
それぞれの変装はひとつひとつがひとつの映画と言ってよい。

観客とは、映画から映画を移り渡る存在だとも言える。映画と映画の間は映画でない余白である。
『ホーリーモーターズ』は余白を極端に縮めた映画体験を映画にしたものなのかもしれない。
映画体験を見せる映画。
そこに展開するのはサスペンスあり家族風景あり対話劇あり、果てはミュージカル仕立てのピースありと、
映画ジャンルを横断するようである。



しかしもちろんただ異なるエピソードが並んでいるといった映画でもない。
一人の人物の一日の行状として示されるドニ・ラヴァンは、途中現れる昔のボス?らしき人物(ミシェル・ピコリ)との対話で語られるように、カメラが消えたあとのカメラ無き俳優である。

人生はカメラ無き映画でペルソナを取り替えては演じ抜ける俳優のようなものなのだ、
といささか青臭く古臭く捉えることも可能だろう。
リムジンのほかには帰る場所すら定まらない。仮面を取る場所はリムジン以外にはないのだ。



一方でそういう分析的で教訓的なことを目的にカラックスは映画を撮ったのではないとも思える。
一人超越的な存在である運転手のことや、リムジンの寝床での車たちの会話wや、銀行家を見かけて襲撃するwwところなど、
無邪気で回収できないアイデアがこの映画を一層謎めいたものにしている。

運転手が最後になぜ仮面を着けるのかという問いについて、カラックスはインタビューで「わからない」と答えている。
あるいは「観客をどう捉えているか」と問われると、「観客のことは全く考えていない」とも。
どの程度真面目に答えているのかはわからないが、基本的にはアイデアの人であり、
理詰めに何かを伝えようとするタイプの作家ではないのだと思う。

この点でもリンチに似た資質があるように思える。
冒頭のリンチ的シークエンスは、この映画が個人的で突発的なものであり、かつ解釈の中に回収しきれないものであることを示す、
おそらくは無意識の命ずるままに付けた安全弁?タグ?のようなものなのかもしれない。

*******

『TOKYO!』で登場した(ということだ。未見)メルド氏が闊歩するペールラシェーズ墓地に流れる音楽に吹き出す。
無邪気な児戯のようだ。

同じく墓地でモデルを撮影しているカメラマン、その助手の女の子がかわいいったらないのだ。
彼女はアナベル・デクスター・ジョーンズという人だそうだ。



あとパーティーでトイレに閉じこもってたという少女もとてもよかったと思う。
彼女はジャンヌ・ディソン。


カイーリ・ミノーグが歌うシークエンスは実に感動的。歌詞も曲も素晴らしい。歌詞はカラックスらしい。
サントラ欲しい。

あとは、ジェラール・マンセの歌が使われている。
マンセを聴くのは25年ぶりくらい。
昔音源を探したがまったく入手できなかった。。今はどうなんだろう?


@ユーロスペース


【追記】
冒頭の映画館を這う犬だけど、なにやらそっくりな犬の絵が先日行ったフランシス・ベーコン展で展示してあったので、もしかしたら??
「走る犬のための習作」っての。
コメント (1)
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