Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「ピアノチューナー・オブ・アースクエイク」ブラザーズ・クエイ

2008-11-12 23:32:00 | cinema
2005イギリス/ドイツ/フランス
監督・脚本:ティモシー・クエイ、スティーヴン・クエイ
製作総指揮:テリー・ギリアム、ポール・トライビッツ
出演:アミラ・カサール(マルヴィーナ)ゴットフリード・ジョン(ドロス博士) アサンプタ・セルナ(アサンプタ)セザール・サラシュ(フェリスベルト/アドルフォ)



クエイ・ブラザーズと呼ぶのかブラザーズ・クエイと呼ぶのかよくわからないが、
アメリカ発ロンドン定住の運命を辿ったアニメーション作家兄弟による、
実写+アニメーション作品

喜び勇んで観に行ったが、9割方爆睡(またかい)
くやしいので二度目の鑑賞にて9割9分は見れた。
(1分はうとうとしたってことですけど~)

****

クエイの他のアニメーション作品に観られたような(といっても数本しか観ていないが)、閉所恐怖的で非人間的な先鋭的表現はこの作品ではやや影を潜め、
絶えず水中を漂うかのような、青と逆光とソフトフォーカスを基調とした、
幻想的な表現が支配的である。

その違いは視覚表現だけでなく、例えば「ストリート・オブ・クロコダイル」が説話的次元をほとんど感じさせず、観るものを鋭く拒絶するなかでの凍り付く表現ダッタのに対し、本作では、謎めいた物語がまちがいなく中心に潜んでいる。

それゆえ、クエイ兄弟のアニメーションがもつ根源的恐怖に魅せられたものにとっては、本作はやや物足りないと思うかもしれない。
実写の中の書き割りであるドロス博士の島の風景は、相対的に作り物っぽく見えてしまうし、木こりのパペットの世界とフェリスベルトの困惑とはどうしたって別世界のように見える。

じゃあつまらないかというと、いや~ワタシは気に入りましたね~
ひりひりしたクエイも好きだけど、
こういうのも好きだ。

冒頭からカエルの足と、ドロスの声
「死んだ」(She's dead!)
このセリフは後になんどか繰り返されることになる。
イメージの回帰が一つのテーマであることがここに明かされる。

アドルフォとマルヴィーナによる冒頭のオペラとその中断は、
後にドロスによって企まれる謎のオペラで再現されることとなる。
劇をめぐる現実のさらに劇化。

回帰の主題は、どうやら失敗に終わったフェリスベルトによる救出劇の結果である、オートマタの中での生という形で成就する。
全く無意味な細かい動作の繰り返しを生きるフェリスベルトとマルヴィーナのモノクロフィルムはこの映画の結末にしてもっともおそろしいシーンである。

う~ん、おもしろい。

物語を明示的な説話行為として作品にもりこんでみせたクエイ兄弟の本作のチャレンジは、彼らの作風に新しいスタイルを持ち込んだといえるだろう。

【追記】
回帰の他に時間の逆転というモチーフもあって、
これまた見逃せないけど、意味論にすっぽり落ちることがない。


****

ビオイ=カサーレス「モレルの発明」レーモン・ルーセル「ロクス・ソルス」が下敷きといわれるが、インタビューでは「結果的にジュール・ヴェルヌ「カルパチアの城」に近くなった」と言っているので、そいつを読んでみたい。
確かに島の風景のタッチはどちらかというと、冒険活劇系、ジュール・ヴェルヌ、カレル・ゼマンとかもそうだけど、むしろ日本のウルトラシリーズや悪魔くん的感覚が呼び起こされた。うむむむ。そこはかとないチープな感じはその辺とのイメージの繋がりだったのか(笑)

そもそもオートマタというもの自体がすごくアナクロで、しかもそれが水(潮の満ち引き?)によって動いている。チープなのになにか神秘的。この感じはなんだろうか。からくり人形の類い、どうしてそこに神秘を感じるのだろう??

***

「モレルの発明」からの反映は、海辺に佇む女性という設定と、最終的に再現されるイメージの世界に中に生きるというアイディア、それから、「二つの太陽を見た」というセリフくらいだったと思う。あとアドルフォという名前は、ビオイ=カサーレスのファーストネームだ。

クエイ兄弟に期待するのはまちがっていると思うが、「モレルの発明」をそのまんま映画化してもかなり面白かっただろう。


「ロクスソルス」は未読(20年前からいつか読んでやろうと思ってるんだけどね)。ここにはオートマタに関わる事柄が関連するらしい。

「カルパチアの城」も未読。


モレルの発明 第2版 (フィクションの楽しみ)
アドルフォ・ビオイ・カサーレス
水声社

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ロクス・ソルス (平凡社ライブラリー)
レーモン ルーセル
平凡社

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カルパチアの城 (集英社文庫―ジュール・ヴェルヌ・コレクション)
ジュール ヴェルヌ
集英社

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****

ところで、冒頭の写真のシーン、あったっけ?(笑)記憶にないです。

ドロス博士のゴットフリード・ジョンは、ファスビンダー作品でも頻出するお方。クエイはファスビンダーの『アレクサンダー広場』でジョンを見て作品に抜擢したそうである。「アレクサンダー広場」を観れるというのがうらやましい。
ゴットフリードさんはドイツ人らしいので、「ゴットフリート・ヨーン」て読むのが正しいようなキモするが・・・

あとは~、そうそう、音楽とサウンドが秀逸で・・・、いや、音楽のほうはヴィヴァルディを除いてはかなりアナクロな劇判という感じで、これは狙ったな?
インタビューによると、音楽は書き下ろしではなく過去のライブラリから使っているとのこと。なるほど。

ヴィヴァルディのアリアはいい曲なのでCDを探そうと思っています。

Vivaldi: Nisi Dominus; Stabat Mater

Naive

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【追記】
あーそうだ、庭師たちのあの怪しげな動きは、どう見ても
だるまさんがころんだ、だ。



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コメント (13)
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