Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「イッツ・オンリー・トーク」絲山秋子

2008-03-05 02:29:49 | book
イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)
絲山 秋子
文藝春秋

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芥川賞受賞作家だそうで、そのデビュー作だそうで、映画化もされているそうで。
全く知らなかったですわ。

もともとあまり賞モノには興味がなく、かつ星の数ほど書店に並ぶ新しい小説にほとんど魅力を感じず(根拠なき敬遠)。だっていちいち読んでられないじゃないですか。みんな読むのかな?

ワタシはどっちかというと読むのに1ヶ月もかかってしまうような迷路のような小説が好みであって、わりとスピード感が重視されている(勝手な思い込み)自分より年若の作家の(屈折したコンプレックス)今の小説にはどうも触手が動かんのよ。(食手?)

・・・とはいえ、もともと村上春樹好きだし、この間読んだ「グロテスク」とか「半島を出よ」とかはおもしろかったし、歌恋さんが仰っているように、食わず嫌いはダメよ、と思い直し、歌恋さんがお奨めていたこの本を手に取りました。
1冊がスタバのトールモカよりも安いしねえ。。。

*****

で、読んでみましたが。
う~ん
ワタシ的には表題作よりも併録の「第七障害」のほうが好みでしたね。


「イッツ・オンリー・トーク」はその名のとおりシンプルな語り口のシンプルなエピソードの寄り合いで、単なるお話だよ的軽さを持っている。その軽さと抽象度はなんとなく村上春樹の「風の歌を聴け」の風合いを思い出させるが、あれもデビュー作だった。デビューにはこういう軽さが求められるのかもしれない。

内容も本当は重く苦しいことかもしれないのに、どこまでもノリが軽く。主人公の女性は、職を失い、ある病に悩み、周囲に男の影は絶えないけれども実は孤独で、画業に精出すも売れず経済的にも苦境、年齢的にもどんずまってきたし、エッチ生活のほうも屈折&不毛。なのに、ろくでもない従兄弟に居候までさせることになる。

でも、そんなこと何でもないかのように話は進む。
苦境のありようがすごく今風で、それは物質的苦境ではなくてやっぱり精神的な苦境なのだな。
だから、今はタフネスとは違う苦境の生き方というのがあるんだなと思う。そこんところがいちばん感じたことかなあ。

主人公の車(車を持っている時点で本当の苦境とは言えないのかもしれないが)で流れるのはおそらくはキング・クリムゾンの「エレファント・トーク」。あの曲の持つアグレッシヴな側面とこの小説の平静さとの異化効果が心地よく、また、あの曲のどこか間の抜けたばかばかしさが、この小説の非タフネス的身過ぎ世過ぎと通じるところもあり。
(It's only talkはこの曲でエイドリアンが叫ぶ歌詞ですね)


あとは舞台が蒲田で土地勘がなんとなくあるのが楽しかったのと、薬ネタが身近すぎて笑った。

****

「第七障害」はもうすこし登場人物たちの心に寄り添った小説で、その点でまあよりフツーなのかもしれないが、ワタシは好きでした。

馬術の競技で人馬転(転倒するのをこう言うんだ~)をやり、馬は結局安楽死となったのだけれど、そのことに強い負い目を抱く女性の心の傷の癒しの過程をそっとたどった小説。

それは転居や転職やライバルとの再会や友人との同居などを通じて揺れ動きときには大粒の涙になってあらわれたり、やさしく思い出として主人公を力づけたりするけれど、結局「癒えました」という結末ではなく、主人公も乗馬を再会するには至らない。この物語の解決(反解決)の手管がなかなかによいと思った。

悲しい事件の地である群馬の田舎を離れながらも、そこを出身地でないのに帰るべき場所と思っている主人公の心のありようは、人は結局傷には直面しなければならず、でもその方法や過程はゆっくりで穏やかでいいんだ、という、なんとなく現代的なメッセージを含んでいると思う。

そしてその立ち向かいは、恩師の死で二度と戻らない時空が主人公にもたらされたことに象徴されるように、もしかしたらずっと解決に至ることは無く、一生をかけてつきあっていくようなものなのかもしれない、とも。

***

で、絲山さんの小説、他も読むかなあ>自分・・・
・・・なんとなく読まない気がするなあ
解説の書店員さんには申し訳ないけど~(すんませんね)


ディシプリン(紙ジャケット仕様)
キング・クリムゾン
WHDエンタテインメント

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