Credo, quia absurdum.

旧「Mani_Mani」。ちょっと改名気分でしたので。主に映画、音楽、本について。ときどき日記。

「アワーミュージック」ジャン=リュック・ゴダール(再観)

2007-06-13 09:10:45 | cinema
アワーミュージック

アミューズソフトエンタテインメント

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劇場で観たものをDVDで再観。
ゴダールの今現在の最新作である(正確には「映画史特別編」てのが最新らしいが)この作品。観終わって、なおまた観たいと思うのはなぜ?
とても理屈っぽいのに、美しくて悲しい映画なのです。


ダンテの「神曲」を意識した3部構成のうち、真ん中の「煉獄編」の舞台はサラエヴォ。
サラエヴォは、記憶に新しい前世紀末の惨劇の舞台であるとともに、「映画史」を観たものには鮮烈に記憶に残るが、全世紀初頭、第一次世界大戦の契機となったサラエヴォ事件の起きたところである。
と同時に、その後の主にチトー時代に、多民族多宗教国家としては異例な異文化共存社会の中心都市としてコスモポリタン的繁栄を見た都市でもある。
ゴダールにとって、20世紀とはサラエヴォにサンドイッチされた世紀なのであるに違いない。

だからなのか、ゴダールは21世紀初頭の今、わざわざサラエヴォにいって、禅問答をし、ホークスの切り返しショットに難癖をつけ、強制収容所でのユダヤ人の写真を見せ、中東問題に拘泥し、少女に個人の生と死と神の超越を語らせ、所ならぬネイティヴアメリカンを登場させてみる。
ゴダールが中東の映像を得ようともがいたジガ・ヴェルトフ集団時代の後、スイスレマン湖畔に引きこもって以来、自分のテリトリーを出て「現場」に赴いた映像はこれが初めてなのではなかろうか?

**

とはいえそれはやはり遅れて到着した現場である。
ゴダールの持つ強迫観念の一つに、映画は強制収容所の映像を残さなかったために決定的に罪深いというものがある。その贖罪を果たさんとするかのようにパリ・ヴェトナム・パレスチナそしてサラエヴォの映像を残そうとした60年代後半以降のゴダールだが、結局ヴェトナムへの入国は実現せず、パレスチナは未完、そしてサラエヴォには間に合わなかった。

遅れてしまう映画。

冒頭の「地獄篇」は、映画が何に遅れてしまったかを外に指し示す映像なのかもしれない。
次の「煉獄篇」では現世のサラエヴォに、遅れてしまった事象の証人が集まる。ユダヤ人、パレスチナ人、インディアン、ジャーナリスト、生きている者、死んだ者。
そしてそれぞれ再生=贖罪の道はどこかを探る。

証人のうち、映画代表を務めるのはゴダール自身。インディアンも、パレスチナ詩人のダーウィッシュも、皆何がしかの答えを持っているのに、ゴダールだけが、映画の贖罪の道を尋ねられ、長い絶句で答える。非常に印象的だ。

そのゴダールに映像(DVD)を託して死の淵に臨むオルガにもやはり映像は間にあわない。それどころか、オルガの死の時にはゴダールはさっさと自宅に戻り植木をいじっていて、彼女の死を伝える電話でも怪訝そうである(「誰だっけ?」)。

結局映画にできたのは、緑豊かな湖畔を裸足で歩むオルガの天国の姿をカタルシスのうちに撮ってフィルムの最後に「天国篇」を置くことだけなのだ。

映画に贖罪の道はないと言うのか?もしくはこの美しい天国の映像が答えなのか?

***

ゴダールが「映画監督ゴダール」としてスクリーンに登場することも稀なことではないのか?
例えば「右側に気をつけろ」で「白痴」のゴダールとして自身を登場させるようなことはしばしばあったが。
遅れてしまう映画を撮り続けたゴダールの映画に、まさに「遅れてしまう映画監督ゴダール」が登場し、「遅れ」を演じてみせる。この自己批判とも自己憐憫とも自己嘲笑ともとれる構造がなんとも痛々しく、滑稽でもある。

どこかで誰かが書いていたが、あの自宅の庭で電話に出ようとする時に小屋のひさしに頭をぶつけそうになるゴダール。あれは演出なのか偶然なのか。
いずれにしろあの絶妙に滑稽な姿を残したゴダールは、やはり批判にも憐憫にも嘲笑にも寄り付かない孤高の映像表現者なのだと、大げさに思う。


メモにしちゃ長かったな。

******

劇場公開版では「ムスリム」という字幕だったが、DVDでは「貶められたユダヤ人」という表記に変わっていた。これはどちらか一方では苦しくて、できたら両方表示したいところだよなあ。

浅いフォーカスのレンズでぼけぼけの風景をとり、遠くから誰かが歩いてくる。ようやく焦点の合う距離まで近寄ると、それがオルガだったりする。
のような、印象的な映像も多し。

天国の門番?のかたわらにあったのはなぜか松下電器の70年代のラジオ名機「クーガ」だったりする。




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