イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

28年ぶりの島根県浜田市再訪記 ~君の唄が聴こえる~ その13

2009年08月31日 19時25分12秒 | 旅行記
ホームの階段を上った。改札口が見える。「無事、浜田に到着できた」それだけで、自分が大きなことを成し遂げたような気がしてしまう。まるで十才の子どもだ。東京を出る前は、白馬に乗った王子様として颯爽とかっこよく浜田駅に登場するはずだった。でも今の自分は、もうヨレヨレだった。雪山で遭難し救助された登山客みたいだった。安否を気遣っていた身内が、駅に出迎えに来てくれているのだ。「よく来たね!」というより「よくたどり着けたね!」と思われているに違いない。

ロボットみたいにぎこちなく前に進む。意識がだんだんスローモーションの世界に入っていく。ブライアン・デ・パルマの映画の、ラストシーンみたいに(そんなにかっこよくないか)。すでに清君とエイコちゃんは、僕の姿を見つけて呼びかけてくれているのかもしれない。でも、駅の喧噪と胸の鼓動が混じり合って、自分の耳が何を聴いているのかがよくわからない。視界がぼやけて、見つめた先のものしか目に写らない。改札口の駅員の姿を確認し、そこに向かいながら、入場エリアを仕切る鉄柵の方に目を向けた。3人の男女が、こちらに向かって手を振っている。何かを叫んでいる――。

清君! エイコちゃん! かぺ君もいる!

清君とかぺ君はふたりともすごく背が高い! 鉄柵越しにニッコリ笑って大きな手をあげてくれている。エイコちゃんは小柄だ。しゃがんでいるから余計に小さく見える。鉄柵の間から、笑顔で携帯のカメラをこちらに向けている。動物園の白クマになった気分だ。3人の姿はまるで、バッター清、キャッチャーエイコ、審判かぺ、みたいだ。

改札を抜けた。上の空で、駅員に新幹線の切符を渡した――(後日談:緊張していたためか間違えて帰りのチケットを渡していた。駅員もなぜかそのまま通してくれた。おかげで帰り道も大変だった)。

3人が近づいてきた。会う前は、お互いの顔を認識できるかどうかちょっと不安もあった。だけどそれは、まったくの杞憂だった。清君、かぺ君、エイコちゃん、みんなすごく面影が残っていて、見た瞬間にすぐにわかった。清君と、かぺ君と、エイコちゃんが28年すくすくと育ったら、こんな風に立派な大人になりました! という感じだ。喜びと驚き、興奮で何を喋っていいのかわからない。こっちゃん、よくきたね、清君、かぺ君、エイコちゃん、ひさしぶりだね、たぶんそんなことを言って、とにかく握手した。離ればなれになっていたコジマが、みんなとつながった瞬間。

清君もかぺ君も身長が180センチ以上はある。がたいもよくて、すごく元気そうだ。かぺ君は僕以上に日に焼けている。浜田で生きているたくましさのようなものが、浜田という土地の風土が、ふたりの表情に表れている。迫力のある、立派な顔をした男たちだ。なんだか僕だけ子どものままのように感じて、都会のもやしっ子のように感じて、気後れしてしまう。ふたりも僕と同じく何を言っていいのかわからない様子ではあったが、「まあまあまあ」という風に僕の荷物を取り上げるようにして持ってくれた。4人は、近くに停めてあるかぺ君の車の方に向かって歩き出した。今日は清君の家に泊めてもらうことになっている。かぺ君の愛車で清君の家に行き、清君の奥さんの靖子さんが作った夕食をご馳走になるのだ。何をどう言えばいいのかわからない、口をついて出る言葉がもどかしい、ともかく前に進んだ。

この懐かしさは簡単には言い表せない。ともかく、新山事件はたいへんだったね、本当に久しぶりだね~、と、そんなことを話しながら、興奮気味にかぺ号のところまで歩いて行く。エイコちゃんとはいったんここでさようならだ。当時から小さかったエイコちゃんはあの頃と同じように小柄で可愛らしく、ヒラヒラと蝶のように僕たち3人の周りを舞いながら、ニコニコと男子の再会を見学していたような感じだった。エイコちゃんに、新山口駅で買ったおみやげの宇部かまぼこを渡した。エイコちゃんも、まさか28年ぶりに再会した白馬の王子様から、宇部かまぼこを渡されるとは思っていなかっただろう。でもいいのだ。「うちはええのに~、でもありがと」と言ったエイコちゃんの言葉づかいが、なんともいえず懐かしかった。明日はマキちゃんと由美ちゃんと学校で再会だね、またね! 興奮したまま手を振った。

28年ぶりに会ったのに、まるで夏休み明けに会ったくらいの感覚で、やあ、しばらくぶりだね、みたいな言葉を交わしている。そんな気持ちになれることが嬉しい。本当に仲がよかった友達だからこそ、あの日が昨日のことのように思えるのかもしれない。下手をしたら一生会うことができなかったかもしれないのに、本当に今、僕たちは同じ場所にいる。4分の1世紀も相手に見せることのなかった姿をお互いに見せ合うのはちょっと恥ずかしかったけど、たしかに今、僕は清君とかぺ君と一緒に歩いている。夢を見ているようだ。

かぺ君の車に乗って、浜田駅から10分ほどのところにある清邸に向かう。あのかぺ君が、車を運転している! 漁師の子で、木の箱にいっぱいの魚を抱えて、僕の家に持ってきてくれたかぺ君。左利きのかぺ君。当時から群を抜いて背が高かったけど、やっぱり今も背が高い。髪型も、当時を思い起こさせるようなさっぱりとした短髪だ。清君も当時と本当に変わっていない。姿勢が良くて、運動神経が抜群によかった。景山クラスの大将だった。笑うととっても無邪気な顔になるところは、昔とまったく変わっていない。

僕は1、2年生のときはかぺ君と、3、4年のときは清君とクラスが同じで、それぞれとっても仲が良かった。当時は、かぺ君と清君はクラスも違ったしあまり一緒に遊んだりはしていなかった。ところが5、6年でクラスが一緒になってから、ふたりはすごく仲がよくなり、中学、高校も一緒で、大人になってからもずっとつきあいが続いているのだそうだ。ふたりとも僕と仲がよかったから、今回の僕の浜田への帰省をとても喜んでくれた。ふたりが親友であることを知るのは、本当に嬉しい驚きだった。

年始めに由美ちゃんがブログを見つけてくれてから、春にエイコちゃんからのメールがあり、マキちゃんともメールするようになり、エイコ&マキがGWに先生を訪ねてくれたり、夏の段取りをしてくれた。そして清君、かぺ君からのブログを通じての連絡、靖子さんとのメールのやりとりがあって、ひょうたんから駒みたいな話が、あれよあれよという間にトントン拍子でここまできた。すごい展開だったよなぁ、それにしても色々、びっくりだよね、懐かしいなぁ~、奇跡みたいだ。そんな話をしながら、かぺ君が慣れた手つきでハンドルを操る。「いつものように」といった雰囲気を漂わせながら、スーパーかぺ号がトンネルを抜けていく。ここ浜田でのふたりの日常の息吹が伝わってくる。ふたりはずっと、浜田を身近に感じながら生きてきたのだ。あれから28年。僕もそれなりに人生を生きてきた。だけど、久しぶりに浜田の空気を吸い、流れゆく外の景色を眺めていると、なんだかあの後の僕の人生はすべて嘘であったかのように思えてくる。十才のとき雪山で遭難し、氷漬けになってずっと冬眠していた男が発見され、今、清邸に搬送されている。そんな気がしてならない。こっちゃんは結婚してるの? いや実は1年前に離婚したんだよ。ああ、やっぱり独身だったのか、ブログ見てたらそんな気がしてたんだけど、ネットで結婚してるって情報を見たような気がしてたんだ。うん、それは昔のデータだね。でも今は辛さもだいぶ薄れてきたんだ。そんな時期に昔の友達と会えてよかったよ。天のお導きかもしれないと思ってるんだ。そうか、うん、人生いろいろだよ。ともかくよかった、今日は呑もうよ、靖子が料理を作って待ってるから。ニンニクのナマ焼きも用意しておこうかって冗談言ってたんだよ。笑った。そして、三人で笑えることがとっても嬉しかった。

車が清君の家の前に到着した。立派な一軒家! うわぁ~、すごい豪邸だね! 清君はニッコリ笑って何も言わずに荷物を持ってくれた。かぺ君も荷物を持って、まるで自分の家みたいに中に入る。広い家だ。暗くてよく見えないけど、ひっそりとした山間にある、とても空気のよいところだ。

「ここがこっちゃんの"控え室"だよ」と、清君が部屋に案内してくれた。旅館の一室みたいな綺麗な和室だ。布団も用意してくれている。嬉しさで胸がいっぱいになる。

リビングに入ると、テーブルの上に、この世のものとは思えない豪華な料理が並んでいた。そしてキッチンには、とびきり可愛らしい女性の姿が――。靖子さんだ! 

こっちに来る前、清君の代わりに何度もメールで連絡をもらい、至れり尽くせりの気遣いで、浜田への旅の準備をサポートしてくれた靖子さん。嫌いな食べ物はないですか、駅への迎えは何時ごろがいいですか、どうぞ泊まっていってください、かぺ兄も入れて食事をしましょう、チンしたニンニクはお好きですか、などなど、などなど。寝るところは畳一畳のスペースがあれば大丈夫です、森永オットットと蠣以外は何でも食べます、昆虫も食べますが、食事もどうぞお気遣いなく、ニンニクは念入りにチンしてください、なるべく気をつかわせないようにと、そう書いていたにもかかわらず、はやくもここは竜宮城かと思うようなもてなしを受けようとしていることがはっきりとわかった。でもやっぱりすごく嬉しい。

7時半過ぎ、宴が始まった。最高に懐かしく、楽しい一夜が幕を開けた。

(続く)

※エイコちゃんが浜田駅で写した写真は上手くとれておらず、使用できなかったので、想像図で代用しました。

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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
あら徳田新之助 (ゆみ)
2009-08-31 20:13:05
ついに、再会だね。
そして、いいなー豪邸。
あたしらもいきたいなー(希望)
天の導きストーリーにのっかることができてうれしいっす(泣)






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感動ふたたび! (やすきよ)
2009-08-31 20:24:20
すぐに夫に「読み聞かせ」ながら二人で大うけしましたよ。あのときの感動がもう一度味わえて、いいですねえ~。
暴れん坊将軍の写真も素敵!!白馬に乗った王子様だ~(ちょっと年代ものの写真ですけどね)

かせ兄はたしかにいつも「まるで自分の家みたい」な感じです(笑)それがいいんですけどね。
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将軍参上 (イワシ)
2009-08-31 20:34:32
そのしばらく後で、由美ちゃんも駅に来てくれてたんやね。。。いろいろドラマがありましたな! 明日は豪邸シーン書くよ!
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暴れん坊かい? (かぺ)
2009-08-31 20:36:33
あの時帰りのチケットを出してしまってる事は今知りました。帰り大変だったね。
原住民達はやや緊張気味だったけどやはり3人で待ち受けてたから、きっとこっちゃんよりもゆとりが有ったに違いない!

いよいよ第一夜の宴が始まるね。
ベティ(清の嫁、秘書兼務)の料理はいつも豪華だけどあの日は凄かった!ベティもこっちゃんに会うのをとても楽しみだって言ってたしね。
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ヨレヨレ (iwashi)
2009-08-31 20:38:03
本当、行く前は王子で登場するつもりだったんですが、徹夜明けだは山口で足止めくらうわでヘロヘロになり、救助された人みたいな気持ちでした(笑)

かぺ君がものすごく清邸に馴染んでいて、それがまたなんとも言えずアットホームな感じがしてよかったです。
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よみがえりますな (イワシ)
2009-08-31 20:41:42
書いてたら、あの日の気分がよみがえったよ。駅でかぺ君の顔を見た瞬間、なんともいえない気分になった。あの日の料理は本当に美味しかった! そしてあの日のかぺ君は本当にお酒美味しそうに呑んでたね~。
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まいったな~ (野良猫マリオ)
2009-08-31 21:42:46
うへぇ~!まいったな~楽しすぎる~。なんでこんなに楽しいんだろう。いい物語を読むと主人公になりきってしまうじゃないですか。それですよ!こんなに他人の書いた文章(おっと、含みのある表現)を読んでわくわくしたのは、初めてかも?直木賞もいけるのでは?
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ありがとうございます! (iwasshi)
2009-08-31 21:59:20
マリオさん

身に余るお褒めの言葉、ありがとうございます。マリオさんにブログを楽しんでいただけているのであれば、それは私の文章が面白いのではなく、私が体験したことが面白かったからにちがいありません。こんな体験を自分だけのものにしておくのはもったいない! そんな使命感にもにた気持ちと、浜田のみんなの熱い思いに導かれるようにして書いております!

マリオさんにのせられて、ブログ村にも登録してしまいました(笑)面白く読んでくれる方がひとりでも増えてくれると嬉しいです。でも、翻訳についてはほとんど書いてないので、なんだか申し訳ない気持ちも。。。
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デジカメを携帯 (たら)
2009-08-31 22:48:05
ケータイで撮った二つの画像は、①鉄柵のド・アップ。②一発目の失敗を取り返そうと慌てて走り&笑いながら撮った為、ブレて「シャーッ」となった(光のすじのような)児島君。
いずれもその場で消去。
デジカメ持ってってたのに、カバンから出して
スイッチ入れての時間がもったいなくて結局使わず。28年ぶりに再会した男同士の握手、やっぱ激写しとけば良かったな…。

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肉眼に焼き付ける (iwashi)
2009-08-31 23:17:46
惜しかったね!でもあのときの僕は本当、ヨレヨレプラス緊張しまくりだったから、撮影されて公開されなくてよかったよ(笑)

3人を初めてみた瞬間の映像は、僕の網膜に焼き付いています。一生消えないでしょう。
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