カナリアの水を換え
ラバに餌をやり
1/2時間立ちすくんだ
毎朝
彼はカナリアの水を換え
ラバに餌をやり
それから1/2時間立ちすくんだ
1/2時間立ちすくむつもりはなかった
気がつくと
毎朝必ずそうしていた
それはラバに餌をやった後の一休み、
いわばひとつながりの動作かもしれない
カナリアの水を換えてから
ラバに餌をやる
その間には自然な流れがある
カナリアから
ラバに移ることに
問題は何もない
気がつくと
毎朝必ずそうしていた
彼を驚かせるのは
ラバに餌をやった後の
その一休みだ
でっかい一休み
次にすることはわかっている
はっきりとわかっている
自分自身に食わせることだ
ラバの次は、彼の番だ
だが動けなかった
彼は1/2時間立ちすくんだ―
砂漠を見つめながら
時には酒倉を見つめながら
時には井戸のポンプを見つめながら
それは立ちすくむときに
彼が向いていた方角次第だ
1/2時間立ちすくむことを
楽しみに待つほどになっていた
それは彼の朝の、最高の瞬間だった
カナリアの水を換え
ラバに餌をやり
それから1/2時間立ちすくむ
80/1/15
ホームステッド・ヴァレー、カリフォルニア
サム・シェパード/畑中佳樹訳『モーテル・クロニクルズ』より
この詩がとても好きで、折に触れて読み返す。特に目的もなく、何かを具体的に考えることもなく、ただその場に立ちすくむ。あるいは立ちすくんでしまう――、誰しもが経験するであろうそんな感覚が、詩の中に見事に表されている。畑中さんの翻訳もとてもいい。東海林さだお的な描写の細かさもいい。
こういう風に人がわけもなく立ちすくんでしまう場所は、広大な景色や光景が眼前に広がるところがふさわしい。静かな場所だ。悲しいことがあったわけでも、寂しいからでもない。特別に嬉しいことがあったわけでも、暇なわけでもない。理由なんてないのだ。ただ、その場に立ちすくむ。目の前のものを眺める。意味もなく海や空を眺めたくなるのと、同じ気持ちかもしれない。
日差しを浴びるのが気持ちよくて、僕も夏場はよく公園で立ちすくんだり、ゆっくり同じところをぐるぐる歩き回ったりする。考え事をしているといえばしているのだけど、そよ風と木々の葉がこすれる音、太陽の光の中にあって、すぐに頭の中は空っぽになる。時間の流れがとてもゆっくりと感じられる。そんな時間がとても好きなのだ。
広々とした公園の
人気のない場所に行き
ジョギングして
1/2時間立ちすくんだ
と、そんな感じなのだ。そしてそういうときに、この詩のことをよく思い出すのだ。彼が毎朝、立ちすくみながら何を考えていたのかはわからない。だけど、彼の気持ちはよくわかるような気がする。
ラバに餌をやり
1/2時間立ちすくんだ
毎朝
彼はカナリアの水を換え
ラバに餌をやり
それから1/2時間立ちすくんだ
1/2時間立ちすくむつもりはなかった
気がつくと
毎朝必ずそうしていた
それはラバに餌をやった後の一休み、
いわばひとつながりの動作かもしれない
カナリアの水を換えてから
ラバに餌をやる
その間には自然な流れがある
カナリアから
ラバに移ることに
問題は何もない
気がつくと
毎朝必ずそうしていた
彼を驚かせるのは
ラバに餌をやった後の
その一休みだ
でっかい一休み
次にすることはわかっている
はっきりとわかっている
自分自身に食わせることだ
ラバの次は、彼の番だ
だが動けなかった
彼は1/2時間立ちすくんだ―
砂漠を見つめながら
時には酒倉を見つめながら
時には井戸のポンプを見つめながら
それは立ちすくむときに
彼が向いていた方角次第だ
1/2時間立ちすくむことを
楽しみに待つほどになっていた
それは彼の朝の、最高の瞬間だった
カナリアの水を換え
ラバに餌をやり
それから1/2時間立ちすくむ
80/1/15
ホームステッド・ヴァレー、カリフォルニア
サム・シェパード/畑中佳樹訳『モーテル・クロニクルズ』より
この詩がとても好きで、折に触れて読み返す。特に目的もなく、何かを具体的に考えることもなく、ただその場に立ちすくむ。あるいは立ちすくんでしまう――、誰しもが経験するであろうそんな感覚が、詩の中に見事に表されている。畑中さんの翻訳もとてもいい。東海林さだお的な描写の細かさもいい。
こういう風に人がわけもなく立ちすくんでしまう場所は、広大な景色や光景が眼前に広がるところがふさわしい。静かな場所だ。悲しいことがあったわけでも、寂しいからでもない。特別に嬉しいことがあったわけでも、暇なわけでもない。理由なんてないのだ。ただ、その場に立ちすくむ。目の前のものを眺める。意味もなく海や空を眺めたくなるのと、同じ気持ちかもしれない。
日差しを浴びるのが気持ちよくて、僕も夏場はよく公園で立ちすくんだり、ゆっくり同じところをぐるぐる歩き回ったりする。考え事をしているといえばしているのだけど、そよ風と木々の葉がこすれる音、太陽の光の中にあって、すぐに頭の中は空っぽになる。時間の流れがとてもゆっくりと感じられる。そんな時間がとても好きなのだ。
広々とした公園の
人気のない場所に行き
ジョギングして
1/2時間立ちすくんだ
と、そんな感じなのだ。そしてそういうときに、この詩のことをよく思い出すのだ。彼が毎朝、立ちすくみながら何を考えていたのかはわからない。だけど、彼の気持ちはよくわかるような気がする。