イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

第2回翻訳百景ミニイベントに参加

2012年07月04日 01時59分28秒 | Weblog
6/28(木)文芸翻訳者、越前敏弥氏が主催する、「第2回翻訳百景ミニイベント」に参加してきました。
第1回のゲストは、この日も一般参加された夏目大氏。今回のゲストはフロストシリーズでもお馴染みの芹澤恵氏です。実はお三方とも、私がフェローアカデミーで師事し、お世話になった方々ばかり。これは万障を繰り合わせても行くしかないと申し込みました。

ずいぶんと出来の悪い生徒だった私ですが、今でもよく師の言葉を思い出します。越前さんと芹澤さんのトークを聞いていると、当時の授業での光景が浮かんできました。フリーになってもうすぐ丸4年ですが、ここ2年半は学校には通っていません。1年半までは越前先生のクラスと田村義進先生のクラスに通っていたのですが、どうしても仕事の方に注力せざるを得なくなり、あまり真面目に通えず、フィクション翻訳からも見事に脱落(その結果、ノンフィクション専門をウリにしたことは、方向性としては正解だったと思いますが)。中途半端に勉強から撤退してしまったことが、ずっと心残りでした。

いざ仕事を始めると、特に私のような自己管理能力が低いタイプの人間は、毎週や隔週のペースで通学するのは難しい。そんななか、今回のイベントの内容は基本的に一回終了で、なおかつ、第一線の翻訳者がそれまでの過去の仕事を振り返るというもので、経験年数の浅い私のような翻訳者にとって、とても興味が持てるものでした。越前先生の話は、実践的な翻訳のコツもとてもためになったし、駆け出しの頃のお話もとても印象に残りました。現在、プロレスでいうところのメインイベンターをつとめている翻訳者でも、10年、15年前には新人の時代があり、とてつもない苦労をされている。10年という年月は、長くもあり、短くもある。才能があり、周囲にも恵まれ、弛まぬ努力を重ねて着実に成長を続ければ、一流と呼ばれる域に達しうる。一方、流されてしまえば、文字通り十年一日のごとし、凡庸な技量のまま停滞することも十分にあり得る。自分にとっても、今後の10年は職業人として本当の勝負のとき。停滞するか、成長できるか、それはすべて自分にかかっているのです。

様々な刺激を得られた、素晴らしいイベントでした。今後も継続的な開催が予定されていますので、翻訳に興味のある方は、ぜひ参加してみてください。詳しくは越前さんのブログ「翻訳百景」を参照。

その後の懇親会では、夏目さんはもちろん、久し振りに越前さん、芹澤さんとお話することができました。すっかり御無沙汰しているにもかかわらず、私のことを覚えていて、温かく接してくださって感激しました。本当にありがとうございました。

翌日にも、出版翻訳者の集まりがあり、諸先輩とお話する機会がありました。私のような未熟な人間に、こちらが恐縮してしまうほど謙虚で気配りをしてくださる大先輩もいて、嬉しいと同時に、面はゆい気持ちにもなりました。サッカーで言えば、自分が日本代表に選ばれることはあまりにも非現実的なことなのでその凄さがわからないけど、合宿で代表と練習試合をする大学生のチームの凄さはわりとリアルに想像できます。自分がそんな大学生チームの一員なったような、不思議な感覚がありました。尊敬できる同業者の方々とご一緒し、多少なりとも認知してもらえるというのは、本当にありがたく、大きな励ましとパワーをもらたしてくれるものなのだと実感しました。一流と呼ばれる人は、押し並べて謙虚で、気配りを忘れない。実るほどに頭を垂れる大先輩ばかりです。私のような新米がとれるせめてもの態度は、身の程をわきまえて、場違いな振る舞いをしないことでした(お前が言うなというツッコミが聞こえてきそうですが、スルーさせてください)。おそらく意図的ではないにせよ、一部の大先輩からは、「自分と同じ土俵で話をするには、お前はまだ10年早い」的なオーラを感じることもあります。私はこちらの態度も正しいと思います。それによって、自分の修行の足り無さを痛感できるからです。先人の縄張りに、土足で上がりこんではいけない。自分の過去の経験からも、このような洗礼は本当に貴重だと思います。

でも、勘違いをしてはいけません。諸先輩方と自分には、とてつもなく大きな差があるのだし、その差は、地道に仕事を積み重ね、日々成長していくことでしか埋まらないのです。力量が伴っていなければ、誰と会っても真に会うことはできない。これからは今までより積極的に多くの人と会いたいと思っていますが、それだけは忘れないようにしたいと思っています。

今回の越前さんのイベントを始め、文芸翻訳の世界では、意義深いイベントや活動が行われています。同業者の仕事そのものから学び合おうとうする姿勢は、分野を問わずすべての翻訳者が見習うべきものだと思います。ミステリやロマンスを訳す機会は私にはないでしょうが、ノンフィクションもまた文芸です。これからはフィクション翻訳から積極的に学び、自分の芸を高めていきたいです。